『三年とうげ』でビブリオバトル
今回は、数年前に3年生で行った授業実践を紹介します。本授業実践では、学習指導要領の第3学年及び4学年の「C 読むこと」の指導事項ウ「場面の移り変わりに注意しながら、登場人物の性格や気持ちの変化、情景などについて叙述を基に想像して読むこと」を一つの目標にしたものです。
私は3年生の最後の物語教材で上記の目標を達成させるべく、『三年とうげ』という教材を使って言語活動のゴールに「ビブリオバトル」を行うことにしました。このビブリオバトルとは、「人を通して本を知る 本を通して人を知る」というキャッチフレーズのもと、参加者が紹介したい本のあらすじやおすすめポイントなどを1人5分間で発表し、聞き手の参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分間行うものです。そして、「どの本が一番読みたくなったか」という観点でチャンプ本を決める活動です。このビブリオバトルをする際に、話し手はおすすめの本から読み取ったあらすじやおすすめポイントを伝えなければなりません。そして、自分のおすすめする本を選んでもらうには、聞き手に「読んでみたい」と思わせる発表の仕方を考えなければなりません。従って、ビブリオバトルを通して物語の各場面を関係づけて読み取り、短くまとめる力や自分の思いを筋道立てて、分かりやすく相手に伝える力、つまり先述の学習指導要領で目標とすべき力を育てられると考えました。
あらすじを書いてみよう
とは言うものの、子どもたちは「ビブリオバトル」という言葉自体知りませんでした。そこにどう興味を惹きつけるかを考えた結果、まず、第一次でビブリオバトルが行われている動画を見せ、ビブリオバトルに対して興味をもたせました。子どもたちは、そのレベルの高さにあっけにとられつつも、「何かすごい」という漠然とした思い、そして、「バトル」という名前の通り自分のスピーチで対戦が出来るというワクワク感を駆り立たせることができました。
そして、クラスで「ビブリオバトル」をしようと投げかけ、「班でのトーナメントで勝ち上がった者は、体育館の演台で、マイクを持ってスピーチをするよ。」ということを伝えました。これだけで、子ども達の意欲は高まります。その中で、お話を紹介するには、あらすじを伝える必要があることを確認します。ここで、本単元の目標につなげていきます。
そして、第二次では、「三年とうげ」のあらすじを書く活動を中心に行っていきます。あらすじには「出来事が起こる前の中心人物の気持ち」「中心人物の気持ちを変化させたであろう出来事」「出来事が起こった後の中心人物の気持ち」の3つのポイントをまとめたらよいことを伝えていきます。あらすじを書いていくために、まず中心人物の気持ちや気持ちを変化させた出来事の詳細を読み取っていかなければなりません。
従って、クラス全員がおじいさんの気持ちの変化を捉えた上で、「三年とうげ」のあらすじを書かせていきます。あらすじを書かせる際には、まず、1人で考えさせ、ノートに書かせます。次に、数名の児童に、考えたあらすじを板書させ、どこがよくてどこを直すべきかを全体で交流していきます。この途中評価はかなり大切にしたいものです。この途中評価があることによってクラス全員が何を書けばよいのかが視覚的に共有できるからです。
見るべき観点は、上述した3つの観点です。児童が板書したあらすじに、それらのポイントが入っていれば、青色(マイナスの気持ち)、緑色(出来事)、赤色(プラスの気持ち)の3色に分けて線を引き確認していきます。その後、自分の書いたあらすじにもその3色で線を引かせ、再度考えさせます。そうすることで、考えを再構成し、1人であらすじを書くポイントを明確に理解できます。
ビブリオバトルに挑戦
第三次では、ビブリオバトルを行います。まずは、並行読書をしてきた本のあらすじやおすすめポイント等伝えることをふせんに書き出させます。書かせた後は、話す際の構成を考え、発表の練習をさせていきます。ここでは、聞き手に自分の思いを伝える際に重要となる言葉の抑揚と間の取り方の2点を意識させ、練習させます。
練習した後は、実際にビブリオバトルを行いクラスで発表チャンピオンを決めていきます。ビブリオバトルの公式ルールからは外れますが、児童の実態を考え1分30秒の発表に1分間の質問タイムを設けることとしました。また、並行読書をさせる本は、予め、あらすじが捉えやすい民話や昔話を数冊選んでおき、その中から決める為、チャンプ本を決めるのではなく、「誰の発表がその本を読みたくなりそうか」という発表チャンピオンを決めていくことにしました。その際には、なんとなくやその友だちの先入観で選ぶのではなく、評価の観点(伝え方・内容)を与え、具体的に考えさせ、評価させるようにしました。
この活動を通して、次学年以降で学習する主題を捉える力の基礎をつけること、自力で文章の内容を読み取った先にある読書の楽しさ、思いを伝える楽しさに気がつけることのきっかけになってくれたらという思いで授業をつくりました。この授業実践で一番心に残っているのは、ある女の子が、「先生。あらすじって全部言ったら読む人の楽しみがなくなるよ。だから、私は、最後の結末はあえて書かないようにしました。これは、あえて書いていないので知っておいてください」と言ってくれた言葉でした。私自身、型にはめることしか考えていなかったのですが、この子は、本当に実生活レベルでこの活動を考えてくれているんだと、強く反省したのをよく覚えています。本来、言語活動を行う際は、実生活にこそ生かされなければならない活動であるべきだということも教えられた気分でした。
このビブリオバトルは、あらすじ指導をする場面から作品に対する自分なりの解釈を指導する場面まで、行える言語活動だと思います。
詳しくは、指導案を載せていますので、そちらをご覧ください。
参考資料
川上 健治(かわかみ けんじ)
明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。
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