園バス置き去り事件に見る制度の問題点と学校(園)における働き方改革
またしても痛ましい事件が起きてしまいました。幼稚園のバスに置き去りにされ、熱中症で3歳の女児が亡くなってしまいました。子どもの安全が保障されるべき園で、未来ある幼い子どもの命が失われるなどあってはならない事件です。
確認を怠ったために起きたことでありますが、昨年度も同様の事件が起きていることからも、それだけではない制度についても見直していく必要があります。学校における働き方改革同様、園における働き方改革も推進されるべきだと考えます。今回はそのような視点で述べていきます。
旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也
はじめに
2022年9月、静岡県の幼稚園で3歳の女児が熱中症(熱射病)で亡くなってしまいました。園バスに5時間置き去りにされたとのことです。
2021年7月にも福岡県の保育園で5歳の男児が9時間も置き去りにされ亡くなっています。この子たちはどんなに苦しんだことでしょうか。その教訓が生かされることなく、事件が起きてしまいました。
2歳の娘を持ち、今後に園を利用しようと考えている私にとっては他人事ならぬ事件です。しかし、このように続けて起きてしまうと、事件を引き起こす可能性のある制度に問題があると言わざるを得ません。今回はそのような視点から述べていきます。
職員配置基準
当然ではありますが、送迎の職員・運転手・担任保育者等が確認を怠ったことに原因があります。ただそれだけでは済ましてはならない要因もあると考えています。その要因の1つ目として、制度で定められている園の「職員配置基準」があげられます。
国は、保育所の保育士や幼稚園の教員1人につき、受け持つことができる子どもの人数を設定しています。以下、年齢別に記載します。(2022年9月現在,施設の形態,自治体により設定が異なる場合あり)
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保育所の場合、保育士1名につき…
・0歳児 3名
・1歳児 6名
・2歳児 6名
・3歳児 20名
・4歳児 30名
・5歳児 30名
幼稚園の場合、教員1名につき…
・3~5歳のクラスにおいて、いずれも35名以内
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このように定められていますが、これは果たして適切でしょうか。保育士1名につき0歳児3名となっていますが、まだまともに歩けない0歳児を3名受け持つということは、1人をおんぶし、2人を両手に抱えるという意味になります。万が一緊急で避難する場合に、これは速やかに行動できるでしょうか。
2歳の娘がいると前述しましたが、イヤイヤ期で1人でもこんなに手を焼きます。6人も同時に相手にするとこちらの気が狂ってしまうように思うのですが、本気でできると考えているのでしょうか。
3歳児については20名とか35名と設定されていますが、居るだけで目が届かなくていいという意味でしょうか。
今回は被害女児のクラスには補助教員がいたようですが、いくら保育・教育のプロである保育者だと言っても、私たちと同じ人間であるので、無理なものは無理です。
保育者の処遇
これだけではありません。2つ目として処遇についてあげさせていただきます。上述したように、このような無理難題を毎日こなし、気力も体力もすり減らしながら、保育者は子どもたちの面倒を見ています。一歩間違えば今回のように命が失われる可能性の高い責任が重い仕事です。そうであるのに、なぜ保育者の収入は、平均と比較しても、こんなに低いのでしょうか。
現在は少しずつ処遇改善が行われているようですが、適正値にするのに、なぜに小出しで行うのでしょうか。小学生中学生の段階では保育者を希望する児童生徒は多く、人気の仕事ランキングのベスト5にも入っています。しかし高校生になるとこのような処遇のためか、希望する生徒はほとんどいなくなり、ほとんどの保育者養成校は定員を満たせなくなり、保育現場にも今回のような悪影響が出ています。
最後に
今回の事件は、もちろん園の関係者に過失があることは明らかです。しかし余裕のない保育・教育を強いてきた制度にも、これ以上の事件が起きないように見直すべき点があるのではないかと思っています。この制度が、単純な「確認」すらもできない状況を生み出してしまったのではないでしょうか。
今回、保育園・幼稚園で起きてしまった事件ですが、現在の教員の忙しさでは、小中学校でも違う形で似たような事件が起きてもおかしくありません。そのため保育園・幼稚園だけの教訓でなく、小中学校でも教訓としていくべきであります。ただ幸いなことに、小中学校ではOECD(国際機関・経済協力開発機構)の調査のおかげで学校における働き方改革が進められ、職場環境の改善に注目が集まっています。一方で、保育園・幼稚園の職場環境も小中学校同様に深刻で、むしろそれ以上かもしれませんが、そこまで注目が集まっていません。学校における働き方改革と同時に「園における働き方改革」も進められるべきです。国際機関に指摘されるまで待つのではなく、このような現場から滲み出る出来事に目を向け、これ以上の子どもの命が失われないためにも、大胆に取り組んでほしいと切に願います。
赤堀 達也(あかほり たつや)
旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。
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