2022.05.31
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

やさいげんき2年1くみGOGOGO!!(2) 【食とくらし】[小2・生活科] 

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。
第184回目の単元は「やさいげんき2年1くみGOGOGO!!」。前回は、一人一つ自分の育てたい野菜を決め、野菜の苗を手に入れるまでの姿を紹介しました。栽培活動に至るまでに、どのように手に入れるか問題解決的に体験を繰り返しました。そして、表現の場面では、国語や図工といった教科を関連させながら学びを深めていった子どもの姿がありました。
第2回は、苗を手に入れた子どもたちが野菜の栽培活動に没頭し、個別に学び深めていきます。

授業情報

テーマ:食とくらし
教科:生活科
学年:小学校2年生

1.Aさんの姿~きゅうりの試食で学びへの意欲をかき立てる学習支援~

黄色くなったきゅうりを示して発表

地中にきゅうりの絵を描いたAさんは、野菜の栽培活動に継続して取り組むことが難しかった。苗をもらった当初は、水やりを進んで行っていたが、長くは続かなかった。
野菜のお世話の時間に、友達から「水とか肥料は、あげた?」と聞かれても、虫が近くにいると野菜のお世話をせずに、虫の姿に気をとられてしまい、虫取りに夢中になってしまっていた。

教師は、Aさんが栽培活動に意欲的に取り組めるようにしたいと考えた。その方法が、きゅうりの試食である。先生が育てているきゅうりを塩もみして、全員に試食する機会を設けた。声をかけても動かなかったAさんに対して、実際に収穫できるイメージをつかませ、野菜の栽培に対する興味・関心を高めようとした。そして、試食をしたあと、野菜のお世話の時間を行う時間を設けた。すると、Aさんは、水やりを3回行い、肥料も与えるなど、何かスイッチが入ったかのようにお世話に没頭した。
さらに、クラス全体に以下のような発表を行った。

資料1:Aさんが自分のお世話について、発表した対話場面

Aさん「これは、きゅうりです。肥料をあげなかったら、黄色くなってしまいました」

Mさん「Aさんは、虫に夢中になってたからかな」

Yさん「虫だけじゃなくて、他のものにも夢中になったら、野菜さんがかわいそうだよ」

きゅうりを収穫し、喜んでいる児童

Aさんは、自分から発表すると先生に言ってきた。
資料1の対話から、自分のお世話の仕方や行動について、自分の野菜の様子を見て振り返っていたことがわかる。Aさんは黄色いきゅうりを示してクラスの友達に発表した。この姿からもお世話をしなかった自分自身に気づき、行動を振り返っていたことがわかる。

この後、Aさんは、きゅうりが収穫できるまで、水やりを毎日欠かさず行い、肥料も週一回きちんと野菜に与えるなど、栽培活動に進んで取り組むことができた。さらに、2本目、3本目のきゅうりは、近所の人にプレゼントしてふるまっていたそうだ。
ふるまった人に「おいしかった」という言葉をもらい、「次のきゅうりは、あげる人きまってるんや」とうれしそうに語り、次のきゅうりができるのを楽しみに活動する様子も見られた。

いくら友達や大人にいわれても行動は変わらなかった。しかし、実際にきゅうりを味わうことで、収穫することをイメージさせることが重要であった。
いくら言葉で伝えてもわからない。五感に訴えかけることで有効な支援の手立てとなることがわかった。

2.Bさんの姿より ―互いにアドバイスできる環境設定―

  • 児童が描いた 野菜のキャラクター

  • 苗をもらった時に書いた振り返り

  • 相談に答える友達の付箋

Bさんは幼稚園の頃、自分でかぼちゃを栽培して食べたかぼちゃスープを作った経験があった。その経験から「大好きなかぼちゃを育ててスープにして食べたい」そんな思いを持って栽培活動をスタートした。家で自分のかぼちゃのキャラクターを考えてみんなに紹介するなど,栽培活動をがんばろうという気持ちが溢れていた。

しかし,かぼちゃを育てていたのは、クラスでBさん一人だけだった。他の野菜は栽培する友達が複数いたため、相談して栽培活動に取り組むことができたが、Bさんはそれができなかった。当然ながらBさんは,どうしたらいいかわからず,毎朝,水やりを続けることもできずにいた。

