2023.08.24
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書籍からの学びの具体~若狭蔵之助の実践~(その3)

今回は「書籍からの学びの具体その3」ということで、今回も社会科実践だけでなくフレネ教育でも著名な若狭蔵之助氏を取り上げます。若狭蔵之助は、単著でも『高学年の社会科教室』(1970)明治図書、『民衆像に学ぶ生活と教育の結合をめざす教育実践の記録』(1973)地歴社、『生活のある学校遊び・ 手仕事・子どもたち』(1977)中央公論社、『学習の出発子どもの自由な表現から』(1980)民衆社、『子どもをのばす自由教室新しい教育をめざして』(1983)講談社現代新書、『社会科教育叢書 問いかけ学ぶ子どもたち観察・思考・自由な表現』(1984)あゆみ出版、『子どもと学級生きる力を育てる』(1986) 東京大学出版会、『子どものしごとフレネ教育』(1988)青木書店、秩父事件農民蜂起の背景と思想』(埼玉新聞社、2003年)など多数あります。私もすべてに目を通したわけではありませんが、わずか数冊でも若狭実践の魅力がわかります。
若狭実践に対する先行研究や先行分析が多々ありますので詳しくはそちらに目を通していただくとして、今回も私なりに今の実践に生かすことができるのでは・・・という視点で書かせていただきます

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

実践「公園をつくらせたせっちゃんのおばさんたち」

1929年生まれの若狭は、実践の中心が1960年代半ば~1980年になるでしょう。1986年に鳥取大学教育学部の教員になってからは、フレネ学校に関心を向けていき、様々な提案をされています。若狭実践の代名詞といえるのが『問いかけ学ぶ子どもたち―観察・思考・自由な表現―』(1984)あゆみ出版、に掲載されている「公園をつくらせたせっちゃんのおばさんたち」でしょう。
地域の人たちが、自分たちの力で請願運動を行い、下赤塚児童公園をつくるまでの過程を子どもが調べ、理解するという国民主権が何かを考えるために行う政治学習です。実践の概要は以下にようになっています。

1.「ぼくが政治家だったら」という題でアンケートをとる。(「夏休みの宿題をださないでほしい」など単なる願望も多く、子どもは政治への認識が不正確な状態です。)

2.自分たちの学区にある下赤塚公園について子どもに聞き、住民運動によってできたことを知らせる

3.グループごとに調査項目をまとめ、自分たちで調査に出かける。子どもたちは公園の近くの家から聞き取りをはじめ、署名した方、元の地主さん、町会長、区役所の方などにも聞き取り調査をする

4.調べたことを学級新聞にまとめる

5.まとめたものを報告する

6.報告の中で「どうして出来上がるまでの5年間もかかったのか」という問いが出てくる

7.問いの解決のために若狭が請願運動の通知葉書と「公園をつくる会」の記録を提示する

8.中心人物である「せっちゃんのお母さん」が教室にきてお話をしてもらう

9.学習のまとめをする

政治は議員や役所がやるものと考えていた子どもたちが、政治主体をもっと身近な地域住民の中に見出すようになる学習です。

現在の実践に生かせること

「公園をつくらせたせっちゃんのおばさんたち」の実践ももちろんですが、若狭実践には現在の教育実践に生かせる要素がたくさんあります。私が考えているのは以下の4点です。

①子どもの主体性を育てる

②教師の立ち位置

③子どもが作った資料の活用

④生活からスタートして科学的認識へ

①子どもの主体性を育てる

教育の不易の課題かもしれませんが、若狭も第一に子どもが自ら動く力を育てています。とにかく子どもが自分たちで調べることが徹底されています。課業時間外に自分たちでインタビューなどの聞き取りや調べにいくなどは今では難しいでしょうが、その代わり学習者用端末があります。家でも自分で追究することは可能です。ただ、子ども自ら動けるように若狭は以下のように手立てを講じています。

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彼らがしっかりと学習のねらいをふまえたうえで調べられるようにすることが必要である。しかし、そうはいっても調べることについてあまり細かく指示することはさけなければならない。彼らがどこを調べてくるかーその選択の中に重要なねらいが含まれているし彼らがどんな問いかけをすればいいか、それを考えるところにもねらいが含まれているからである。私はきき取り方を指示するかわりに、私自身が子どもたちの前でききとりをし、それによって、ききとりのねらいをつかませようとした。(p.49)
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若狭は自分の姿をモデルとして、子どもに聞き取り方を間接的に指導することによって子どもの主体性を育てているのです。

②教師の立ち位置

若狭の教師の立ち位置のとらえが大変興味深いものになっています。『子ども学級 生きる力を育てる学級』(1986 東京大学出版会)の中で以下のように述べています。

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教師は集団にとって欠くことのできない部分であるが、あらゆる回路の中心にいる必要はない。教師は情報の配布者でもなければ、評価の主要な責任者でもない。教師の役割は。子どもの情報をさまざまな源泉に直接、接近させること、子どもの進歩を個人的に集団的に評価することを認めることである。~(中略)~一人ひとりの子どもが他の子どもと関係をもつだけでなく、外部の人びとやグループと関係をもつことになる。(p.176)
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現在はファシリテーター型の教師という捉えが大切にされていますが、それと同様のものを感じます。何より教師も子どもも外部の方とつながることを大切にされていることが、興味深く、だからこそ若狭実践は子どもを教室外の方に出会わせることが多いのでしょう。実社会の人に出会うことは社会とのつながりをもつことであり、「社会に開かれた教育課程」として現在の学習指導要領の理念にもなっています。

③子どもが作った資料の活用

若狭実践は、自分たちが調べてまとめたものを資料として活用することが多いようです。自分たちがまとめた資料をもとに話合いを深めていきます。与えられたものではない、当事者性のある資料ですから、それをもとに考える姿勢が向上することは実感として理解できると思います。また違う捉えとして、それだけ子どもがたくさん表現しており、表現する場と時間が確保されているといえると思います。ただし、この部分は現在の教育課程の中では時間的に難しい面ではありますが・・・。

④生活からスタートして科学的認識へ

若狭実践は自分の生活や地域の生活を見つめて、問い返すことからスタートすることが多いようです。そこで問題を設定し、自分なりの仮説(予想)を立てて調べる。そして調べたことをつき合わせることで、次の問題設定に向かいます。若狭はそのことを以下のように述べています。

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無駄なことのようにみえても、この話し合いを保証することによって、一人ひとりの論理が組み立てられ修正されていくのである。そしてそのなかで彼らはドグマティック(独断的)な思考から解放され、生活とか科学を接合していく方法を身につけていくのである。(p.102)
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現在は現在なりの子ども、大人の生活があります。まずはそこからスタートすること。そこからその先にある学問の体系はいくらでも見えてくるように思います。それをどう創っていくのかが教師の専門性のように思います。
現在に生かそうとすると「すぐにつかえる」とか「すぐに効果がでる」という種類のものではありませんが、そのエッセンスを考え、活用したいと考えています。

参考資料

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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