子役やライバーとして自分を表現する子どもたち
自分自身を表現することで、報酬を得て活動する子どもたちがいます。
学力の3要素の一つである「思考力・判断力・表現力」。その中でも「表現力」を伸ばすことは容易ではありません。高い表現力を持ち、自分の考えを表すことに長けた子どもたちについて考えていきたいと思います。
浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹
表現力を持つ子どもたちとは
「表現力」については、学習指導要領を始めとして様々な通知や資料が出されていますが、教育界での常道の定義から離れ、あえて表現力に対して側道からアプローチしてみます。
一般的に表現力がある子どもたちというと、絵を描くことやダンスを踊ること、歌を歌うのが上手な子といった芸術分野に長けた子というイメージを持つのではないでしょうか。発表が上手だったり、文章などで考えをきちんと伝えられたりするというイメージもあるでしょう。
このように様々なイメージを持つ表現力という言葉。表現力を持った子というのは、どのような子どもなのかなかなかイメージできません。そこで、既に具体的に表現力を用いて社会で活躍する子どもたちについて考えてみたいと思います。小学生の段階で表現力を発揮し、報酬を得ている子どもたちのことです。
子役という世界
子役として芸能活動をしている子どもたちがいます。私はかつて子役事務所に関わる機会があり、十を超える撮影現場やオーディション会場を訪れたことがあります。彼らは、高い表現力を持ち、自分の考えや思いを伝えることが得意です。ドラマなどでは台本を読み込み、その人物の感情を巧みに表現することができます。CM撮影では、朝から晩まで現場で撮影を続け、どんなに疲れていようとも常に全力で演技をしていきます。
一般的な習い事と異なり、彼らが芸能活動をすることで、ギャラと呼ばれる出演料が発生します。いくら子どもといえどもギャラが発生するのですから、子役は高い表現力を持って当然という雰囲気があります。
CMやドラマに出演するためには、オーディションに合格する、もしくは事務所からお仕事を紹介してもらう必要があります。紹介してもらうとしても、事務所で獲得した仕事を所属する全員の子役に割り振るわけにはいかないので、ある程度表現力がある子どもが選ばれます。ましてや、オーディションの場合にはわずか数分という限られた時間の中で自分を表現する必要があるのです。
粘り強く、主体的に自分を表現する子どもたち
そのため、レッスンでは、様々な活動やオーディションに対応するため歌、ダンス、演技をバランスよく練習していきます。日替わりで歌、ダンスなどを練習していくことが多いのですが、どの事務所でも時間をかける練習メニューがあります。それは、実は自己紹介です。
オーディションでは、自分を知ってもらうために、主体的に自分の良さをアピールします。指示されなくとも踊ったり、歌を歌ったりする子も多く、鬼気迫るような気迫を感じます。面接官が尋ねなくても、プラスαで自分の良さを伝えることは、当たり前のように行われています。現場に出た際には、スタッフや出演者に自ら挨拶に向かいます。ここでも「私はこういう人間だ」と主体的に行動することが求められるのです。
また、オーディションでお仕事を得られる子どもたちはごく一握りです。ほとんどの子が辛い思いをします。それでもその子どもたちは諦めず、涙を拭いて次のオーディションを受けていきます。どんなに苦しくても粘り強く自分を表現し続けていくのです。
時には、まだ鉄道も動いていない時間からタクシーで現場に入り、眠気がある中で挨拶や演技をする場合があります。どんな時でも気持ちを込めて自分を表現しようとする子役たちの気迫には本当に驚かされます。
子役の表現力を支えるもの、それは主体性と粘り強さなのでしょう。
誰でも自分を表現できるライバーの世界
自分を表現することで対価を得る子どもたちは、子役だけではありません。近年、ライバーと呼ばれる人々が人気なのはご存知でしょうか。ライバーは、スマートフォン一つで自分の姿をライブ配信していきます。リスナーと呼ばれる視聴している人々に向けてトークを行い、リスナーからポイントを得ていくのです。ポイントと言いましたが、平たく言うと報酬です。
ライバーには、スマートフォン一つあればなることができます。YouTuberと違って、編集技術もいりません。よって、誰でも気軽に自分を表現し、対価を得ることができるのです。
ライブ配信には台本もありませんので、自分をこう表現したいという主体性が求められます。単にこういうポーズをすれば良いとか、この台詞を言えばよいというものでもないので、セルフプロデュースした自分を表現し続けていくのです。
しかしながら、ライバーは、私たち大人が予想もしていなかった存在です。手軽に自分を表現し、その対価を得ることできることが良いかどうか、私には分かりません。様々な方がこの記事を読まれているでしょうから、賛否あるでしょう。私も全肯定する気持ちにはなれません。
ただ、こうした大人たちの心配をよそにライバーの低年齢化は止まりません。「数年で小・中学生の夢の職業にライバーが選ばれる時代が来る」と話すライバーの事務所の取締役もいらっしゃいます。YouTuberがあっという間に子どもの人気職業になったように、ライバーがそうなる時代も来るのかもしれません。功罪あるこのような環境の変化を捉え、子どもたちにどのような影響を与えるのかを冷静に見ていく必要があると思っています。ぜひ皆さんもこうした存在に着目し、注視してもらいたいと思って紹介しました。
表現力を高めるためには
今回の記事では、自分を表現することで、対価を得ている子どもたちから、表現力について考えました。こうした子役やライバーの表現力を支えているのは主体性であり、何としても自分を伝えたいと考える粘り強さなのかもしれません。
子役やライバーという極端な例から考えてきましたが、私たち教員が常道として考える学力の3要素につながるものを感じました。やはり主体的に物事に取り組む態度や自己調整の力を育てていくことが、表現力の伸長につながるのでしょう。
子役事務所で行われているレッスン方法について興味を持つ方もいるかもしれません、今回の記事で反応が良ければ、ぜひ具体的な表現力向上の方法についてまた第2弾を書きたいと思います。今回もお読みいただきありがとうございます。
齋藤 大樹(さいとう ひろき)
浦安市立美浜北小学校 教諭
一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。
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