「Bさんの姿を変えたい」と思った教師は,学級の隣の空き教室に「野菜研究所」を作成し,その1つに「お知らせしますコーナー」を設置した。その掲示板には,「赤=うれしい・わくわく」「青=心配・困った」「黄=アドバイス」を書くようにした。すると,Bさんは青(心配・困った)の付箋紙に「葉がかまれてた。背がのびないよ」と書いた。すると,Bさんは「3人からお手紙もらった」とうれしそうに語り,栽培活動に意欲的に取り組むようになった。「みんないっしょに野菜を育てたい」という共通の目的のもと,アドバイスを受けながら、ともに学びを進めていく姿が見られた。

子どもが育てたい野菜を自分で選び栽培することで、子ども同士が協力しにくくなる場合もある。そんな時には、「お知らせしますコーナー」といった互いの進捗状況や悩みを打ち明けられる環境を設定することで、子どもの思いや願いの実現を支援し、学びを支えることに繋がった。

野菜研究所 お知らせしますコーナー

3.Cさんの姿よりー問題解決的に自ら学びを進める姿-

  • 肥料を調べてきた児童の学び

  • とうもろこしと背比べをする児童

  • 単元の振り返り

苗から土嚢袋に野菜の植えかえを行った。その際に,野菜名人より「野菜を育てるには,水と太陽と肥料が重要」と教えてもらった。肥料が重要だと教えてもらったが,肥料が何なのかわからない。そこで,Cさんは家に帰ってから,そもそも肥料が何なのか調べてきた。そして,調べてきたことを全体に共有し,栽培活動に取り組めるよう,野菜研究会を開き,野菜についての気づきを交流した。

Cさんは,毎朝欠かさず水やりを行い,肥料をこまめに与えるなど,野菜のお世話に一生懸命取り組む姿が見られた。
Cさんは育てたとうもろこしと背比べをして,「先生,見て。私の背をこえたんやで。すごいうれしい」とうれしそうに話し,タブレットで写真をとり,記録していた。

このように,毎日の成長に喜びを感じながら,気づきを深めていった。ここでは,対象との思いを近づけるために,支柱にビニールテープに日付と印をつけながら,毎日の成長が目に見えてわかるように支援をした。その結果,毎日,お世話をして日々の成長に喜びを感じながら,栽培活動に取り組むことができた。

しかし,事件が起こる。雌花がふくらみ,もう少しで収穫間近であったとうもろこしがカラスに襲撃された。Cさんは,かなりショックを受けた。しかし,その後も諦めず水やりを行い,カラスから守るために白い布をかけて守るなど,粘り強く取り組んだ。その甲斐もあって何とか根元の部分は収穫することができた。収穫時期も過ぎていたため,しわしわでお世辞にもおいしそうと言えるものではなかったが,苦労して手に入れたとうもろこしをCさんは,大事そうに持ち帰り,調理して食べたことを報告してくれたのであった。

私は,カラスに襲撃されたとき,とうもろこしを何とか食べさせてあげたいと思い,とうもろこしの種を見せ,「もう一回育てる?」と聞いた。しかし,Cさんは「まだできるかもしれないから,育ててみる」と諦めず,とうもろこしの世話を続けた。私は安易に種を見せたことを反省した。Cさんの諦めずに,今育てているとうもろこしを何とかしたいという思いが私の想像を超えて,切実に学びに向かっていたからである。見た目で食べられる,食べられないということよりも,「今まで育てていたとうもろこしを育てたい」と,自分の育てている野菜に愛着をもち,栽培に取り組むことができていた。

そして,単元の最後に,野菜を育ててわかったことを振り返った。すると,できるようになったこととして,「め花とお花が見分けられるようになった」と書いている。知識として,雌花と雄花があることを理解していることがわかる。さらに,「やさいの気もちがわかる」という記述からは,とうもろこしが今,どんな気持ちなのか考え,適切なお世話を考えてできることだと考えられる。自分が野菜の栽培活動から学んだことを自覚し振り返っていた。

4.個の学びの深まり

子どもによって、学びの過程や学びの深まりがちがう。その子どもの思いや願いを教員が見取り、その都度、個別最適な支援の方法を考える必要が出てくる。

次回は、野菜に対する気づきを教室全体でどのように交流し、深めていくか実際の授業をもとにみなさんに紹介し、提案していきたい。

授業の展開例

〇夏野菜の苗を手に入れて、育ててみましょう。

〇土嚢袋で野菜を育ててみましょう。

箱根 正斉(はこね まさなり)

兵庫県西宮市立北六甲台小学校 教諭
教員11年目。生活科・総合的な学習の時間を中心として子どもが切実に学び続けることができる姿を目指して単元づくりや、授業づくりに日々取り組んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop