2024.05.15
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「振り返り」に値する中味(授業)が大事 子どもが主語の授業を創る編(7)

「子どもにとって中味のある授業」を創るには、どうしたらよいでしょうか。相も変わらず、この台詞から始まります。
学生と一緒にたのしんでいる「体育」の授業を事例として考えてみたいと思います。

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

「ゲームしようか」

「ゲームをしようか」というと、子どもは、喜びますよね。
スマホやモニター画面に向かってするものではありませんが、それでも、こう投げ掛けると、空気が変わります。
GAMEという言葉には、そもそもこんな意味があるのです。
「(楽しみのための)遊び、気晴らし、ゲーム」
しかし、一方でこんな意味も持っています。
「ある規則に従って行うものを指す。(ルールに従った)試合、競技、ゲーム」
「遊び」なんだけど、そこには、「規則、ルール」があるのですね。
今回の話は、そこがポイントです

教職科目「体育」の授業の中で……

教職科目「体育」の授業で、こんなゲームをしました。

(1)金色チームと青色チームの2チーム(1チーム3~4名)で対戦する。
(2)コート(バレーコートの広さおよそ9M×9M)に、20枚程度の金色(裏面が青色)のカードをできるだけ広げて置く(同じ枚数になるようにする)。
(3)2~3名ずつがコートに入り、「よーいドン!」の合図で、カードを自分のチームの色にめくっていく。
(4)指定された動物歩きで移動する。
(5)ゲームに出ていない人は、応援をする。
(6)終わりの合図(2分程度)で、めくるのをやめる。
(7)お互いのチームの色のカードの数を数える。
(8)(出場する者は交替して)前後半で行い、合計のカードが多い方が勝ちとする。

このゲーム、「動物歩きで、ひっくり返せ!」と命名して行いました。
さて、学生たちは、どんな感想をもったでしょうか。

ゲーム「動物歩きでひっくり返せ!」を体験してみて

学生のワークシートを見てみましょう。

○ 移動の仕方を変えるだけで運動量や使う部位が変わってくると思った。
○ ゲーム形式にすることによって、体が自然と動くと思った。
○ 体を大きく動かす動作を入れてみてもよいと思った。
○ カードをひっくり返す単純なゲームだけど、仲間と協力しなければゲームに勝つことができないという遊びで、集団行動の大切さを学ぶことができると思った。
○ 体を動かすことの楽しさを体感できた。

等の声が聞かれました。
学生の声にあるように、単純な動きのゲームなのですが、チーム対抗とすることで意識は変わってきます。
この運動は、低学年の「体つくりの運動遊び」のうち、「体を移動する運動遊び」として行ったものです。
小学校学習指導要領解説 体育編には、
○ 這う,歩く,走る等の動き
○ 跳ぶ,はねる等の動き
○ 一定の速さでのかけ足(2~3分)
の3つが例示として挙げられています。
このうち、1つ目の「這う、歩く、走る等の動き」を取り上げ、ゲーム形式にアレンジしたものです。
前時には、幼児期の運動遊びとして、様々な動物歩きを経験していた学生でした。
したがって、こんな声も聞かれました。

○ 前回行った動物歩きの応用みたいなので、犬歩きでカードをひっくり返すという遊びを行った。カードというものを付け加えるだけで、こんなに楽しい遊びになって驚いた。前回と同様に一つの動きに+αで何かをすると新しい遊びになるため、子どもたちから色々な意見を出してもらって、一緒に遊ぶことができたらよいと思った。

そうなんですね。
今、求められている授業は、言われたことを言われた通りにする授業じゃないのですね。
子どもたちが自ら考え、自ら創り出していく、そういう授業ですよね。

「令和の日本型学校教育」で求められる教師の姿

中央教育審議会「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)」では、
「令和の日本型学校教育」の姿、とりわけ教職員の姿を以下のように示しています。

 環境の変化を前向きに受け止め、教職生涯を通じて学び続けている
 子供一人一人の学びを最大限に引き出す教師としての役割を果たしている
 子供の主体的な学びを支援する伴走者としての能力も備えている

教師は、主体的な学びを支援する「伴走者」としての能力を磨いていかなくてはいけないのですね。
教師が、子どもに一方的に「指示」し、「教える」というスタイルの授業ではないのですね。

 ゲーム「動物歩きでひっくり返せ!」をどうするか?

そこで、このゲームは、どうするか?
学生に、こう尋ねました。
「このゲーム(体つくりの運動遊び)をどのように創っていくとよいだろうか?」と。
すると、学生は、私が用意したワークシートに思い思いに考えついた工夫を綴っていきます。
こんな感じです。

○ 動物の動きを変えて、難易度に変化を付ける (動いている途中で指示を出して動きを変える)
○ 応援側が動いている側に積極的に声掛けをする
○ カードの枚数を増やす
○ カードの散らばり具合を広げる
○ もっとコートを広くする
○ 制限時間を延ばす

なるほど、いろんな工夫があるものです。

私は、それらを次のようにまとめました。
① 移動の仕方の変更(動物歩き → 他の様々な動物歩き・走る)
➁ タスクの変更(カード → ボール等の用具)
③ 時間、人数、範囲(例えば、範囲を広げる等、安全面を考慮しながら、変化させる)

最初に、教師が提示したゲームのルールを「基本ルール」とするならば、子どもたちと考えるルール、子どもたちが考えるルールを「発展ルール」として、より楽しく、ねらいに迫れるようにと工夫をしていけばよいのですね。

でも、忘れてはならないのは、この場合のゲームは、手段であって、目的ではないということです。
目的は、「体つくりの運動遊び」にあるのです。
このことは、ゲーム性を持たせて行う様々な学習活動に言えることです。
何が目的かを見誤ってはいけませんね。

むすびに 

 「『振り返り』に値する中味(授業)が大事」をテーマに、実践事例を取り上げながら、7回にわたって綴ってきました。
要は、教師次第だなと思います。
同じ教科の教科書の、同じ教材を扱い、授業を行うにしても教師によって違いが出てきます。
違ってもよいのです。
子どもも違えば、教師だっていろんな先生がいて、いいのですから。
ただし、教師が、目の前の子どもとどんな授業を創ろうか、子どもが主語となる授業をどうやって創ろうか、そんなことを考えているかどうかは、授業の具体に大きな違いをもたらすのでないでしょうか。
授業を生業にしている教師は、やはり「授業」で勝負したいですね。

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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