算数を苦手とする子どもたちと「支援の限界を感じるとき」(NO.1)
私はこれまで、学級担任を務めた以外に、算数少人数や通級指導学級の指導を経験してきました。その中で、教育現場の大きな課題は、学習の困難さを抱える子どもたちにどのような支援ができるかということだと痛感してきました。
恥ずかしいことですが、最近になって、「境界域知能」という表現があることを知りました。学習に困難さを抱える原因の全てがここにあるわけではありませんが、これまで教育に関わる人たちの中で話題となっていた課題が、表面化し広がっていけばいいと思っています。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
ちなみに、私自身は「障害」という表現を好みませんし、IQで人を判断することも良いこととは思っていません。しかし、何かを伝えようとするときには、多くの人たちと共通した言葉を選択しなければならないのは言うまでもないことです。それで、今回はこれらの言葉を使うことをご理解ください。
1 「境界域知能」とは
通常はIQが85以上を通常知能、70未満を知的障害と分類し、その境目にある70〜84を境界知能と呼ぶそうです。
こういった概念は進路指導に使われることが多く、例えば大人数の中で指導が通りにくいときに、知能を測定してもらうよう保護者に依頼することがあります。その結果、数値が低い場合には、特別支援学級や特別支援学校を勧めることなどがあるのです。もちろん、進路の選択は本人や保護者の希望に添うことが第一なので、これらの数値が絶対的な意味をもつことはありません。
ただ学校現場の課題となるのは、知能の測定を勧める必要性は高くないものの、学習の困難さを抱える子どもたちへの支援なのです。言い方を換えれば、もし知能を測定していたとすれば境界域にあるかもしれない子どもたちは、支援の対象になりにくいということです。つまり、40人ひとクラスを基準とした中で、彼らへの支援は教師の熱意に頼ったり、場合によっては学校の支援体制を駆使したりするという、「限界」を抱えているということなのです。
2 算数を苦手と感じる子どもたちへの支援
小中学校の多くは、算数の授業を習熟度別クラスで行っています。例えば「小数のかけ算」の単元を学習する前には、既習のかけ算の学習が身に付いているかどうかをレディネステストなどで調べ、その結果を基に発展的な内容を扱うクラス、教科書レベルをしっかりと教えるクラス、少人数でときには個別に指導しながら授業を行うクラスに分けるのです。
しかし、このように言葉で表現するのは簡単でも、実際には教える側にも困難さが伴います。高学年ともなると塾で受験のための指導を受けている児童も多く、発展的な内容でさえ知っていることもあります。すると、塾に行っていない子どもとの差が大きくなり、発展的な内容を扱うクラスはとてもやりにくくなります。
一方、算数を苦手とする子どもたちのクラスも、人数が多い場合があって、支援の手が行き届かなくなるというのが実態です。例えば、40人に近い3クラスの学年では、学年全体の人数が120人近くなります。それを4人で教えようとすると、少人数で教えたいと思うクラスでも15人を超えてしまう計算になります。
私自身は、算数を苦手とする子どもたちのクラスは十数人程度がいいと思っていますので、多人数になってしまうと授業中に個別に指導することは非常に困難となります。なぜなら、そのクラスには、少なくない数の学習に困難さを抱える子どもたちが存在するからです。ここに、支援の「限界」が生じるのです。
学校の算数指導の現状をお伝えしようと思い書き始めたら、とてもややこしい内容になってしまいました。次回は、どうしたら算数に苦手意識をもつ子どもたちと、うまく授業を進められるかについて考えていきたいと思います。
学習に困難さを抱える子どもたちは、自己肯定感も低いといわれますが、その理由のひとつに算数の苦手さがあると感じています。そして、算数を通して、「自分もできる」という気持ちを育てることが、自己肯定感を高める上で、重要なポイントとなるように思っています。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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