2023.03.08
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『つなぐ・つながる』~授業づくり・学級づくり、そして学校づくりの、明日のために~『幼保と小』をつなげる(前編)

「幼稚園にもっと行きなさい」
小学校1年生の担任をしている時に、校長先生から言われた印象に残る言葉の一つです。小学校にとって、幼稚園や保育園から学ぶことは、沢山あるんですね。当時は、よく分からなかったことですが、時が過ぎて少しずつその意味が見えてきたように思います。

 

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

「幼稚園・保育所の現場」で体験し、学ぶ学生

後期の授業を終えた大学生は、一息つくと保育実習に入ります。
2月は、ほぼ実習期間となっていて、私が勤務する大学の教員は、各園・所に巡回指導にあたります。
私も、園を訪問し、学生の保育の様子を見たり、実習指導担当の先生に様子を聞いたりする機会を得ました。

実習生の
「子どもと関わるのが本当に楽しい」
という声を聴くと、こちらまで嬉しくなります。
また、現場で学ぶことの意義をあらためて感じたりもしました。
そして、近い将来、希望する園で活躍できるといいなと素直に思うのでした。

こうして、教育現場に出ていって、体験し、学ぶことの意義は、学生にとって、言葉に尽くせぬものがあると思います。
遠い昔のことながら、自分自身を振り返っても、その時にお世話になった先生方や本当にお粗末だった研究授業のことを結構鮮明に思い出すことができます。
学校や園で、子どもと関わる中で、学ぶことは貴重な経験となるのですね。

ただ、園や所を訪れる機会は、何度もあるものの、何かまだ異世界に感じるところが自分自身には正直あります。
それは、園や所について、まだまだ自分自身が理解していない未知の部分が山ほどあるんだ、勉強不足だと感じているからだと思います。

「幼稚園にもっと行きなさい!」

そういえば、教員としてある程度の経験を積んだ30代後半のころ、初めて1年生の担任をしていました。
4月の入学式を終えると、子どもたちと格闘する毎日が続き、そのうち声が出なくなり、耳鼻咽喉科に通うことになりました。

そんなとき校長先生から、こう言われました。

「幼稚園にもっと行きなさい」
「幼稚園で勉強してきなさい」

私は、正直「何で!」と思って、その言葉の意味が分かりませんでした。

「確かに幼稚園から上がってくる子どもたちが目の前にいる。しかも、同じ敷地内に幼稚園があるのだから、すぐに行ける。だけど、何で幼稚園に行かなくちゃいけないの?」
そう思っていたんですね。

「幼稚園に何を学ぶのか」

今は、当時の校長先生の言葉の意味をちゃんと分かっているの? と言われると、ちょっと後退りしてしまうかもしれませんが、
幼稚園・保育園から学ぶことの意義のかけらぐらいは、分かってきたように思います。

例えば、昨年度、私が行ってきた幼小接続にかかる調査研究では、保育園の保育者から、こんな語りが聴かれました。

「小学校のプールと保育園のプールが同じところにあって、それを見ていると、保育園はプールの楽しさを味わってもらうことを大切にしていたが、小学校では一列に並んで“ピッ”とやっていて、“あー、これは違いだな”と思った。どういう言葉かけをすることが、楽しさ、明日につながっていくのかを考えている。保育は、それを大切にしている」                           

この語りに見られるように、幼稚園・保育園と小学校では、同じような活動を展開するにも、声掛けの仕方や子どもとのかかわりかたに大きな違いがあるんですね。

本の読み聞かせや子どもに向けて話をするときなども幼稚園・保育園の先生と小学校の先生では、違いがあります。
もちろん、先生の指導の有り様って、それぞれですから、それを小学校、幼稚園・保育園って分けてしまうのは乱暴な考え方かもしれません。
でも、総じて、「違い」があると言ってよいと思います。

特に、高学年の担任経験が多い先生と幼稚園の先生を比べたら大きな違いがあるんじゃないかと思います。
(そういう私自身も高学年が圧倒的に多かったので、実感するところです)
いかがでしょう?

黙っていることは「聴いていること」?

もう少し言うと、「話を聞く」こと一つとっても「話を聞かせるために、どうするか」ということが違うと思うんですね。
話をする対象が5歳児と12歳児と違って当たり前なんですが、子どもにとって、どうかって言うと。
教師の、「話を聞きなさい」「お話します」という一言で、あるいは、笛で「ピッ」で、話し始めることができるのが小学生。

でも、本当に聞いているかというと静かにしているだけって言えません? 
黙っていれば聴いているか。
そうではないと思います。
黙って静かにしてはいるけれど、実は、話し手の言うことは聞かずに、全く違うことを頭の中で考えている。
頭の中まで見えませんからね。

そんなことは、小学生中学年以上なら、普通にありますよね。
だから、本当に話を聴かせたいならば、聴かせるためにどうするかを真剣に考えないといけません。
それを、幼稚園・保育園の先生は、日常的にやっているんだと思っています。

「聴くこと」については、かなり注目されてきて、指導されている先生が多いと思いますが、依然、どうかなって感じる授業をみることは、決して少なくありません。

なお、私が考える「聴くこと」の指導の詳細は、
教師の五感を磨く~聴くことをどう指導するのか?~(前編) - 教育つれづれ日誌 | 学びの場.com (manabinoba.com)
教師の五感を磨く~聴くことをどう指導するのか?~(後編) - 教育つれづれ日誌 | 学びの場.com (manabinoba.com)
を御参照ください。

後編につづく

このことは、幼稚園から学ぶ一端にすぎません。
次回は、「幼稚園から何を学ぶのか」「どうやって学ぶのか」、つまりは、「小学校と幼稚園・保育園のつながる意味やつながりの現状」についてもう少し踏み込んで、つれづれ語ってみたいと思います。

参考資料
  • 川島隆 甲賀崇史(2022),運動遊びと体育科に関する幼小接続の在り方の検討:保育者と小学校教諭に対するインタビュー調査,幼児体育学研究 第14巻第1号,日本幼児体育学会

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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