学校での体験を、生涯続く学びに
こんにちは。これまで国際理解教育やSDGsに基づく実践教育活動、そしてそれらを活かした英語教育に取り組んできました。ここでは、その中での学びや工夫した点をお伝えしたいと思います。教育関係者の皆様や、親御さんにも参考になればうれしいです。
札幌市立高等学校 教諭 齋藤 菜奈子
様々なトピックで生徒の関心を引く工夫
私の担当教科は英語ですが、高校生にとって英語はしばしば苦手意識の強い教科です。どの学校でも、すべての生徒が英語に興味を持っているわけではありません。そこで私は、生徒が少しでも興味を持てるトピックを複数選び、授業に取り入れることを心がけてきました。
例えば、学校祭でフェアトレード商品を販売することを提案しました。フェアトレードについて生徒に説明し、利益を寄付することを相談してみると、「素晴らしい活動だからやってみたい」という声が多く上がり、実施が決まりました。この活動では、ポスター作成やシフト表の管理、販売活動まで生徒が主体的に行いました。商業高校の生徒だったため、授業で学んだ情報や会計、マーケティングの知識を活かすことができ、生徒たちは授業で学んだことを実際に使う機会を得ることができました。
このプロジェクトでは、英語の授業で一緒に教えていたALT(Assistant Language Teacher)も大いに協力してくれました。販売の場では、お客様とやりとりする場面もあり、またALTと英語でコミュニケーションを取りました。さらに、販売していた珍しい商品について質問されることも多く、生徒たちは事前に用意した資料を参考に、商品の説明を行っていました。
このように、活動を通じて生徒それぞれが自分の得意分野を活かしながら、自然と協力し合う姿を見て、生徒一人ひとりの新たな一面に気づくことができました。生徒たちが自らの役割を見つけ、責任感を持って取り組んでいる様子を見ることは、教員としても非常にうれしい瞬間です。また、それぞれの生徒の多様な長所を発見して、生徒理解も深まりました。
生徒の強みを活かしたグループ活動
活動を円滑に進めるため、グループ分けにも工夫を凝らしています。特に新入生やクラス替え直後は、親しい友人同士だけで固まらないように気をつけています。ジェンダーバランスや性格の違いを考慮して、得意分野を活かし、互いに補完し合えるようなメンバー構成にしています。
例えば、体を動かすこと、文章を書くこと、絵、コンピュータ操作、英語が得意な生徒などが混ざるようにグループを組むことで、それぞれの強みを最大限に引き出すことができます。また、活動を通じて、普段は話す機会の少なかったクラスメート同士が協力し合い、新たな友情を築くこともあります。こうした協働学習を通じて、教室全体の雰囲気もより安心して学べる環境になっていくと感じます。
英語教育との連携
フェアトレードのような国際理解教育活動と並行し、活動の成果や感想を英語で発表する機会も設けています。英作文やプレゼンテーションだけでなく、動画で日記を撮影する週末課題は、今時の生徒にとっては得意分野なようで、特に積極的に取り組んでいました。さらに、個別に英語の面接試験を実施し、関連するトピックについてやりとりするなど、生徒が実際に使える英語を習得できるよう工夫しています。
生徒たちは、自分たちが体験した内容を英語で表現したいという強い意欲を持ち、実際に経験を英語で話すことも難しくないようです。むしろ、実体験を英語で伝えたいという思いが彼らの学びのモチベーションになっています。
収益の寄付と社会貢献
フェアトレード商品販売の収益は、生徒とも相談した上で、同じ区にある北海道盲導犬協会に寄付することにしました。夏休み中には寄付金をお渡しする目的で協会を訪問し、盲導犬の育成現場や老犬ホームの見学を行いました。盲導犬に興味を持つ生徒、犬が好きな生徒も多く参加し、目の不自由な方々と盲導犬が一緒に訓練を受けている施設を見学し、大きな感銘を受けていました。この経験を通じて、盲導犬の育成に多大な費用と労力がかかることや、盲導犬がまだまだ不足している現状を知る機会になりました。また、自転車に乗る際は周囲に注意を払うべきであることなど、生徒同士で気づいたことを共有し合い、学びを深めていました。
希望する進路へ
こうした活動は、生徒の進学にも大きな影響を与えています。例えば、推薦入試や総合型選抜試験で自己PRを行う際に、これらの体験を活かすことができています。社会的な問題への関心を高め、コミュニケーション能力を養ったことが、希望する進学先に進む大きな力となっているようです。
私がこれまで行ってきた活動は、費用がほとんどかからないものが多く、限られた予算の学校でも実施可能です。生徒と一緒に楽しみ、学びながら成長していく経験が、生徒たちの将来に自然とつながっていくと信じています。
齋藤 菜奈子(さいとう ななこ)
札幌市立高等学校 教諭
アフリカやアジアで、教育担当官として児童や教員の支援に携わった後、十数年前に公立高校の英語教諭に転職。勤務校では、海外の高校との交流、フェアトレードやSDGsをはじめとする実践を通じ、英語を使いながら学び、多様な文化への興味関心を高め、地域社会や海外に貢献する教育活動を取り入れている。
社会活動では、米日カウンシル が主催するTOMODACHIイニシアチブで、大学生のメンターとして四年間活動し、女性・若者のリーダーシップ能力育成に努めてきた。
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