2026.06.27
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『四月の余白』 心に刺さることだらけの本作について、吉田恵輔監督にインタビュー

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。
今回は、元半グレで元受刑者の男が、更生施設で子どもたちと向き合う姿を描いた映画『四月の余白』をご紹介します。吉田恵輔監督に、作品に込めた思いや自身の体験、教育へのまなざしについてうかがいました。

心に刺さる危険な作品

 

(C)2026 N.R.E

『四月の余白』は、いろいろと心に刺さって抜けなくなる危険な作品であり、教育関係者にはぜひとも観ていただきたい映画である。

主人公は一ノ瀬ワタルが演じる西健吾という男。
映画が始まると、終電間近の繁華街でたむろしている若い子たちに、帰りなさいと促す西の姿が見える。当然、なんだテメェといきり立つ若者たち。でも恐れることなく、相対する西の姿。
そのあと車に乗ったいかにも怖いお兄さんと話す西。
この冒頭の数分だけで、西が只者ではないこと、暴力団関係者と親しいということが分かる。彼自身もおそらく同じようなことをしていた人間であり、だからこそ自分と同じ道を歩ませたくないという気持ちが強いのかもしれないと察せてしまう。

そうなのだ。西はかつて元半グレで元受刑者でもある。
そんな自分の過去を反省し、今はそういった過去の経験や過ちから学んだことを生かし、更生施設「みらいの里」を引き継いでいる。学校や家庭では扱いきれなくなった子どもたちを受け入れて、彼らの更生に一役買っているのだ。

そんな西と、彼がすぐに見抜いた狂気をはらんだ中学生・海斗との出会いと、海斗の心の変化が本作では生々しくつづられていく。

吉田監督自身の体験が物語のベースに

 

(C)2026 N.R.E

実はこの物語のベースとなっているのが、本作の監督・吉田恵輔氏の実体験。そう、監督はかつて“やんちゃ”だったのだそう。
吉田監督は、自身の経験についてこう語る。

「自分自身をモデルにしている部分もあるし、周りにいた友人だったり、先輩だったりをモデルにした部分もあります。例えば映画の中で学校が水浸しになる事件というのがありましたが、あれは自分が文化祭の当日に起きた事件がベースになっています。1週間くらいかけてみんなで作ったダンボール製のいろいろなモノが全部水でベチャベチャになって。初めての文化祭は片付けだったっていう。だから2年生になって文化祭が普通に開催された時は、文化祭が普通に開催されることがあるんだって(笑)感動してしまったりして。

とにかく地域一帯が荒れていたというか、中学生なのにタバコを吸っているのも当たり前だったし、コミュニティが狭いから、それが標準の出来事だと思っていたんですよ。大学行った人なんて、自分も含めて誰もいない。地元では当時、大学自体が都市伝説化していて、政府の陰謀で本当は大学なんてないんじゃないかとか(爆笑)、本気でそう思ってましたから。

30人くらい仲間がいましたが、高校を卒業したのは自分も含めて4人しかいなかったし。でもそれが特殊な状況だったと知ったのは大人になってから。監督になっていろいろ語るうちに、自分が特殊な人生を歩んできたことが分かって、その異端児的な部分をテーマに映画にしてみたいって、思うようになっていったんです」

だからなのだろう。同じ不良たちを描くにしても『四月の余白』に出てくる人物たちはやけに生々しい。神経がヒリヒリするような、本当にちょっとでも刺激を与えたら爆発するみたいな、危険性を感じさせる。

実際、吉田監督は世に言う不良青春映画みたいなのを観ても「自分が観てきた世界とは違っていて、少しかっこよく描かれているな」と感じていたそうだ。

完璧ではない大人だから届く言葉がある

 

『四月の余白』について語る吉田恵輔監督

「当時、大人の言うこと自体、絶対に信じないというか、なんか終わっている人たちだみたいに思っていたんです。イケてる先輩たちが真実を持っていて、先生や親にはダメなイメージしかなかった。そう思ってしまっているから、その人たちに何を言われてもなかなか聞かない。

ダメだと思われる人たちしかいない状況だと止めるのはなかなか難しい。また不良の中でもちゃんとしている人たちがいればいいんですが、本当に悪い、ガチガチに悪い人に憧れちゃったりすると、もう取り返しがつかなくなってしまうのだと思います」

そういう意味では、吉田監督は西という人物がとてもグレーだと捉えているそう。

「グレーというのは、本当に悪い人でもなく、かといって天使のように真っ白なわけでもない。でもこういうグレーな存在が、僕が育った時代には周りにたくさんいた気がします。ちゃんと欠点もあって、人間としてダメな部分もちゃんと愛せたりする。そういう人たちが言うことって、他の大人たちとは違う。調子に乗って、少しはみだした子たちから無理に何かをしゃべらせようとはしないしね」

西という男も、不良たちのために体を張って頑張る様は、まるでヒーローのような感じすらある。だが、マスコミなどに取り上げられたりすると、ついつい調子に乗ってしまったりと、短所もたくさん併せ持つ。それが実に人間臭くて愛しい。

