2025.11.18
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子どもたちと作る「ストーン・スープ」 ― モンテッソーリ教育に息づく協働の学び

アメリカ・モンタナ州のボーズマンという町で、モンテッソーリ保育士として働くかたわら、大学院でも学びを深めています。
今年は今のところ暖冬で、まだ数回しか雪が降っておらず、紅葉を楽しんでいます。
今回は、ボーズマン・モンテッソーリ保育園での「ストーン・スープ」というイベントをつづります。

ボーズマン・モンテッソーリ保育士 城所 麻紀子

秋のイベントシーズン

ボーズマン・モンテッソーリでは、行事はあまり多くなく、年に数回程度です。
ただ、多くがこの時期に重なっています。
この時期のアメリカは、ハロウィーンが終わり、少しずつクリスマスムードも漂い始めるころです。子どもたちも大人も、なんだかそわそわしていて、クラス全体の熱量が高まっています。
イベントへの期待感と季節の高揚感が重なり、教室には特別な雰囲気が生まれています。

ストーン・スープの民話

先日ハロウィーンを終え、11月14日には「ストーン・スープ」という行事が控えています。私はそれまで聞いたことがなかったのですが、世界の各地に「ストーン・スープ」という、協働と共有の価値を教える民話があります。

話は、こんな内容です。
空腹の旅人がある村に到着し、村人たちに食べ物を分けてもらえるようお願いしますが、村人たちは拒みます。そこで、旅人は広場で火を起こし、鍋に石を入れて、石のスープを作り始めます。興味を持った少女が近づくと、旅人は「にんじんがあればもっとおいしくなる」と提案します。少女がにんじんを持ってくると、旅人は次に「玉ねぎがあれば」と言い、村人たちが次々と食材を持ち寄ります。最終的に、野菜や肉がたっぷり入った豪華なスープが完成し、村全体が満腹になる、というような物語です。

保育園では、この民話にちなんで、保護者が野菜を持ち寄り、先生と子どもたちみんなでスープを作って、保護者と子どもたちにふるまうというイベントを行います。

ボーズマン・モンテッソーリでは決められたマニュアルはなく、主任の先生がイベントを仕切ります。そのため、先生によって毎年、熱の入れようが違います。イベントに熱心な先生もいれば、イベントよりも普段の生活を重んじる先生もいて、本当にさまざまです。

準備期間の様子

イベントのだいたい2週間前から準備が始まります。子どもたちは教室を飾るデコレーションやテーブルマットを作ります。テーブルマットは秋らしく、オレンジや黄色、茶色を中心とした色使いが多く、かぼちゃなどの絵を描く子どもたちもいます。

当然ですが、アートが好きな子は熱心に取り組み、あまり興味がない子はそれほど熱心ではありません。でも、それでいいのです。経験豊富な先生から「保護者にとっては、整った絵より整っていない絵のほうが、本人が描いたという証拠として人気がある」と聞いたとき、私は「なるほど!素敵だなあ」と思いました。完璧さではなく、子どもの個性や成長の過程を大切にする考え方が、ここにも表れています。

これはまさにモンテッソーリ教育の、「子ども一人ひとりのペースや興味を尊重し、結果よりも過程を大切にする姿勢」が、イベントの準備段階からすでに実践されている例といえます。

ストーン・スープの話を熟知している子どもたちも少なくありませんが、この時期、何度も本を読んでいます。

保護者への呼びかけと協力

保護者には、アプリを通じて、できる範囲で野菜の持ち寄りをお願いしています。

モンタナの田舎という土地柄、家庭菜園をしている家庭も多く、庭で採れたかぼちゃやじゃがいも、にんじん、玉ねぎなど、毎年スープに使い切れないほどの野菜が集まります。子どもたちにとって、土のついた野菜は見慣れた日常の一部です。
「うちのかぼちゃ持ってきたよ」「このじゃがいも、夏に採ったやつ」と、自分の家で育てて保管していた野菜をうれしそうに持ってきます。

東京から来た私にとっては、こうした自給自足の文化や、地域で育てたものを分かち合う姿勢はとても新鮮です。保護者の協力的な姿勢が、まさにストーン・スープの物語そのものを体現しており、子どもたちは自然とその価値観を学んでいるのでしょう。

このイベントは、モンテッソーリ教育が大切にする「実生活での学び」と「地域とのつながり」を同時に体現しています。野菜を洗ったり切ったり、異年齢の子どもたちの協働、そして地域全体で子どもを育てる姿勢。ストーン・スープは、まさにモンテッソーリ教育の理念が息づくイベントです。

当日が楽しみです。子どもたちがどんな表情でスープを作り、味わうのか、今からワクワクしています。

城所 麻紀子(きどころ まきこ)

ボーズマン・モンテッソーリ保育士、元サンディエゴ日本人向け補習校講師、モンタナ州立大学院家族消費者科学科 修士課程


2020年からアメリカのモンタナ州の人口5万人の町で、モンテッソーリ保育園の保育士をしています。
アメリカといっても、白人約90%、アジア人約2%(最近増えました!)という環境です。
あまり日本人の方に知られていない、アメリカの田舎での教育や生活の様子などを共有できたらいいなあと思っています。

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