2021.12.27
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へき地・小規模校の特性を生かす特別支援教育の取り組み:校外学習での公共交通機関の利用と買い物体験学習(1)

へき地・小規模校では、自然体験活動や地域の方との交流が活発に行われ、配慮を要する特別支援学級の児童も、交流先の方に名前や性格も覚えて安心して学習できるなど、充実した学習環境が整っています。一方、都市部の学校と比べると、経験がしにくいこともあります。でも、そのハンデも、逆手にとってしまえば、可能性が広がります。

北海道公立小学校 教諭 深見 智一

公共交通機関を利用する機会が少ない…でも、少し先の将来を考えると…

へき地・小規模校の児童にとって、バスや鉄道などの公共交通機関の利用は、日常的に経験することのないことの一つです(小学生が公共交通機関を利用する機会は、大都市部などごく少数の児童なのかもしれませんが…)。以前勤務していた学校では、学校の前のバス停に停車する路線バスは、1日にわずか2本でした。多くの利用客は、高校生か通院するご高齢の方でした。その学校の地域は、近くに高校がなく、1時間以上かけて市街地の高校に通う必要がありました。児童にとっては「今は」あまり身近ではない路線バスですが、高校に進学すると、バス通学をすることは当たり前になるわけです。

その学校では、特別支援教育コーディネーターの先生を中心に、早い段階から、進学や就労について考える機会が多くありました。そこを見据えて、逆算する形で「今の段階でできることは何だろう」と保護者や児童と共に考えることが多くありました。「中学校って、こんな勉強をするんだって」「先輩の〇〇くんは、今は△△高校に行っているよ」「先輩の〇〇さんは、今は□□というお仕事をしているんだって」というようなことを時折子どもと一緒に考え、少し先の自分の姿をイメージする機会を計画的に設定していました。そうすることで、指導する教員は、その児童にとってどのような学習が必要かを判断しやすくなりますし、児童にとっては、「どうしてこの学習をする必要があるのか」という学びの必然性を感じやすくなります。保護者も、子どもの将来のことを考えるきっかけの一つになります。

そのような少し先を見据えた学習の一つとして、保護者の理解を得ながら、特別支援学級の教育課程に「公共交通機関の利用」と「買い物体験学習」を計画的に位置づけることにしていました。高校(もしかすると、就労支援施設など)に行くには、こうやってバスに乗るんだ、ということを早くから経験しておくことで、中・長期的には、進学先や就労先の選択肢が児童・保護者共に広がるということが期待できると考えていたからです。

「小規模校だからできるんですよね?」→「はい、そうです」

時折、研究会などで小規模校での実践を発表したときに、見出しのような反応をされる方にお会いすることがあります。ちょっと冷めた反応…というのでしょうか…。もしかすると、「うちは規模が大きいから、そんなことはできないよ…」という思いがおありなのかもしれません。

たしかに、へき地に所在することで経験しにくいことも多くあり、指導する教員にとっても「ハンデ」と思いがちです。一方で、小規模校であるがゆえに「機動性の良さ」が生まれるわけです。保護者に説明責任を果たし、費用のご負担にも協力を頂きながら、少人数であることを生かして校外学習を行いやすい環境にあるからです。教育委員会が、緊急車両としてスクールバスを貸し出してくださる、ということもありました。恵まれた環境にあったと思います。

それで、「小規模校だからできるんですよね?」という問いかけに対しては、私は「はい、そうです。小規模校だからできるんです」と堂々と言っていました。同時に、「ただ、人数が少ないから体験できないこともいっぱいあるんですよね」ということも申し添えるようにしていました。通常の学級でも、チームで行うスポーツを経験することはありませんし、学年によっては同じ学年の児童がいないということもあるのです。そういう不便さや寂しさも感じることがあるのも事実なのです。

電車にのって、バスに乗って、ショッピングセンターへ

児童の映像には、ぼかしを入れています。

特別支援学級の校外学習では、参加する児童の学年が異なり、それぞれの特性、目標、必要な学習活動も異なります。ただ電車に乗って、バスに乗って、ショッピングセンターに行って買い物をしてくる、というわけではありません。一つ一つの活動を吟味し、極端に難しい活動ではないか、本当にその子にとって必要性がある学習なのか、ということを個別に検討する必要があります。当然、安全管理にも気を付けなければなりません。

写真は、ある年の校外学習ですが、上の学年の児童にとっては、リーダーシップを発揮する絶好の機会になりました。交流学級ではフォロワーに回ってしまいがちなこともあるのですが、意図的にリーダーシップを発揮できる場面を作ることで、自信を持てるようになっていきました。高学年の児童が、時刻表を見て、ホームや行き先を確認し、下の学年の児童の手を引きながら電車(ディーゼル気動車ですが…)に乗っていく、そんな姿、微笑ましい光景を見られるのは、教師として本当にうれしいひと時でした。どのように学習を進めたのかということについては、次回の記事でご紹介します。


深見 智一(ふかみ ともかず)

北海道公立小学校 教諭


書籍等で取り上げられることがあまり多くない1学年につき1学級の単学級の学級経営、複式学級の学級経営について、これまでの実践や量的調査の結果をもとに、効果的な実践例を発信していきたいと考えています。

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