掲示物に命を与える 〜何気なく掲示していた自己紹介ワークシートを生き生きさせる〜(2)
私が掲示物を作成する時は「効果的で変動的な掲示物」を目指しています。
「効果的で変動的な掲示物」とはどのようなものでしょうか。
今回は、ほとんどの先生方が新年度最初に使うあのワークシートに命を与えるお話です。
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭 石川 雄介
ただ掲示されるだけだったあの子
みなさんは新年度最初に「自己紹介」となるワークシートを書かせたことはないでしょうか。「自分の誕生日・好きな食べ物やテレビ番組・自分の似顔絵・みんなに一言」などを記入するあの自己紹介ワークシートです。年度最初に自己紹介として記入させることが多いと思います。そして、自己紹介ワークシートを記入した後は児童一人ひとりの掲示ファイルに入れていると思います。
ストップです。ここです。ここが掲示物を生かしきれていないポイントになります。
記入した後に児童一人ひとりの掲示ファイルに入れるこの作業です。正しくは、「ファイルに入れるだけの作業」になっていることです。
掲示した自己紹介ワークシートは誰が見るのでしょうか。児童が他の人のワークシートを眺める姿はあると思います。しかし、他の人がどんなことを書いているのか内容まで一生懸命読んでいるでしょうか。自己紹介の似顔絵などを眺めて終わっていないでしょうか。または、一度見るともう見ることはないのではないでしょうか。このままだと、児童一人ひとりの掲示ファイルを埋めるだけの作業になってしまいます。
この自己紹介ワークシートをただ掲示するだけでなく、前回の執筆でお話した「思わず見てしまう掲示物」に変身させ、命を与えたいと考えました。
掲示物に命を与える時の思考
まず、掲示物に命を与えるときの私の思考を紹介します。
私が掲示物に命を与えるときに最初に考えることは、「今から取り組むこの掲示は意味・目的があるのか」ということです。何のために掲示するのかを考えます。「学校・学年で統一されているから」「何かを伝えたいから」「壁を埋めたいから」「学級経営を活かしたいから」などの理由があります。まず、掲示する理由がしっかりあるのかないのかを考え、掲示の必要性を見出します。
次に「どうやったら児童が見てくれるのか、見てしまうのか」という点を考えます。「興味を持たせる方法・仕掛け」です。
先生に「見て」と言われなくても自分から見にいってしまう仕掛けを考えます。仕掛けには、「毎日チェックしなければならない取り組み」「何かを記入・移動させる取り組み」「何かを日々付け加えている取り組み」などの方法があります。
今回の自己紹介ワークシートの場合では、児童が一番好んで取り組む「遊び化・ゲーム化」が効果的です。掲示物を活用した取り組みを遊び化することで児童の興味をぐんっと惹きつけることができます。
次に考えるのは、「掲示物のルール」です。誰もが守れる簡単なルールを作成します。例えば、「同じ物を探す」「一日一つしか増やさない」「終わったら移動させる」など、掲示物の活用法によって様々です。
次に考えるのは、「掲示物の見た目」です。見た目がきれいだったりかわいらしかったりすると思わず見てしまいます。掲示物の大きさ、色使い、貼り方、形などを決めます。教室に常時掲示されているものとは違う見た目にすると、特別目立って児童の興味を惹きつけられます。
「掲示物の意味・目的」「興味の持たせ方」「ルール」「見た目」を決め、最後に考えることは、「掲示物を説明するタイミング」です。新しい掲示物を貼り、普通に説明を始めるのはもったいないです。
まずは児童たちに「なんだこの掲示物は?」と言わせる仕掛けが大切です。「?」が生まれることは興味を持った証拠になります。そのためには、新しい掲示物を貼ってもすぐには説明をせず、「説明するから待っててね」や「先生も何なのか知らないな…」と数日間もったいぶります。「ねぇ、先生あれ何なの?」「めっちゃ気になる」などの児童からの質問に数日耐えます。そうすると児童の「?」は続き、いざ説明するときに「待ってました」感が生まれます。
しかし、長期間もったいぶりすぎると興味が薄れてしまうので、日数には気を付けた方がいいです。物にもよりますが、2、3日がおすすめです。以前紹介した「Rブック」も同様に、見慣れない小さいノートをこっそりロッカーの上に置いて事前に見せ、興味を惹きつけました。
このように、「意味・目的」「仕掛け」「ルール」「見た目」「説明のタイミング」を考えながら掲示物を作成、または生かそうとしています。こうして私は掲示物に命を与えています。
自己紹介ワークシートを生き生きさせる
それでは自己紹介ワークシートにどのように命を与えたのかを紹介します。
