2022.04.21
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新しい教育の根底~幼児教育の非認知的能力~

2022年4月、新しい教育が幼小中高の全ての学校で行われています。
その新しい教育の目指す方向や新しい教育の根底にある、幼児教育の「非認知的能力」についてお伝えします。

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

新しい教育が本格的にスタート

2018年4月、幼児教育からスタートした新しい教育は、小学校・中学校と順次始まり、今年2022年4月からは全ての高校でも開始されることになりました。これにより全カテゴリの学校で実施され、本当の意味での新しい教育がスタートしました。
この新しい教育は、一言で「『より良い社会を創る』ための教育」と言ってもいいでしょう。そのような教育の根底にあるのは幼児教育です。幼児教育では、そのような教育を目指すために「非認知的能力(非認知能力)」に着目しています。
今回はその非認知的能力についてお伝えします。小中高でも気にかけていただけたらと思っています。

新しい教育の根底は非認知的能力

非認知的能力を説明する前に「認知的能力(認知能力)」について説明します。認知的能力とは認知できる能力、つまり数値で表すことのできる能力で、IQ・学力・記憶力といったものを指します。一方、非認知的能力とは認知的能力ではない、つまり数値で表せない能力です。それは大きく分けて3種類あり、以下のようなものがあげられています。

1.目標に向かってがんばる力 … 主体性・想像力・意欲・自己肯定感など
2.人と上手にかかわる力   … 自制心・共感性・自尊心・協働力など
3.感情をコントロールする力 … 自己制御・楽観性・自信・忍耐力など

このような非認知的能力ですが、ここまで重要視されるには訳があります。それはアメリカで行われている「ペリー就学前プログラム」という1962年から現在まで続く研究によるものです。
IQが低く、低所得の家庭の3~4歳の幼児を対象に、ペリー就学前プログラムを受けたグループと受けていないグループを比較したものです。受けたグループは5歳の時点でのIQの高さは明らかに優れていましたが、8歳の時点ではその優位性が消滅し失敗と思われていました。
しかし、その後も調査を続けたところ、40歳の時点で「逮捕歴の回数」「年収」「既婚率」などが、明らかに良い結果となっています。このように将来の人生をより良くできることが分かりました。
また個人的により良くなるだけでなく、このプログラムの費用の7倍とも10倍とも言われる社会経済的リターンが見込めるとの試算も出ており、社会にとってもより良くできることもわかりました。そして教育改革につながることになったわけです。この教育によって非認知的能力が育成されていたことが分析されています。

褒める教育≠非認知的能力

非認知的能力を育成するにあたり次のことを考えて声掛けや関わり方を工夫するといいと言われています。

①こどもがリードする
②結果をほめるのではなく過程を肯定する
③すぐ助けない
④積極的に会話する

この非認知的能力という観点から考えると、最近の「褒める教育」は必ずしもいいというものではありません。褒め方によっては逆効果となってしまいます。

例えば「上手にできたね」と褒めると、上手にできそうにないことはやらなくなってしまいます。「一番ですごいね」と褒めると、一番になれないものにはやる気を示さなくなります。
「上手にできるようにがんばったんだね」とか「1番になれるように努力したんだね」と、過程を肯定する声掛けをすることが大切です。
この非認知的能力という観点を捉えていれば必ずしも無駄に褒める必要もありません。例えば本人が上手くできて完成と思っていたとしても「次はどんな工夫するの?」という言葉がけによって、異なる発想が出てくるかもしれません。

また褒める教育をするためにお膳立てしてしまうと「できるものなんだ」と思い、深く考えなくなったり準備しなくなったりして逆効果です。

私たち教員は正しい答えを求めがちです。また最短コースを歩ませようとしてしまいます。
しかし、新しい教育の目標が「より良い社会創り」となると、教員にも正しい答えが分からない、対象とする社会によっては答えが異なる、すぐに答えが出ない、などが考えられ、そのようななかでも進めていく力を育てることが求められるのかもしれません。
「答え合わせ」が、正しい知識・技能の正解を確認するという意味と、違う発想をしている友達の答えを知る、という二つの解釈になっていくでしょう。

非認知的能力育成の声掛けや関わり方

ここで新しい教育の根底となっている幼児教育に携わる研究者として一つ皆さんに提案があります。幼児教育では声掛けや子どもとの関わり方を①~④の様に工夫していきます。
もし小中高においても同様に声掛けや関わり方を工夫できたら8歳で消滅したとされるIQの優位性の結果が変わったり、社会経済的にも異なる結果を導けたりするかもしれません。
ただし発達段階において声掛けや関わり方は変わると思います。特に反抗期である中学生の時期の声掛けや関わり方はとても難しいように思いますが、とても参考になります。皆で考え実践していきませんか。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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