2023.03.29
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『つなぐ・つながる』~授業づくり・学級づくり、そして学校づくりの、明日のために「『幼保と小』をつなげる」~(後編)

幼稚園と小学校が、本当の意味で「つながる」には、どのようにしたらよいのでしょう。カリキュラムがあれば、それでよいのでしょうか?授業や保育を互いに参観すればよいのでしょうか?「幼と小のつながり」を前回に続き、考えてみたいと思います。

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

幼稚園から学ぶこと

実習の指導訪問での学生との会話です(前編の続きです)。

私:「何歳児を受け持っているの」
学生:「2歳児です」
私:「どうですか?」
学生:「子どもたちとかかわるのは、とても楽しいです」
私:「それは、よかったね」
学生:「でも、子どもたちは、‥‥」
私:「保育実習Iは、何歳だったの?」
学生:「4歳児でした」
私:「だから、……」

実習生が実感したことは……

さて、ここで問題です。
実習生は、私になんて言ったでしょうか?
「子どもたちは‥‥」に続く言葉を想像してみてください。

彼女は、2年次の保育実習Iでは、「4歳児」を担当しています。
そして、今回3年次の保育実習IIでは、「2歳児」を担当することになったのですね。
ヒントは、彼女が今回実感した子どもの違いです。

解答は、兎に角として、彼女が実感したものは、一言で言えば、「子どもの発達」なんですね。

このことは、小学校の教育実習では、なかなか生まれにくいものではないかと思います。
なぜなら小学校の教育実習は、その期間に差こそあれ、配属される学年学級は単一であり、複数の学年を担当することは稀であると思います。
ですから、小学校の教育実習で「発達」をかかわりの中で実感できる機会は、あまり多くないのではないかと思います。
如何でしょう。

そこが、保育実習の特徴の一つでもあるかなと思いました。
実習園によっては、異年齢を経験できるように配慮してくださったり、そもそも異年齢集団での保育を行っていたり、0歳児から5歳児まで幅広くかかわる経験ができることもあるようです。

すると、今回の学生のように、「発達」について直接触れ、考えるようになるわけです。
私の担当していた講義の中でも、子どもの発育発達について指導してきたのですが、学生にとっては、実際に子どもにかかわることで実感を伴う深いものになっていくのだと私自身が感じました。

「幼稚園は、発達のエキスパートだから」

そう言えば、かつてある校長先生から、こんなことを言われたことがあります。
「幼稚園は、発達のエキスパートだから」
この言葉は、ある学校で御指導いただいた校長先生が幼稚園について語ってくれた時の言葉です。
つまりは、幼稚園の先生方は、子どもの発達についての専門家、熟練者である、ということです。
3歳児から5歳児にかけての、まさに心身ともに伸び盛りの子どもたちを相手にするのです。
1歳、いや半月でも違ったら、大きく変わっていく子どもたちなんですね。
だから、子どもがどのように発育・発達を遂げていくかちゃんと理解していないと、個々に合った支援ができないということだと思います。

小学校の先生は、何の専門家?

私にとっては、今回の実習指導訪問と校長先生のお話がここで結び付いたのでした。
さて、そこで、あらためて?が浮かびました。
幼稚園の先生は、「発達の専門家」
小学校の先生は、一体何の専門家と言えばよいのでしょうか。
皆さんは、この問いにどのように答えますか?

話は、少し本題から逸れてしまったようですが、つまりは、園に学びたいことのもう一つは、「発達の視点からの子どもの見取り、子どもとのかかわり」にあるんじゃないかと思います。

これを学んでいくには、保育の参観だけではなくって、実際に対話をしていくことが一番じゃないかと思います。

「幼小接続の調査」にみる課題

静岡県の調査(県内国公私立幼稚園・保育所・認定こども園及び小学校を対象とした幼小接続に関するアンケート調査)によれば、「小学校を訪問し、教育活動を参観したか」について、公立・私立、幼・保等の違いはあるが、70~95%程度が実施しているとの回答でした。
また、逆に、「小学校の教員等が来園(所)し、保育を参観したか」については、一部を除くと、30~75%と回答のばらつきが大きく、決して好ましい結果とは言えません。
さらに、「合同で研修会等を開催したか」については、一部を除くと、15~40%程度まで回答率は、低くなります。
2018年度調査であるものの、ここに大きな課題があるように思われます。
小学校と幼保の接続への意識は、結構ズレが大きいのではないかと感じています。
子どものつながりを考える前に、まずは、先生方のつながりを創っていくことが大切になるように思います。
今は、「幼保小の架け橋プログラム」の実施に向けて全国的に動き出していますので、それぞれの教育現場の意識も変化が見られることを期待したいところです。

本当の意味で「つながる」ための研修会

さて、さて、私が昨年度から研究調査に協力いただいているN小学校とN幼稚園では、近年、授業研究での教職員の交流をしているそうです。
いわゆる「合同研修会」なのです。
小学校と幼稚園の互いに授業・保育を公開して参観し合うことは、結構多くの学校・園で行われていますね。
先程紹介した調査でも、「合同研修会」の実施は、珍しいことではありません。
しかし、この小学校・園では、子ども同士が交流する(一緒に活動する)授業をしながら、それを小学校・園の先生が、一緒に参観し、放課後、一緒に協議するという感じで行うこともあるということです。

私が、参観させていただいたのは、今年度10月に行った、小学校1年生図画工作科の授業研究でした。
授業には、幼稚園の先生が数名来てくれて、放課後の研究協議にも一緒に参加をして行いました。

前半は、如何にも小学校らしい雰囲気の中で、「評価」に焦点化した協議でしたが、後半は、幼稚園の先生方が幼稚園視点での発言をしてくださり、なるほど子どもや授業をこんなふうに見ている・考えているんだなと感じました。
もっと聞いてみたいなと思える内容ばかりでした。

授業を参観して実際に感じたられた生の声を聴くことを、大切にしたい、そう思います。
小学校の先生にはない着眼点がきっとありますし、そこに学びたいと思うのです。

N幼稚園では、こうした幼小の合同研修、公開保育のときには、小学校の先生の「気付きや感想」を園内研修の記録として共有したり、保護者向けのおたよりで紹介したりして幼小のつながりを一層深めていく取組をされています。

先生方が集まって、話す・聴くだけではなく、目の前の子どもについて語り合う、「授業」や「保育」について聴き合う本当の意味での「つながり」が生まれてきていることを強く、強く感じました。

そして、そこに生まれた先生方の「実感」が、どのようなものかさらに、それが、明日の授業や保育にどのようにつながっていくのか学んでいきたいと思うのでした。

テーマ「つながり」は、まだまだつながりそうですが、今期も無事執筆を終えることができ、ホッとしているところです。
支えてくださった皆さんに感謝申し上げ、今期の執筆終了といたします。
ありがとうございました。

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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