算数を苦手とする子どもたちと「算数教育を取り巻く学校の課題」(NO.2)
昨年の夏、算数教育のことを書きたいと思って取りかかったのに、途中で道徳教育について連載してしまいました。だいぶ前に書いたことの続きになりますが、算数を苦手とする子どもたちとの関わりから、何をどのように教えることが効果的であるのかについて、お伝えしていきたいと思います。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
これは、算数少人数指導をしている私の視点からの、ひとつの提案です。また、東京という限られた場で働いてきた経験からの話ですので、地域によっては異なった様相があるかもしれません。加えて、東京とはいえ、地域性にも学校の個性にも差異があることを、あらかじめお断りしておきます。
算数教育を取り巻く学校の課題
読み書き計算という基礎的基本的な学力に限っていえば、当然のことながら、子どもたち一人一人異なった能力をもっています。これは、前回お伝えした知能の差ということだけではなく、誰でもが異なる能力をもっているということです。教師ではない友人が、「4年生になると、算数の力には差ができるというけど、本当か?」という質問をしてきたことがありますが、実際には1年生から差があるのです。誕生したとき、全員が同じ素質なり能力なりをもっていればいいのですが、そういうわけにはいかないようです。
しかし、ここで述べているのは、読み書きや計算といったことに限った能力の話であり、その差が人柄を表しているわけではありません。また、読み書きが苦手な子どもたちの中には、素晴らしい絵を描いたり楽器の演奏をしたり、運動面で大活躍したりする子どもたちもたくさん存在します。ですから、能力の差はあるかもしれませんが、子どもたちを否定する気持ちはありませんし、一人一人の個性を伸ばすことも大事なことだと認識しています。
そうであっても、学校が基礎的基本的な学力を身につける場であるなら、その能力を伸ばす努力をすべきだと思います。ただ、この課題を解決することは、簡単なことではありません。
理由のひとつには、感染症対策で休校などが行われた結果、十分な学習を保障できなかったという実態があるのです。特に、かけ算九九を総復習する時期に休校になってしまった学年では、多くの子どもたちが九九を覚えきれていません。
ふたつめとして、教師の中にはゆとり世代が存在し、彼らの算数・数学の学習経験に大きな差があることが挙げられます。ゆとり世代が、円周率を「3」として教わったことは有名な話ですが、実際にはそれだけではないのです。しかし、学習指導要領の改訂にともなって、現在の学習内容は格段に難しくなっています。小学生の内容に、以前なら中学生で学んでいた数学的な内容が数多く盛り込まれているのです。
算数を教える教師不足
多くの学校で教師が不足しているのは報道されている通りで、算数担当以前に学級担任を確保することすら難しい実態があります。教師不足の原因のひとつは、育児休暇の長期的な取得による、臨時的任用教員の不足が挙げられると思います。福利厚生が充実してきていることを否定するものではありませんが、中堅の教師が数年間不在になっているのを、補いきれないのも事実です。
また、様々な事情で休職する教師も増えています。皆さんのご想像通りで、精神的に追い込まれてしまって、休職するケースは多いと思います。さらに、大学の教員養成課程も、少子化に合わせて縮小される傾向にあったのも、要因のひとつではないかと考えます。
このように、教師が不足しているわけですから、学級担任が休職すれば算数担当を担任として当てるという対応は当然のように行われます。すると、算数担当が不在になり、習熟度別指導は絵に描いた餅になってしまうのです。これも、子どもたちの能力を伸ばす上では、大きなブレーキになってしまっています。
保護者の方から見れば、我が子が楽しそうに登校し、それなりの点数のテストを持ち帰ってくれば安心ということになるかもしれません。しかし、学校は今、とても厳しい状況にあると思っています。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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