2021.04.08
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

失敗あれこれ(1)

今期も執筆を継続させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
「失敗は成功のもと」「失敗と書いて成長と読む」などといわれるように、失敗から学ぶことはとても意味のあることだと思います。
そんな私の失敗談を2つ紹介します。

尼崎市公立小学校主幹教諭 山川 和宏

新任のころ

この4月から、たくさんの新任の先生たちが学校現場で働き始めておられることと思います。

あたりまえのことですが、私にも新任のころがありました。社会人経験のあった私は、学校とそれまでの職場とをつい比べてしまって、なかなか学校現場での常識を受け入れることができずにいました。

例えば、教師同士が「〇〇先生」と呼び合うのにはどうしても違和感がありました。その前の職場では上司も社長も、役職ではなく「〇〇さん」と呼び合っていた影響があったのかもしれません。自分が「〇〇さん」と話しかけてしまったがために、大変気を悪くされた職員の方もいらっしゃいました。

また、「いろいろと教えてもらったりお世話になったりするんだから、朝早く学校に来て先輩の先生たちのお茶をいれておくんだよ」と当時の校長先生に教えていただいたのですが、私は一度たりとも実行しませんでした。「飲みたい人が飲みたい時に自分でいれればええやん」と思ったのです。

そのように、職場での常識に逆らい、よかれと思って言ってくださるアドバイスを聞き入れない私の態度は、先輩の先生方にとって生意気にうつったことでしょう。それでも、「いつでも学年で話ができるように、教室ではなく職員室で仕事するんだよ」とか、「校務員さんや給食の調理師さんといった縁の下で支えてくださっている職員の方たちを大切にするんだよ」とか、「服装は自由だけど、襟付きのシャツを着て仕事するんだよ」とか、いろいろなことを指導してくださった先輩たちには、感謝の気持ちしかありません。よい先輩たちに恵まれました。

今から思うと、やはりもう少し当時の自分に素直さと心のゆとりがあったらと思うので、当時の自分のとった態度は失敗だったと思うのです。

ヤップ島にて

青年海外協力隊としてミクロネシア連邦ヤップ島に派遣されていた時のことです。

私は休日に日本人の友人とボートに乗って、釣りに出かけました。その日は、糸を垂らせば魚がかかるというくらい面白いように魚が釣れ、私たちは夢中で釣りを楽しんでいました。知らず知らずにボートが潮に流されていることにも気づかずに……。

「まずいぞ」

友人が異変に気づきました。

陸からこちらに向かって二艘のボートが近づいてきていました。ボートには、勇ましい男たちの姿。そして、その手にはどうやら棍棒のような武器が握られているようでした。
私たちが釣りを楽しんでいたボートが、いつの間にか潮に流されて隣村の領海に入りこんでいたのです。
すぐに私たちは隣村の集会所に連れて行かれました。
隣村の酋長は、こんなことを云いました。

「お前たちは私たちの海の魚を盗んだ。この罪はとても重い」

ヤップ島の海にはそれぞれ持ち主がいて、勝手に人の海で釣りをすることは盗っ人と同じなのです。私たちはヤップ島に入国してすぐにそのことを教えてもらっていたにもかかわらず、うかつにも隣村の所有する海でたくさん魚を釣り上げていたのでした。
酋長は続けます。

「よそ者が我々の海から魚を盗んだ時には、木に縛りつけて村の男たちに石を投げつけられることになっている」

石といっても小石ではありません。握りこぶしくらいはある大きな石です。こんな石を投げつけられては、下手をすれば命にかかわります。非常にまずい状況でした。
酋長はさらにこう云いました。

「お前たちは日本人か?何をしにこの島にやってきた?」

「私たちは青年海外協力隊の者です。私は中学校で算数を教えています」

「遠い国から我々を助けるためにやってきたお前たちはえらい。そんなお前たちを傷つけるのは忍びない。お前たちの村の者と話したい」

連絡をとると、すぐに友人のホームステイ先のお父さんが駆けつけてくれました。その手には、ヤップ島で貴重な価値を持つ貝貨(非常に大きな貝殻を装飾したもの)がありました。彼らが話し合った結果、我々は赦されました。

助けてくれたお父さんは私たちを一切責めませんでした。むしろ私たちに同情的でした。お父さんが大切な貝貨を差し出すことで赦してもらったにもかかわらずです。家宝ともいえる貝貨をこのようなことで使わせてしまって、非常な迷惑をかけてしまったことが非常に心苦しかったです。

もう二度とこのような迷惑をかけまいと誓いました。

2つの失敗から学んだこと

この2つの失敗から学んだことは……

「郷に入れば郷に従え」

これに尽きると思います。

まずは、その場のやり方やしきたりとしっかりと受け入れること。そこには何らかの理由や必然があるはずだからです。

初めての学校現場にせよ、外国の島にせよ、自分自身が「よそ者」だったのです。そのことを自覚し、謙虚な心を持たなければなければいけなかったと思います。

そして、一度受け入れた上で、疑問があればなぜそのようにしているのかを聞いてみたり、自分自身のやり方を加えたりすればよかったのです。そうして一度消化した上で、それでも自分に合わないことがあれば、その時に捨てるかどうか判断すればよかったと思います。

若いうちは夢中になればいい。だけど、同時にどこかで自分を俯瞰で見る視点を持ち合わせることも大切なのではないでしょうか。

山川 和宏(やまかわ かずひろ)

尼崎市公立小学校主幹教諭
演劇ユニットふろんてぃあ主宰
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

この記事に関連するおススメ記事

i
pagetop