上記の流れのように、まずは「掲示する意味・目的」を考えました。「自分以外の人のことを知ってほしいから」でした。
「興味の持たせ方」は先述したように、「遊び」にすることにしました。まずは、自己紹介ワークシートにある「自分の好きな〇〇」の答えのみを別の小さな紙に書かせました。それを掲示し、「自分と同じ答えを書いている人はいるのか」「あの面白い答えを書いているのは誰なのか」という、「答え探しゲーム」にしました。そうすると、答えを探すためにはワークシートの内容までじっくりと見ないといけません。
「ルール」は、答えが分かっても他の人には教えないことです。
そして「見た目」は、小さい紙を綺麗に一列に並べずに、市松模様の様に貼りました。(自己紹介ワークシートは児童一人ひとりの掲示ファイルに入れます)
最後に「説明するタイミング」です。児童が興味を持ち、「何だこれ」「多分こういうことじゃない?」と話をしているのを横目に2日間もったいぶりました。
結果、児童はこれらの掲示物に興味を持ち、自己紹介ワークシートを隅々まで読んでいました。その中で、「この人あまり話したことはないけど同じものが好きだったんだ」「これを書いた人多分あの人だ」というように、友達について知っていく姿が多くありました。
そしてそれから数日経った頃に、「友達とどちらが早く答えを見つけられるのか競う遊び」や「この答えは誰だったのかを当てる暗記的な遊び」を付け加えました。そうすると、積極的に見ていた児童は素早く答えを見つけたり答えられたりしていました。すると、それに負けじと自己紹介ワークシートを見て暗記を始める児童の姿もありました。
ただの掲示物を効果的で変動的な掲示物へ
これまでは自己紹介ワークシートをただファイルに掲示し、誰にも見られることがありませんでした。しかし、この取り組みをすることで驚くほどにみんながワークシートに興味を持ち、群がって見ていました。自己紹介ワークシート自身が一番驚いていたと思います。このように、掲示物は掲示される、貼られるだけでなく、児童に見られる意味を教師に見出されることによって命を持ち、生き生きとしてきます。さらに児童たちに見られることによって、児童たちからも命を与えられ、ますます輝き出します。
忘れてはいけないことは、最初に取り上げた「掲示物の意味・目的」を達成できたかどうかです。ただ面白い掲示物にするのではなく、掲示する理由を忘れてはいけません。今回の取り組みでは、「自分との共通点を知る」「他者について知る、興味を持つ」ことができました。
また、私の教育テーマである「合い」に合わせた取り組みにもなっています。自分と好きなものが合っていることを知る、他の人の好きなものに合わせる、他者と心を合わせる(他者理解)という目的にも繋げています。私の教育テーマを自然と児童に伝える効果的な掲示物となっています。
さらに、新しく小さな紙に別の「好きな◯◯」を書かせて貼り替えれば、再度楽しむことができ、さらに周りの人について理解と興味を深めていきます。これが掲示物に変化をもたらせる変動的な掲示物です。
そして、「見た目」についても変化を起こしました。先の紹介では市松模様でしたが、そこから学級の数字に型取って並べました。並べ方を変動させることも、児童の興味を再燃させることに繋がります。
そのワークシートにも可能性は無限大
何気なくやっていた掲示ワークシートも工夫次第で命を与えられ、教師の教育テーマを伝える一部にすることができます。
今、あなたが児童ファイルに掲示しているそのワークシートも、取り組み次第で生き生きとさせることができます。そこに可能性は無限大に詰まっています。その可能性を見出すことに、何だかワクワクしませんか?
次回は、さらにこの自己紹介ワークシートを活用した学級経営に関する掲示物を紹介したいと思います。「また自己紹介ワークシートのお話をするのか」と思われるかもしれませんが、可能性は無限大です。面白さがそこに詰まっているのです。
今、私の教室では、彼らは「掲示物として生きていく意味」を与えられて喜んでおります。
何卒

石川 雄介(いしかわ ゆうすけ)
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭
沖縄県の小学校教員として10年以上、子どもも担任も楽しむ学級づくりや授業づくりを研究しています。
私のモットーは「合いのある学級づくり」で、特に『思い合い、支え合い、学び合い』に重きを置いています。
また、授業や生活の中で他者尊重の心を育む仕掛けや子どもの興味を惹くアイディアを考えるのが大好きです。
効果的な掲示物の作成や子どもも担任も楽しめるアイディアなど、多種多様な教育場面について伝えていきたいと思います。
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