2019.07.31
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TTPそしてアレンジしたp4c

TTPって何だか分かりますか??TPPと間違いそうですが、ちょっと違います。「徹底的にパクる」という言葉の頭文字を取ったものとして使うこともあるのだそうです。学校においても、授業やクラス経営、部活動などで、誰かの実践を参考にするというのはよくあることだと思います。ただ、対象としている生徒も、その生徒たちに向き合っている教員も違うわけなので、まったく同じやり方ではうまくいかないことも多いです。そんなとき、どうアレンジするか?が非常に重要だと思います。
今年度から勤務校が変わり、授業する内容や人数、進路希望なども、また違った生徒たちに向けて授業をしています。そんな変化に合わせて、やってみたアレンジについて記事を書いてみました。

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭  山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路

p4cについて

昨年度までの勤務校の授業で実践していたのが「p4c(philosophy for children)=「子どものための哲学」という手法でした。クラス全員が輪になって座り、正解のない問いについて対話するといった教育手法です。詳しくは、以前書いた記事がありますので、そちらを参照してください↓

「授業に対話(p4c)を取り入れる」
「セーフティの大切さ」

学校による違い

現在の日本ではほぼ全員が高校に進学するわけですが、その後の進路希望などにより高校ごとの特色は中学校以上に多様なものとなっています。私の勤務校はこれまでの記事でも紹介していますが、昨年度までは夜間定時制高校で、人数は1クラス10名程度の少人数でした。また、働きながら学んでいる生徒も多いですし、卒業後も就職を希望する生徒が多いため、社会で役立つ実践的な力が求められていました。さらに、実業高校でもあったため、地歴・公民などのいわゆる普通教科の時間数はあまり多くないので、少ない時間内に求められる力を効率よく身につける必要がありました。地歴・公民の教員は私1人だけですので、専門に関わらず開講されているすべての科目を受け持っていました。

これに対して、今年度赴任した学校は普通科の単位制高校であり、多少のバラツキはあるものの1クラスは40名です。進学を目指す生徒がほぼ全員であり、大学入試に向けた放課後の講習なども行われます。地歴・公民の時間数については、特に文系クラスは手厚く配当されており、1つの科目をより深く学ぶことができます。地歴・公民の教員も複数いますので、基本的には自分の専門とする科目を中心に授業を担当しています。

ということで、この2校を比較しただけでも、その特色に大きな違いがあることが分かると思います。さて、それぞれの学校に前述した「p4c」を取り入れるとしたら、どのような形になると思いますか?前任校での取り組みは、紹介した以前の記事にあるので割愛して、現在の勤務校での取り組みを紹介したいと思います。

まずは目標から

これはとても大事なんですが、前任校で「p4c」をやっていたから、またやろうと、手法ありきで考えるのはよくないと思います。生徒たちを見て、課題や身につけてほしい力を見出し、どんな授業が有効なのか、見極める必要があります。

今回の学校で、身につけてほしいと感じたのは、未知の課題にぶつかったときに安易に「答え」を求めるのではなく、試行錯誤したり、他者と価値観を共有して新たな知見を得たりする術です。進学希望の多い学校ですので、問題集などもたくさん持っています。すると、問題には必ず「答え」があるので、少し考えて分からないとそこに頼ってしまう場合もあるようです。しかし、そのやり方だと本当の実力は身につかないですし、何より社会に出たら正解のない課題がたくさんあるわけです。

ということで、現在の勤務校でも「p4c」は有効だ!と考え、ぜひ取り入れたいと思いました。が、年度の最初から「じゃあ、みんなで輪になって正解のない問いについて対話してみよう!」などと言って、うまくいくはずはありません。大学入試の日程もありますので、それに間に合うペースで授業を進める必要もあります。さて、数年前に「p4c」に出会い、前任校でもオリジナルをかなりアレンジしました。今度は、どんなアレンジが必要なのか?

