2022.05.17
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子どもたちの夢をあきらめさせないために~保育者養成校と保育職~

なりたい職業ランキングの女の子部門では高いランキングを維持している保育士ですが、実際に保育の道に進む高校生の人数は減少しており、夢をあきらめる現実があります。改善していけることはないでしょうか。

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

はじめに

なりたい職業ランキング女子部門にて、小学生ではトップ3、中高生でもトップ5に入る保育職です。しかし保育を希望する高校生は激減し、潜在保育士も仕事に戻ってこない現実があります。
今回、子どもの夢が輝かしいものであり続けられるように改善したいと思い、保育者養成校と保育職の現状をお伝えしました。そのような観点で読んでいただけたらと思います。

幼保一元化

皆さん「幼保一元化」はご存じかと思います。厚生労働省管轄である保育園と、文部科学省管轄である幼稚園ですが、行政により「幼保一元化」が進められ、内閣府管轄の認定こども園へと移行しています。少子化による幼稚園の経営難や待機児童問題などによるためです。施設的な面に加えて、人材育成の面でも進められています。

認定こども園について簡単にお伝えすると、以下のように考えるとわかりやすいでしょう。

認定こども園 = 保育園 + 幼稚園

そのため認定こども園では「保育士資格」だけ、もしくは「幼稚園教諭免許」だけではなることができません。両方の免許を持つ人が「保育教諭」になることができ、認定こども園で働くことができる資格を取得することができる仕組みになっています。

保育者養成校

今後、認定こども園へと移行していくため、ほとんどの保育者養成校で保育士資格と幼稚園教諭の免許を取得できるようにしています。専門学校では基本的に保育士資格しか出せないところがほとんどですが、どこかの短大と併修(ダブルスクール)をして幼稚園の資格を取得できるようにしています。また短大では2年間で保育士資格と幼稚園教諭免許を取得させるようにしたりしています。

しかし両方の資格を取得するためにはかなり苦労します。例えば短大ですと約90単位にせまる単位数を2年で取得することになります。基本的に短大の卒業単位は62単位です。それを大幅に超える単位を求められることになります。そして4回の実習も求められます。保育士資格を取得するための「2週間×3=6週間」の保育実習と、幼稚園教諭免許を取得するため4週間の教育実習です。そのため3年間あったとしても、夏休みを利用したり、授業期間を一時中断したりして実習に出なければならず、両方の免許を取得するのはなかなか大変です。

きっと現在このような制度について改善を進めてはいるのだと思いますが、そのようなことを知ってか知らでか、保育者の道を志す高校生たちが激減しています。北海道だけでも2018年から2020年にかけて12%減の220人もの希望者数が減少し、ほとんどの学校で定員割れです。保育者養成のためのカリキュラムの適正化はかなり喫緊の課題と言えます。

潜在保育士

またこのようなデータもあります。2018年に厚生労働省から保育士に関するデータが発表されました。保育士資格を所有している人数は全国で154万人います。そのうち現役保育士は59万人、潜在保育士(現在保育職についていない保育士、もしくは取得後も最初から保育職に就かなかった保育士)は95万人でした。約62%の人たちが、苦労して取得した資格をいかしていないことになります。

東京都が調べたその上位3つの理由は①職場の人間関係、②給与水準の低さ、③仕事量の多さ……です。ちなみに上記したかなり苦労して取得する保育教諭の給与は保育士・幼稚園教諭とあまり変わらないようです。給料面での改善もとても大切ですが、保育士の配置基準なども見直していく必要があります。保育士1人につき0歳だと3人となっていますが、これはおんぶして更に両手に抱っこするイメージでしょうか。また保育士1人につき2歳児は6人となっています。私自身、現在2歳の子どもを育て中で、元保育士の家内を中心にがんばっていますが、1人でもこんなに大変です(とても癒されています)。大勢の子どもたちを面倒見ている保育者の先生方をみると頭が下がります。アフリカのことわざで「子どもひとりが育つには、ひとつの村が必要だ」というものがあるそうですが、わかる気がします。

最後に

保育は日本経済の根幹です。このコロナ禍において子育て世代はそれを痛感していると思いますが、その思いが上まで届いていると嬉しいです。前回「新しい教育の根底~幼児教育の非認知的能力~」にて「小学校に上がる前の幼児期における非認知的能力の育成が40歳での良い人生につながる」ことを記述し「社会の安全化」や「社会経済の向上」にもつながるため、質の高い保育・幼児教育の必要さについてお伝えしました。しかし保育の質がどうのこうのいう前に、潜在保育士からは敬遠され、高校生には夢をあきらめさせてしまっている現状があり、保育の存続自体が心配というレベルです。

子どもたちの夢のためにも、私たちはこのような点も改善していかなくてはならないと思っています。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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