書籍からの学びの具体~永田時雄「西陣織」(その1)
今回は「書籍からの学びの具体その1」ということで永田時雄氏実践の「西陣織」を紹介します。
私がその実践内容を読んだのは、(上田薫編著(1977)『社会科教育史資料4』明治図書)の中に掲載されているものですが、素直な感想として、「はるか昔の実践なのに今の実践と変わらないではないか」でした。
社会科教育において本当に有名かつ重要な実践で、私が紹介するのはおこがましいですが、自分なりに感じたことを書かせていただきます。
大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作
実践「西陣織」
実践を簡単に紹介します。永田時雄氏が1953年京都市立日彰小学校の5年生で実践されました。
京都の代表的郷土産業である「西陣織」は、十数工程以上に複雑に分かれた分業ですが、その当時でも生産工程が手機という最も古い方法が過半数でした。また、全国の機械による絹織物の大量生産によって販路が縮小し、それぞれの業者が苦しい状況になっているという問題がありました。
小学校校区には直接西陣織の生産に携わる業者があるわけではありませんが、呉服問屋が多くあり、西陣織について子どもはよく知っている状況でした。それら西陣織についての問題(課題)を子どもたちが認識し、解決していくという問題解決学習となっています。これまでも様々な観点から批判や賞賛がある実践です。
現在の実践に生かせること
先述した通り、この実践を読んだときの素直な感想が「今の実践と変わらない」でした。
単元を通しての大きな問題解決的な学習になっているのはもちろん、以下の6点で、現在の実践に生かせるものがあると感じました。
①社会問題を扱っていること
②子どもの既有知識からの導入
③実物資料の活用
④体験活動の実施
⑤他事例の分析
⑥深い教材研究
それぞれについて簡単に述べさせていただきます。
①社会問題を扱っていること
伝統産業の西陣織衰退の危機という実際に社会にある問題を単元全体で取り上げていることです。社会問題は子どもにとっては生活の中にない遠いものとして、当事者性を持たせることが難しいですし、実際に教材化して実践しているものは現在でもそう多くはないはずです。産業における課題を取り上げることはあるでしょうが、単元の最終などに認識し、学んだことをもとに子どもなりに解決策を考える学習が一般的でしょう。しかし、社会問題を中心に据えて単元全体で解決していく学習の一つのモデルになるように思います。
②子どもの既有知識からの導入
単元の導入では、子どもたちが西陣織について知っていることを自由に発表させています。「父や兄がネクタイでつかっている」とか「七五三で着た」など自分との関わりのことや「きれいな模様はどうやって作っているのか」とか「いつから作られたのか」とか生産工程のことなど、子どもの既有知識を共有して、西陣織に対する興味・関心を高めています。子どもたちがある程度知っている状況があることを見越しての導入でしょうが、「聞いたことや見たこともあり、着たこともあるけど、詳しくは知らない」という絶妙のところで導入にしていく永田氏の手腕は大いに参考になるように思います。
③実物資料の活用
家庭のある実際の西陣織を学校へもってくることで実物資料として活用しています。実物があることで、より興味・関心が高まると共に、西陣織の特徴を実感としてつかむことができます。実践では、この実物をじっくり観察することから、子どもたちはますます「どうやって作るのだろう」という疑問が高まっています。
④体験活動の実施
生産工程を調べるために西陣織の工場の見学に行っています。ただし、「独立した工場を持って五十人以上雇っている大工場」であったため、小工場や家族だけでやっているところは、子ども自ら土曜日や日曜日に見学に行っています。これは現在、参考にすることはできないでしょうが、見学での調査という体験活動を実施していることも大いに参考になります。
⑤他事例の比較
西陣織の販路を脅かしている機械生産の桐生と福井の生産の様子も調べて比較し、西陣織との共通点・相違点を考える活動をしています。西陣織の特徴がより深く理解できると共に課題や良さが浮き彫りになり、解決策を考える参考にもなっています。西陣織だけでなく他事例を調べ、社会認識をより深くしていく学習過程は参考になります。このことにより、単なる地域学習から日本全体の産業の課題のように「特殊から一般」という流れを生み出すことにもつながります。
⑥深い教材研究
永田氏は西陣織の教材研究として、大学教授に教えを乞うと共に資料をもらい、自作資料を作成しています。西陣織に関する書籍も複数冊読んで研究をしています。何もないところからの「一からの教材化」であり、教師という仕事の真骨頂でしょう。
永田氏は別の著書で
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「忙しくて、とてもそんな読書や教材研究をする時間がない」という反論が必ずといっていいくらい跳ね返ってくる。ところがこの教師の研究は、ただ社会科指導のための教材研究といったせまい効用のためにのみやるのではないのである。わたしはこういう教材研究の過程で自分自身の生き方の判断をしたり、自分の乏しく弱い思想の充実をしていくことがほとんどである。
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と述べていて「教師も伸びていく子どもたちとの共同研究者」とも表現しています。
働き方改革を進めていくべき現代においては提案しにくい側面もあるかもしれませんが、教師も学び手の一人であることを忘れないようにしたいものです。
西陣織の実践は、単元の最終で西陣織がこれから発展するための子どもらなりの解決策を考えています。子どもの考えが技術的改良ばかりになっているという批判もありますが、子どもが学んだことを根拠にしている内容であることは間違いありません。
1953年という今から70年前の実践ですが、今と変わらないこと、今でも活用できることがある実践だと思います。
参考資料
- 上田薫編著(1977)「社会科教育史資料4」東京法令出版,pp.399-407
- 中西仁(2013)「永田時雄・「西陣織」再考」『立命館産業社会論業 第49巻3号』pp.33-48
- 永田時雄(1965)『現代社会にどうせまるか』明治図書,p.18
石元 周作(いしもと しゅうさく)
大阪市立野田小学校 教頭
ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。
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