ある学級の出会い~インクルーシブ教育を支えるヘルプシーキングとケアリング~(3)
今回、ベースにするのは、現場の先生方が一度はぶつかる「子どもたちに合理的配慮が伝わらない」「インクルーシブ教育って、結局は大人目線の理想論じゃないか?」というリアルな葛藤です。
まずは教室をひとつにしようと無理を重ねるのをやめましょう。
教師がヘルプシーキング(援助要請)とケアリング(頼り合える関係)を意識するために必要な視点を提案します。
埼玉県公立小学校 石井 雄大
ひとつにしようとしすぎる学級のしんどさ
インクルーシブ教育という言葉が先行する中で、多くの真面目な担任が「全員を同じ教室で、同じように過ごさせなければならない」という呪縛にとらわれています。
しかし、現在の学校現場における不適応の一番の要因は、子どもたちの間に存在する成熟度の違いが、一律の仕組みと合わなくなっていることです。
特性を理由に諦めて目をつぶることは、教師としての逃げになってしまいます。しかし、だからといって力づくで全員を一つの型にはめ込もうとすれば、必ずどこかでゆがみが生まれます。
今、教室の中で不適応を起こしている子は、決して困った子なのではありません。むしろ、均質性を前提としたいまの教室の限界や課題を、身をもって示してくれている存在なのです。
大切なのは、ひとつの箱、ひとつのやり方に全員を押し込めようとすること自体に、しんどさがあるという事実を、教師がまず受け入れることです。
大人のきれい事で配慮を片付けるのではなく、一人の教師として目の前の子どもの現実と誠実に向き合うことから、真の包摂は始まります。
教師に求められる援助要請のスキル
では、成長差が大きく、ひとつのやり方が通用しない集団を前に、担任はどうすればよいのでしょうか。答えは、担任一人で抱え込まないことです。
クラスの中に不適応が起こることを前提とし、教師自身が「いろいろな人を頼ってもいいんだ」という認識を強く持つ必要があります。つまり、教師側に他の先生や外部に頼る援助要請スキルが求められているのです。
具体的には、自分自身が困ったときにアクセスできる頼れる人リストの作成をおすすめします。管理職や同学年の主任、特別支援教諭、スクールカウンセラーなど、誰に、どのタイミングで、何を頼めるのかを明確にしておくのです。
周囲を上手に巻き込める教師こそが、結果として子どもたちを重層的に守ることができます。職員室を開かれた場所にすること、それが多様性を包摂する教室づくりのバックヤードとなります。
頼り合える関係性を教室につくる
教師が周囲に「助けて」と言える姿は、そのまま子どもたちのモデルになります。包摂を実現できる集団とは、教師が全員を完璧に管理する集団ではなく、子どもたち自身が「誰かに頼ってもいいんだ」という安心感を共有している集団です。
「あの子だけずるい」という不公平感は、大人が裏でこっそりと特別な配慮をし、見えにくくするから生まれます。そうではなく、「人にはそれぞれ得意なことと、今練習している段階のことがある。だから、みんなで違うステップを踏むし、お互いに頼り合っていいんだよ」というメッセージを、教室の中でオープンに価値づけしていくのです。
不適応を排除するのではなく、それが起きたときにどうやって周りのリソースを使って再構築するかを子どもたちと共に考える。この頼る手順をクラスの文化に落とし込むことで、子どもたちの成長差は分断の理由ではなく、互いを補い合うためのリソースへと変容していきます。
一人のスーパーティーチャーが力で統率する時代は終わりました。これからの包摂とは、教師がハブとなり、学校内外のつながりを紡ぎながら、誰もが「助けて」と言い合えるしなやかな空間を、教室の中にデザインしていくことなのです。

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