2024.09.18
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なりきり広告クリエイター 【食と健康】[小学4年生・国語]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第209回目の単元は「なりきり広告クリエイター」です。

授業情報 

テーマ:食と健康

教科:国語

学年:小学4年生

身近な「牛乳」を使っての授業づくり

日本文化教育推進機構のプロジェクト「なりきり広告クリエイター」に兵庫県西宮市立鳴尾小学校が参加し、この授業を実施しました。
子どもたちは毎日、給食で牛乳を飲んでいます。子どもたちに身近な牛乳を通して、「伝える」ことについて考える授業を、一般社団法人Jミルクの方々の協力で企画しました。

Jミルクでは、「土日ミルク」という活動をしています。「土日ミルク」は子どもたちのカルシウム不足の解決を目的に、給食がない日も牛乳を飲むことを促進する取り組みです。「なりきり広告クリエイター」では、給食がない土曜日、日曜日にも牛乳を飲んでもらうためにはどんな伝え方の工夫をすればいいのかを考える学習を行いました。

授業①

(導入)広告の依頼を受ける

まず、プロがつくった「土日ミルク」のポスターを例に示して、子どもたちにイメージしてもらいます。「プロがつくった」と聞くと、子どもたちはざわざわ。「そんなプロがいるの?」「このポスターかっこいい〜」「さすがプロやな」という声が上がります。本物と出会うということが子どもにどれだけ大きい影響を与えるのかを実感します。
「今回は、みなさんにこんな依頼が来ています」と、Jミルクさんからの依頼であるということを伝えます。ここは重要なポイントで、社会で働く大人からの依頼ということです。
この設定があるだけで子どもたちのモチベーションは一気にあがります。この時点で、すでに子どもたちの頭の中には「どんなポスターにしようかなあ」という考えが巡っているはずです。

次に、この活動のゴールを明確にします。目的は、自分が考えたポスターやそれに書くメッセージで家の人に土日に牛乳を飲んでもらったり、使ってもらったりすることです。メッセージの対象は家の人です。
目的と対象を明確にしなければ、工夫のしようがありません。「自分の働きかけで家の人の行動が変わるってすごいことだと思わない?」というと、みんなうなずいていました。

(展開1)考える足がかりをつくる

なりきり広告クリエイター

やる気満々の子どもたちですが、言葉を考え出すのが苦手な子もたくさんいます。私のクラスには、正解かどうかがとても気になって、少しでも不安があると、発言したり、自分の考えを書いたりするのができない子も少なくありませんでした。
そこで、牛乳について知っていることを出し合い、メッセージのヒントになるような言葉を共有する活動を行いました。そんなの知っているよ、とばかりに「カルシウムがある」「背が伸びやすい」「栄養がある」などの言葉が出てきます。自信のない子からすると、自分の考えに自信を持てるきっかけとなります。
さらに、ヒントカードを準備しておいて、いつでも見ていいことを伝えます。ヒントカードには、プロのクリエイターが考えた、最初に例示した言葉とは違うメッセージが書いてあります。自信のない子たちはもちろん、初めに見ておきたい、という子もヒントをもらうことができます。この後の活動で実際にメッセージを考える時に、困った子もヒントを求めて何度も見にきていました。

(展開2)メッセージやポスターをつくる

制作用ポスター

子どもたちのワークシートにはプロのクリエイターが考えたイラストの下にメッセージを書き込めるもの、イラストも自分で描き、メッセージも書き込めるものの2つを準備しました。
メッセージを考えていくうちにきっとイラストも描きたいという子が出てくると考えたからです。最初はメッセージだけのワークシートを選んでいた子も、「イラストも書いてみようかなあと思って」と取りにきていました。

展開2での学習は、最初は個人で行います。考えが停滞してきた様子が伺えたら、「個人で完成させなくてもいいよ」と伝え、友達のメッセージを参考にする活動へと繋げます。
自分の考えたメッセージを紹介して「それいいなあ!」と言われた子は自信が持てますし、考えが進まなかった子にとってはヒントがもらえます。自分では思いつかなかった考えにも触れることができます。まずは自分でじっくり考えたことで、友達と一緒に考えることに必要性が生まれ学習も活発になります。
ヒントカードのところに何人かで見にきた子たちは「これもいいけどさあ…」「この言葉と、考えていた言葉をくっつけたら?」と比較したり、「こっちの言葉に変えよう」と新しい言葉を取り入れたりする子もいました。友達と同じゴールに向かって学習することで、思考は広がり、深まっていきます。

