2024.08.07
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日本の気候の特色

前回は、4年生の実践を書かせていただきましたので、今回は5年生の実践です。5年生は国土の自然、食料生産、農業、水産業、工業、情報産業、環境など社会科として教師も子どもも面白い学習ができる学年だと考えています(教師はいろいろな準備があり大変ではありますが)。
しかし、どうしても苦手意識というか、うまくできないなと感じてしまう単元があります。それが最初の単元「日本の国土と人々のくらし」です。内容的にどうしても網羅的になってしまい、そういうつもりではなくても子どもたちに「やっぱり社会科は覚えないといけないんだな」というメッセージが伝わってしまうことが多いと思います。この単元はいつも試行錯誤です。子どもの実態にもよりますが、なんとか網羅的・暗記的な学習から脱却して考える授業がしたいと考えています。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

特色をつかむ

単元名「日本の国土と人々のくらし」というくらいですから(教科書会社によって表現は違うでしょう)、日本の地形や気候の特色をつかむことが目標となります。4年生までで、地域のこと、都道府県のこと、といういわば自分にとってまだ身近な事象を学習してきましたが、一気に日本全体に広がります。だからこそ、一気に自分ごとから遠ざかる可能性もあります。子どもが自分ごとととして捉えることができたまま、特色をつかむことができるように試行錯誤をします。今回の授業例は、学年の先生方と相談しながら考えました。

単元計画

日常の授業をやっていくことだけでも大変ですので、いつもいつも教材開発をするのは現実的ではありません。となると、基本的には教科書をうまく活用していくことになります。単元計画も、まずは教科書通りやってみよう、ということで、以下のような単元計画となります。これまでの連載と同様に、時間と問いで示します。

第1時 日本の地形や気候はどのような特色があるのだろう(学習問題)
第2時 日本の地形には、どのような特色があるのだろう
第3時 日本の気候の特色は何だろう
第4時 日本の気候は、地域によって、どのようにちがうのだろう
第5時 気候と季節風には、どのような関わりがあるのだろう

この単元計画を見ても、抽象的な内容ということがわかります。今回は第3時の日本の気候の特色である梅雨と台風についての学習について紹介します。

まずは台風

網羅的にならないように、子どもたちがある程度知っている「台風」については、導入から情報提示をし、興味・関心を高めることをねらいとしました。

導入で図1を提示し、何を表しているのかを子どもたちにたずねます。年代順、月別にゆっくり提示し、子どもたちとのやりとりを楽しみます。おそらく気づく子は出てくると思います。台風というのが日本の気候として大きな特色であることを補説し、「他にどんな特色があると思う?」と仮説(予想)を立てます。「夏が暑い」「四季がある」「ゲリラ豪雨」などがでるかもしれません。おそらく「梅雨」もでてくるのではないでしょうか。そこで「台風のように日本の気候の特色にはどのようなものがあるのだろうか」と教科書の問いを少し変えました。そして仮説をもとに調べます。調べる内容は教科書です。教科書を資料として活用するということです。

今回使用した教科書は、台風と梅雨について以下のような事実を調べることができます。

台風
⇒①夏から秋にかけてくる
 ②おもに日本の南側にくる
 ③雨が多くなる
 ④大雨による洪水や山くずれなどの自然災害を引き起こす
 ⑤人々のくらしや農作物に大きな被害をあたえる

梅雨
⇒①5月から7月
 ②くもりや雨の日が続く
 ③大雨になるときもある
 ④大雨による洪水や山くずれなどの自然災害を引き起こすこともある

ないほうがいい?

子どもが調べた事実を共有していくと、台風と梅雨のマイナス面が目立ってきます。教科書の写真も被害の写真が掲載されていることもありますし、実際に経験すると怖く感じます。ここで、Web上にいくつかある、梅雨や台風についてのアンケートを紹介します。今回紹介したのは「台風が近づいているときの感情」と「梅雨は好きですか」というアンケートです。台風は58%の人(20~40代)が嫌い、梅雨は79%の人が「あまり好きではない」「好きではない」と否定的な回答になっていることを提示します。そこで、「じゃあ、台風と梅雨は日本ではないほうがいいですよね。来たら自然災害をもたらすだけですし、嫌ですよね」と揺さぶります。

子ども:嫌ではあるけど。教科書にも「くらしや農業に必要な水をもたらします」と書いているように、必要でもあります。
子ども:確かにこの時期に雨が降ることで米とかが育つと聞いたことがあります。
子ども:おばあちゃんが言っていました。

先生:でも、みんなが調べた内容やアンケートを見ると、ないほうがよくないですか?
子ども:だから……毎日きたら嫌ですけど、いっさいなくなると困ることになります。

先生:じゃあ、だれが困るのか考えてみて。

ここで、視点を多角的になるように促します。

子ども:まずは農家の人が困ります。雨がないと野菜や果物が育たなくなるからです。
子ども:工場の人も困ると思います。なぜなら工場では水を使うことも多いからです。
子ども:水道局の人も困ります。水をつくれなくなります。
子ども:自分たちも困ります。水がつかえなくなったら最悪です……。

視点が転換し、様々な立場がでてくることに意味があると思います。

最後に雨が降らないことでスズメバチが増える(雨が降らない⇒気温が上がる⇒昆虫の活動が活発になる⇒昆虫を食べるスズメバチも増える)ことがあると言われていることも紹介して終わります。

今回の単元はいつも苦労しています。そもそも学習問題を立てることも難しいですし……。割り切って、もっと時間をかけながら具体で攻めていくのもありかなとも思っています。

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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