2022.09.01
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やさいげんき2年1くみGOGOGO!!(5) 【食とくらし】[小2・生活科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。
第187回目の単元は「やさいげんき2年1くみGOGOGO!!(5)」。全5回で野菜作りの様子を追ってきたシリーズもいよいよ最後です。今回は、野菜を育てた子どもたちが対話を通して学びを深める様子をお伝えします。

授業情報

テーマ:食とくらし

教科:生活科

学年:小学校2年生

前回は、野菜の栽培活動を通して、充実した学校生活へと繋げる子どもの姿を紹介した。
今回は、単元における個別の見取りを、授業の中に生かし、対話を通して気付きの質を高める子どもの姿を目指して取り組んだ実践を紹介したい。
授業での協働的な学びを、個にかえして、さらに学びを深めるといった個別最適な学びの事例について提案したい。

1.授業における中心発問の精選「みんなの育てている野菜は食べられるのかな」

本時の目標として、野菜がもうすぐできるということを「野菜は、花から実ができることに気付くことができる(知識)」として、授業を実施した。
そこで、子どもが自分事として、切実に学ぶ姿を引き出したいと考え、中心発問を「みんなの育てている野菜は食べられるのか」ということとした。

2.座席表による個別の見取りシート

図1 前時までの子どもの見取り(座席表)

授業では、どのような意見がでるか、図1のように座席表に書き込みまとめた。前回、紹介した個別の見取りシートは、単元全体で子どもを見取ったものである。ここでいう座席表に記した子どもの見取りは、「野菜は花から実ができることに気付く」という目標に対して、授業実施前に生活経験や学びの履歴などから子どもを見取ったものである。

図1にあるように、黄色は、花から実ができるということに気付いている子どもである。また、青色は、授業の目標に迫るため意図的に気付きを取り上げ、学びを深めるきっかけとなりそうな子どもである。

このように授業における子どもの個別の気付きや発言を予想し、花から実に繋がる意見を引き出し、子ども同士の発言を繋げながら、協働的に学びを広げ、理解を深めることができるように実践に取り組んだ。

3.授業における学びを深める手立て

(1)野菜の共通点が比べられるような板書の工夫-構造的な板書づくり―

図2 校内研究授業「みんなの野菜は食べられるのかな」板書記録 

野菜が花から実になるという意見を引き出した後、その自分の野菜への気付きを他の種類の野菜と比べることができるよう、板書において下に花への気付き、上に実ができるということを揃えて書き、気付きの質が高まるように工夫した。(図2)

ここでは、図2のように、野菜は花から実ができるという共通点を見つけられるように、横に揃えて書くなど、視覚的な支援を行った。すいかを育てている子どもたちは、すいかには雄花と雌花があり、雄花が咲いても実ができないこととして全体に発表した。花から実ができるという共通性と、野菜によっては、実のでき方がちがうという多様性を子どもたちは、この授業で学んでいた。

個の気付きを交流する場面を設定し、協働的に学びを深めることで他の人の野菜と自分の野菜を比べて観察する視点を持たせ、学びを深めるようにした。さらに、協働的に学んだ後、自分の野菜を食べることができるか、今の気持ちと理由を書くことで、今日の学びを振り返った。

(2)Fさんの学びを授業に生かす

図3 Fさんの前日の一日のふりかえり

授業では、うれしかったこととして「花が咲いた」という意見が出ると予想した。
授業では、Fさんの前日(図3)の振り返りを提示し、花が咲くと実ができるという野菜の共通性へと深める手立てとした。
Fさんは、先週、赤くなったトマトをカラスに食べられてしまいショックを受けた。
そんなFさんは、トマトの花が咲いていたことに気付いたが、花が実になるまでは気付いていないようだった。
授業では、Fさんの資料をもとに全体に問いかけた。
すると、資料1のような対話場面が生まれ、個別の気付きが関連付けられ、深まったのだった。

資料1 【校内研究授業「みんなの野菜は食べられるのかな」授業対話

(資料提示後)先生「Fさん、どうして花がさいたらいいと思ったのかな。Fさんの気持ちわかる人いるかな」


児童「花が増えたら、食べられる実がいっぱいになるからです」「花が増えてまた実がはえてきたら食べられるからです」「花が増えたら実がいっぱいできるからです」「きゅうりの先っちょに花が咲いてる」
先生「証拠を見つけた人いる?」
児童「花が実にくっついてる」
先生「このあと、どうなるの」
児童「花がしぼんでトマトの実になる」「実が大きくなって食べられるようになる」
先生「トマトは花がさくと、実ができるんだね。ほかはどうかな」
児童「きゅうりはきゅうりの先っちょに花がついてるからできる」「(すいか)雄花しか咲いていない。実ができない」「雌花には丸い実があって、それがだんだん大きくなって、すいかになる」

花が咲くと、実ができて、それが野菜になることに子どもたちは気付いた。

Fさんの感想をみると、授業前の意見では、実の色について書いている。
授業後の意見では、はっきりと花について書かれており、学習を通して、学びを深めていることが見てとれる。

Fさん 授業前の意見

トマトも、緑の時、食べれないと思う。赤いところがいっぱいあっても緑がちょっとあっても食べれないと思う。緑があったら食べたことがある人もいないし。お腹が壊れたりしたら大変だから。

Fさん 授業後の意見

今日は5時間目生活をしました。今日もまた、水をあげてやりました。トマトを見て、花を見ました。花を見てこう思いました。花がどんどん進化していると思いました。何でかというと、花が生まれた最初、花が黒でした。次、つぼみ。次は、ぱっとした花。最後、花が開いてパッとした花で真ん中にAさんが育てていたきゅうりみたいなのがあった。

個の学びをクラスの中で協働的な学びに生かし、そして、個の学びに再び戻すことで、関連付けられた気付きへと学びを深めることができた。
この姿は、友達の気付きから、自らの野菜の栽培に生かして自己の学びを深める姿として確認することができた。
また、1学期の最後の振り返りを書いた際には、トマトのことを書いた。

Fさんの1学期のふりかえり

Fさんは、1学期中は、トマトを育てていて収穫することができなかった。しかし、あきらめずに育て続けたいという思いが1学期のふりかえりから見て取れる。さらに、水やりを手伝ってくれた友達のことをふりかえり、協働的に学ぶ良さを感じているのも確認できた。

この後、Fさんのトマトは2学期になっても枯れることなく生きていた。そして、Fさんは、栽培活動を続け、見事、収穫することができたのであった。

3.個別の学びと協働的な学びの往還の重要性

個別の学びと協働的な学びを往還させることで、学びを深める子どもの姿を確認することができた。授業の中で気付きの質を高めることができるように、協働的な学びを取り入れることで、個別の気付きが関連付けられ学びを深める姿も確認することができた。

一つ一つ、一時間ごとに、子どもの学びを見取り、クラス全体に広げたり、個にかえしたりすることで、子どもの学びは、より深まる。このような積み重ねが、子どもたちの充実感や達成感を生み、生活を豊かにする姿へと繋がるのだと考える。

授業の展開例

〇野菜の成長を家の人に自慢しよう。

○野菜を無駄なく全部使いきる料理に挑戦しよう。

箱根 正斉(はこね まさなり)

兵庫県西宮市立北六甲台小学校 教諭
教員11年目。生活科・総合的な学習の時間を中心として子供が切実に学び続けることができる姿を目指して、単元づくりや授業づくりに日々取り組んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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