導入で、メッセージを伝える相手を「家の人」としました。対象を明確にすることで、相手をイメージしながら考えることができます。
「お母さんはいつも冷蔵庫のところにメモを貼っているから、冷蔵庫にポスターを貼ろう」「お父さんはゲーム好きだからゲームっぽいイラストにしたらいいかも」「お母さんがあんまり牛乳飲まないから、牛乳のいいところをメッセージに入れよう」というように、対象がはっきりしていると工夫もしやすくなります。

(展開3)学習をふりかえり、次時へつなげる

工夫した点などをふりかえります。その中には、「伝わった度」という項目があります。「伝わった度」は伝える相手の反応を見ないとわかりません。
子どもたちもそのことに気づきます。ポスターを持ち帰って、家の中に貼り、家の人の反応を観察するように伝えます。

授業②

(展開1)家の人の様子を交流する

 

交流しながら学習

「お父さんが、土日に牛乳を飲むのもいいかもね、って言ってた」「お母さんが料理に牛乳を使ってくれた」「お母さんが、このポスターいいねって言ってくれた」というようにうれしそうに発言する子もいれば、「気づいてなかったかも」「お母さんあんまり牛乳好きじゃないんだって」と、残念そうにする子もいました。
「気づいてなかったとしたらどうしたら気づくと思う?」「お母さんに牛乳飲んでみよう、とか牛乳使ってみよう、って思ってくれるために何かいい工夫ないかなあ」と聞くと、「見てくれてなかったんだったら、靴をぬぐところの床にはっておいたら?」「それだったらふんでしまうよ」と、自然に交流がうまれていきました。

ここで、前回子どもがつくったものをコピーしておいて、いいなと思ったものを紹介します。どこがいいと思ったのかを伝え、価値づけをします。前時で友達となかなか交流できなかった子や一人で考えていた子にも新たな視点や気づきを持たせることが目的です。

(展開2)メッセージやポスターをつくる

もう一度メッセージやポスターを再考します。お家の人の反応を見ているので、対象にどうなってほしいかが明確になっています。もしかしたら、家の人にアドバイスをもらった子もいたのかもしれません。黙々とつくり続けていました。
ここでの活動は一人でやってもいいし、友達と相談しながら考えてもいい、自由に動き回っていいことにしました。どこからか「これいいね」と声が上がると、「どれどれ」と友達の作品を見に行きます。自然と交流がうまれていました。
イラストを描こうとしていた子はタブレットで参考になりそうなイラストをさがしたり、4コマまんがをつくっていた子は友達に見せて意見をもらったりしていました。

(展開3)学習をふりかえる

一時と同じように工夫した点などをふりかえります。最初に書いたふりかえりよりも、より具体的に対象を意識し、表現を工夫したところを書いていました。ここでも、「伝わった度」を入れています。週末に家のどこかに貼って、家の人の反応を観察します。

週明けの月曜日、家の人の反応はどうだったかを交流します。子どもたちの渾身の工夫により、とても良い反応だったようです。
「牛乳を使った料理をつくってくれた」「牛乳を入れたドーナツをつくった」「家族みんなでお風呂上がりに牛乳を飲んだ」など、うれしそうに話していました。

振り返り

伝わる表現の工夫が十分考えられたと思います。その要因としては、①身近な牛乳が題材であること、②大人からの依頼という設定、③伝える対象の反応を見て改善する機会があること、だと考えます。

①牛乳を飲んだり使ったりしてもらうためには、そのものの良さを知っていないと考えることはできません。給食で飲んでいますし、牛乳について知る機会は多いです。牛乳について知っていることを出す場面でも、自信を持って発言していました。タブレットを使って調べている子もいましたが、すでに知っている牛乳の良さをもっと調べたいという調べ方をしていました。子どもたちに「これならできそう」と思わせる題材だったと思います。

②大人からの依頼というだけで、子どもたちははりきります。しかも、普段で会うことのない大人です。大人の社会とのつながりが感じられる点でも効果的だったと考えます。

③2時間の学習計画で進めています。メッセージやポスターをつくって終わり、ではなく、一度伝わるかどうか試して、その様子からさらに改善する機会があることがより学習を深めることになると考えます。自分のイメージだけで表現を工夫するだけでなく、実際の反応を根拠にして表現することができたと思います。

※ワークシート及びヒントカード等は以下のwebページよりダウンロードが可能です。
授業ガイドもありますので、参考にしていただければと思います。

土日ミルクスタディ

授業の展開例

・牛乳を「料理に使う」に限定する。
牛乳を使う料理を調べて、「こんな料理につかえるよ」とPRする。
(5年生、6年生)家庭科で実際に調理してみる。より伝えたいという気持ちが強くなるでしょう。
対象を、下学年や学校全体にする。

野口大介

兵庫県西宮市立鳴尾小学校教諭
理科、食育を中心に実践研究に取り組んでいます。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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