エビデンスに基づいた教育をどう考えるか
先日、猪原敬介さんの『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』という本を読みました。本書はエビデンスに基づいた読書の方法論や効果について述べたものです。
学校現場に限らず、さまざまな場面で「根拠は?」とエビデンスを求められる機会があると思います。今回は教育におけるエビデンスについて考えていきます。
千代田区立九段中等教育学校 廣瀨 紘太郎
エビデンスが求められる背景・意義
そもそも、なぜ教育現場で「エビデンス」が叫ばれるようになったのでしょうか。それは、これまでの学校現場が、よくも悪くも教師個人の経験や勘という、ブラックボックス化されたものに頼りすぎていたことへの反省があるからだと思います。
「私の経験上、このやり方が絶対に正しい」「昔から我が校ではこうやってきたから」。こうした言葉は、一度は経験したことがあるかもしれません。一見するとベテランの頼れる知恵のように思えます。
しかし、時にそれは、時代遅れになった古い慣習や、確実性のない思い込みを正当化するための免罪符になってしまう危険性があります。
教師自身の限られた成功体験だけをよりどころにし、旧態依然とした取り組みを無批判に繰り返していくことは、決して子どもたちにとって最善の選択とは言えません。
だからこそ、客観的なデータ(エビデンス)は、私たちが陥りがちな思い込みから脱却し、視野を広げてくれるものとして、教育実践において重要な役割を持っています。
エビデンスを鵜呑みにする危険性
ですが、ここで少し立ち止まって考えてみましょう。最近、学校現場で「その実践のエビデンスは何ですか?」という言葉を本当によく耳にします。
テストの平均点やアンケートのグラフといった分かりやすい数値が示されると、私たちはつい「なるほど、それが正解か」と納得してしまいそうになります。
エビデンスという言葉は、現代の教育現場において、唱えれば誰もが納得する一種のマジックワード(魔法の呪文)のようになっていないでしょうか。
よく設計された調査から得られたデータは、確かに一見すると客観的な事実のように見えます。
しかし、そのきれいに整えられた数字を鵜呑みにし、自分の頭で考えることをやめてしまったら、それこそがエビデンスに踊らされている状態だと言えます。
エビデンスとして提示されるものもまた、複雑な現実のほんの一部分を切り取った、恣意的で主観的なものだと思うのです。
エビデンスを吟味する大切さ
目の前の教室にいるのは、一人ひとり異なる固有の子どもたちです。効果があるというデータが、明日、あなたのクラスの目の前にいるAさんに100%通用するという保証はどこにもありません。
さらに言えば、そのデータを集めるためのアンケートの設問やテストの形式といった成果指標自体、誰かの主観的な意図によって切り取られたものです。
たとえば「授業は楽しかったですか?」という問いに、子どもたちが先生に少し気を遣って丸をつけたデータかもしれません。
私たちは客観的な事実を見ているつもりで、実は誰かが作ったレトリックに引き寄せられているだけかもしれません。
だからこそ、出されたデータをただ受け入れるのではなく、一歩引いて「本当にそうか?」と吟味する批判的思考が、今の私たちには必要です。
エビデンスと自由裁量の間で
データに100%頼ることはできません。だからこそ、私たち教師には、目の前の子どもにとって「何が本当に望ましいか」を自らの頭で悩み、判断する自由裁量が残されています。
唯一解がないからこそ、自分で考えて、目の前の子どもに合わせて工夫し続けること。それはデータに縛られるプレッシャーなどではなく、私たちがこの仕事をしていく上での一番のおもしろさであり、醍醐味ではないでしょうか。
しかし同時に、データや客観的な根拠をまったく取り入れないという極端な姿勢も、また別の危うさをはらんでいます。
エビデンスを完全に遠ざけてしまえば、それは独断論や、旧態依然とした思い込みの世界へ逆戻りすることを意味します。
エビデンスとうまく付き合いながら日々の実践を積み上げていきたいものです。

廣瀨 紘太郎(ひろせ こうたろう)
千代田区立九段中等教育学校
「活動あって学びあり」をモットーに、日々研究を重ねています。特に国語科教育では、アダプテーション(翻案)の手法を取り入れた授業を実践し、生徒の深い学びを目指しています。
教科の枠を超えて、多様な視点からものごとを捉え、表面的なことだけでなく、その背後にある本質に迫ることを大切にしながらよりよい教育のあり方を皆さんとともに探究していきたいです。
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