2019.03.28
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部活動問題から提唱する幼児期・児童期の保育・教育について(3)

非認知的能力を向上させるコーディネーション理論の実践例

旭川市立大学短期大学部 准教授 赤堀 達也

皆様のおかげで、次年度も執筆をさせていただくことになりました。引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
タイトル・サブタイトルが難しい言葉を使っているため、「どんな難しいことをやるのか」と思われている方も多いかもしれませんが、とても簡単で、単なる「運動遊び」です。ただ「ねらいを持って行うといい」ということです。

現在の子ども達が遊んでいるゲームやタブレットの世界では、通信機能で協力はしているものの、そこに相手の表情を見たり、触れ合ったり、察したりするなどはなく、結局のところ個人で遊んでいるにすぎません。
 
こんなことが最近ありました。12月くらいに高校生の生徒たちにタブレットを使って、グループ毎に調べ学習を行いました。内容は難しくないのですが、グループで協力して100個の項目を埋めるように指示しました。すると、個人個人で100個調べていました。グループを作った意味がありません。4、5月くらいならまだわかるのですが、12月で半年以上同じクラスで過ごしてきているのにもかかわらずです。

このようなことから対人で遊ぶことの必要性を感じています。中でも私が「効果がある」と感じた運動遊びをいくつか紹介したいと思います。

1.手つなぎ鬼

手をつないで逃げたり追いかけたりすることで、最初はお互い上手くいかずに文句を言っていますが、次第に相手にアジャストするようになっていきます。これは非認知的能力の向上のみならず、コーディネーション能力でいう変換能力や反応能力の向上にもつながります。特にペアと見ている所が異なり、急に引っ張られても対応できるようになり、子ども達の対応力の高さを感じます。またペア同士で協力するようにもなり、コミュニケーションがとれるようになります。

2.がっちゃん鬼

2人で手をつないで止まっているところに逃げる人が来て、右の人の手を握ったら、反対側の左の人が交替して逃げる。左の人の手を握ったら、その反対側の右の人が交替して逃げるという鬼ごっこです。少し難しい鬼ごっこで小学生以降が対象年齢になります。反対側の触れ合いがない人が逃げることになるため、自然と連携をとるようになります。ペアが引っ切り無しに変わるため、非認知的能力においては、いろいろな人と協力したり、コミュニケーションをとったりする能力を養うことができます。また次はあそこまで逃げてやろうと自然と目標を立てるようになります。
コーディネーション能力においては、定位能力に加え、手つなぎ鬼とは異なる反応能力・変換能力を育むことができます。複数鬼にすると、めまぐるしく入れ替わるため、ビジョントレーニングにもなります。

3.木鬼

氷鬼の変形版です。触られた人は大の字の「木」になります。助けるのには股の間をくぐって助けます。股をくぐる際に四つん這いになるため、コーディネーション能力でいうバランス能力を育むことができます。最近の子は転んでオフバランスの際にプチパニックに陥り、手を着かずに顔から落ちてケガをしてしまう子が多いです。手を扱う識別能力が低いために起きてしまいますが、それを促すことができます。また急いで四つん這いになって低くなりながら手足や体の様々な部位を同時に意識して使っていくため連結能力も育てることができます。

非認知的能力においても、助けるのが楽しいため、助け合い精神がうまれたり、次も助けようと次々と目標を立てたりするようになります。

これらの遊びは、鬼ごっこやリレーといった遊びと比べて、走るスピードは上がりません。一方で、コーディネーション能力や非認知的能力の観点からすると、とても効果がある遊びになります。
 
これらのように運動遊びを工夫することで、お互い助け合ったり目標を決めたりする精神や能力を養い、人間性を育てることにつなげることができます。以前、部活動をがんばってきた学生は就職に有利だと言われてきました。それはよくいうことを聞くからということだけでなく、このような精神や能力をもっているからです。

小さい頃は様々なコーディネーション能力に触れさせると良いです。コーディネーション能力に満遍無く取り組んでいくと、自然と非認知的能力の育成にも行き着きます。そのため、そのようなねらいを持って運動遊びに取り組ませてみてください。

次年度もどうぞよろしくお願いします。

赤堀 達也(あかほり たつや)

旭川市立大学短期大学部 准教授・北海道教育大学旭川校女子バスケットボールヘッドコーチ
これまで幼児・小学生・中学生・高校生・大学生と全年代の体育・スポーツ・部活動指導してきた経験から、子どもの神経に着目したスポーツパフォーマンス向上を図る研究を行う。

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