「人間って誰にでも長所があり短所もあるわけでしょ。完璧な人間なんていないわけで。そういう欠点があるほどシンパシーを感じる部分もあると思うんです。振り返ってみると自分の映画には完璧な人って本当に出てこないですね。欠点が見える人の方が多いかも」

学校と親、それぞれの見え方

 

(C)2026 N.R.E

ちなみにこの映画のために、特に学校に取材に行くことはしなかったそうだが、中学生の子どもを持つ、いわゆるママ友とはよく話をして、いろいろな先生に対する愚痴などを聞いたそう。

「でも先生が生徒たち全員に手が回らなくても、それは仕方ないと思いますよ。ひとりで30〜40人の子どもを受け持つというのは、やはりどうしたって無理が生じる。でも親としては、自分の子どもをちゃんと見ていてほしいという欲求はあるわけで、結局その愚痴を肴に飲むことになる。

ただ俺が客観的に観て思うのは、昔に比べて子どもと距離を置く先生が増えているとは思いますね。それが踏み込まれていた世代の親から観ると、不満のひとつになってしまう。俺たちの世代は結構お節介なまでに先生が介入してきたし」

順位付けを避ける教育への違和感

「あと今って順位付けをしたがらないでしょう。でも現実世界では順位付けばかり。それは子どもの頃から経験させるべきではないかと俺は思います。本当はいろいろな部分で一等賞があっていい。

例えば勉強は全然ダメだけど足が速いとか、絵が上手だとか、誰よりもかわいいとか、ギャグが面白いとか。自分が何に向いてて、何で注目を浴びられるのか。そういう体験が学生時代はすごく大切だと思います。

優越感というのも教育には大切なんじゃないでしょうかね。学校というコミュニティの中で、自分がどういうポジションなのかを知ることも大事ですよ。だってそこで目立たない、何の取り柄もないとなるなら、それは多分、社会に出ても同じことになる。それを打破するための学生生活ではないのかなと。

逆に社会に出てから、自分の欠点に気づかされたら、それこそ立ち直れないでしょ。でも現実はどんどん平均化されていて、自分の欠点にも気づかせなくなっているのが、今の教育な気がするんです。そこが俺はすごく不安」

AI時代に必要な不完全な大人

 

(C)2026 N.R.E

だけどそういうことをChatGPTに話したとしても、多分、否定はしてこないだろうしね。優しく寄り添うだけ。寄り添うだけで明日があるよって言われても。

俺の時代はアメとムチが明確にあって、ムチの部分、罰が嫌だから頑張るし、アメが欲しいから頑張るみたいなのがあったんですよ。もちろん自分だって体罰は良くないと思う。ただ罰を与えられなければ、嫌なことをしなくて済むのならサボるのが人間ですから。ご褒美のために頑張ることは悪くない。でもそういうことも口にしづらい空気感はありますよね」

そう、この映画は、そういう直接には描かれていないようなことまで、本当にいろいろと考えさせてくれるのである。説明しすぎず、最後のところはお客さんに委ねてくれている。

「映画自体、明確な答えというのを用意していないんですよ。ただ今の教育問題も含めて、こういうさまざまな問題に目を向けましょうというのが、今回の作品。自分も子どもの頃に海斗みたいに衝動を抱えてたけど、それが何だったのか、大人になっても説明できないんです。

当時は先生から殴られたり蹴られたりしましたけど、でも今、それを恨んだりはしてませんからね。言い方が難しいですが、結局、なんらかの罰を与えるとか強要するとかにしても、そこに愛があるか、自分の怒りやストレスで発散したものかでは全然違う。

愛って何かという定義は難しいけれど、愛とかリスペクトを持って接すれば、ある程度の理解は絶対に得られると思うんです。

ただあと皆さんに言いたいのは、これからの子どもたちは先生よりも親よりもChatGPTを間違いなく信じるようになる。これは絶対そう。あれが絶対的な存在になると思う。もちろんたまに使うのはいいけれど、人間には曖昧な部分も必ずあるし、たまに間違えることも人間。不完全が当たり前だってことをちゃんと伝えないと本当に大変なことになると思います。

そういうことも含めて、この映画が何かを考えるキッカケになってくれたらうれしいですね」



※吉田恵輔監督の「吉」は、正しくは下の横棒が長い字です。

Movie Data

監督・脚本:吉田恵輔
出演:一ノ瀬ワタル、夏帆、上阪隼人、篠原篤、占部房子ほか
配給・制作プロダクション:アークエンタテインメント
(C)2026 N.R.E
6月26日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
『四月の余白』公式サイト

Story

元半グレで刑務所に投獄された経験も持つ西健吾は、海の見える地方都市で全寮制の更生施設「みらいの里」を運営していた。自分の経験を糧に、道を踏み外しかけていた子どもたちに体当たりでぶつかる西。だが時には体罰をも取り入れる更生方針は、他の教育関係者からは批判の対象になっていた。そんな中、西は中学教師の冬子から、手に負えない生徒の海斗と、すでに一度鑑別所に入った悠の扱いについて相談される。悠はまだしも、海斗の狂気を見抜いた西は、海斗の親の承諾を受けて「みらいの里」で預かると決めたが、海斗は施設である事件を起こしてしまい…。

文:横森文

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横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。
2022年4月より、目黒学園で戯曲教室を展開。

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