4ヶ月かけて・・・

結論から言えば、「クラス全員で輪になり正解のない問いについて対話する」という「手法」を実践できたのは7月になってからでした。ただ、そこに至るまでの4月からの授業は、常に「p4c」の考え方を意識しながら少しずつ仕掛けをしていき、ようやくたどり着いたといった感じです。その概要を簡単に紹介します。

(0)授業の基本形

授業の基本形は以下のようなスタイルです。
 (前半)授業者から単元の概要を簡潔に説明
 (中盤1)グループを作って教科書準拠ワークに取り組む(話し合い可)
 (中盤2)グループを維持したまま応用問題に取り組む → グループの答えをホワイトボードにまとめる → ホワイトボードを黒板に貼って全体共有(話し合い可、というより1人での解答はやや困難な問いを設定)
 (後半)小テスト、振り返り記入

(1)授業スタート期(4~5月くらい)

とりあえず正解のない問いに慣れていない生徒もいることと、正解のある問いだと真剣に取り組む生徒も多い感じでした。そこで、毎回の授業の「応用問題」に、決まった正解があり、教科書をよく読めば解答できるような問いを取り入れるようにしました。あまりに簡単だと1人でできてしまうので、例えば教科書の本文でなく図から読み取った事項を使うとか、資料の説明文などに書かれた事項を活用するといった問いにします。ただ、その絶妙な難易度の設定が何とも難しいのですが・・・。

(2)慣れてきたら・・・(5~6月)

(1)の問いに慣れてきたら、今度は、正解はあるけれど、教科書に載っていない(一般常識やニュースで分かるような)知識を活用する問いを入れてみました。これもやはり真剣に取り組む生徒が多いことと、以前より難しいので意見の交換が活発になってきた感じがしました。

(3)正解がなくなる・・・(6月)

(2)にも慣れたところで、教科書で扱った内容に関して賛否を問うなど、二者択一ではあるが正解はないような問いを入れました。ちなみにこの場合はグループの意見を統一することは求めていないので、ホワイトボードにまとめるのではなく、グループごとに発表し合い、「面白い!」と感じた意見を選んで、その人が全体で発表という形式にしました。

(4)正解も、選択肢も・・・(7月)

最後は、教科書で扱った内容について、正解もなく、選択肢もない状態で、自分の意見を記述する問いを設定しました。さらに、グループから代表として選ばれた生徒の意見だけでなく、プリントを回収して見つけたオリジナリティのある意見を次時に紹介し、ありきたりな記述でない自分の言葉でまとめた意見が注目・許容されるよう努めました。

ここまでやったところで、やはり輪になっての対話はしていないのですが、生徒たちの振り返りにも変化が見えてきました。「正解がないと、人によっていろんな考えを聞くことができて面白い」とか、「難しい問いだったけど、いつもより深いところまで考えられたと思う」とか、正解のない問いを追究することへの楽しさに触れたという記述が見られました。

(5)ついにp4c

そして、(4)までを踏まえて、輪になっての対話をやってみました。初めてやるので、難しい問いはやらず、コミュニティボールというものを作りながら自己紹介……といってもすでに7月なので、自己紹介は今さらだけど「実は……」から始まるエピソードを言ってみようということに……「実は……ってハードルが高い!思いつかない!」といった声も多かったので、「思いつかないときは、『実は、今日は〇時に起きました』でも良いです」と言いました。が、実際に、起きた時刻を言った生徒はごく少数なんです。なんだかんだ言いながら、みんな頭でしっかり考えているんです。でも、それを受け入れる土壌がなかったり、思いつかないだろうと決めつけたりすることで、高校生の柔軟な発想や正解のない問いに向き合う知的好奇心が奪われるのは悲しいと思います。

1回経験すると次からは少しずつ難しい問いにも挑戦できるので、夏休み明け、どんな問いで対話できるのか、今から楽しみです。夏休みといっても、保護者面談や研修、部活など、様々な業務が立て込んでいますが、生徒も教員もリラックス&リフレッシュして、パワーアップして新たなスタートに備えたいですね!最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

高橋 英路(たかはし ひでみち)

前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭


クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。

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