2022.04.20
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やさいげんき2年1くみGOGOGO!!(1) 【食とくらし】[小2・生活科] 

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。
第183回目の単元は「やさいげんき2年1くみGOGOGO!!」、全5回でお届けします。

授業情報

テーマ:食とくらし
教科:生活科
学年:小学校2年生

はじめに

令和3年答申で、目指すべき新しい時代の学校教育の姿として「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」が提言された。未来の社会を見据え、子どもの資質・能力を育成するにあたって、個別最適な学びと協働的な学びという観点から学習活動の充実が求められている。

生活科の授業の時のことである。こんな場面があった。生活科で野菜を育てていた。「育つには、水、肥料、太陽の光が必要」、地域の野菜名人の話から学んだ。クラスの子どもたちは、植物の育つ条件を考え、水と肥料と太陽の光ということを考え、世話を行っていた。ここで私は、「肥料をあげる」ということを共通で話し合って理解したものだと考えていた。そんな栽培活動に取り組む中でYさんの育てているキュウリが一向に育たなかった。そして、Yさんと以下のような対話があった。

キュウリの栽培活動における対話

Yさん「先生、Aさんのキュウリは育ってるけど何で私のは育たへんの? 水もあげてるで」
先生「どうだろうね。肥料あげてるの?」
Yさん「肥料って水やろ。あげてるよ」
先生「肥料は、水じゃないよ。これ(液肥)を薄めてあげるんやで」
Yさん「えっAさんもこれ(液肥)あげてるの?」

Yさんは、肥料について、このとき初めて理解した。毎日欠かさず水やりをしていても、友達が育てているキュウリのように大きく成長せず、疑問を持ち、肥料の大切さに気づいた。私は、このように理解が不十分であるYさんを見取れていなかった。一斉指導で、同じように活動しているように見えても個別に学習の理解にばらつきがあることを痛感した。それは算数や国語といった教科だけでなく生活科という教科においても同様であると感じた。子どもが本気に学べているか、対象に対する思いや願いの高まり、内容の個々の理解度など、常に変化を見取るように心がけ、指導に生かすことが重要である。

本実践では、2年生生活科の学びを通して、子ども一人ひとりの思いや願いの実現に向けた個別最適な学びが構成できるように考え、実践に取り組むことにした。子どもたちが育てたい野菜と出会い、本気で野菜の栽培に取り組み学びに向かう姿として3回に分けて紹介する。

今回は、育てたい野菜について、子どもがどのように考え、学んでいったかについて、紹介する。

1 育てたい野菜を決める

―生活と国語を関連させた指導―

【育てたい野菜を考えよう】授業 板書記録

本を読んで、育てたい野菜を調べる

1年生の経験を出し合い、育てたい野菜を考えた。
トマト・ピーマン・キュウリ・ナス等、子どもたちが好きな野菜を出し合った。
そして、次の時間には、図書室で読書の時間を設定した。
そうすることで、自分の育てたい野菜についての本を探し出し、育て方や育てられるか調べる子どもが出てくる。
このように、子どもの思いや願いの高まりが生まれるように、教科の時間を関連させて取り組んだ。

2 地域の野菜名人とつなぐ

野菜名人を招いた授業

子どもが話し合う中で、心配なこととして「春と秋に植える野菜がある」という意見が出た。
そこで、野菜名人との出会いの場を設定した。

キュウリの栽培活動における対話

子どもたちは、自分の育てたい野菜が植えられるか、栽培時期と育て方について質問しながら真剣に学んでいた。

3 種と苗を自分たちで手に入れる―町探検と店に電話注文―

苗と種を買うためにお店へ

「先生、種と苗はどうするの?」
ゲストティーチャーに育て方を教えてもらう中で、子どもたちは気づいた。
どうやって手に入れるか、意見を出し合い、近くにあるお店にみんなで買いに行くことにした。
支払いも子どもたちで行った。
しかし、お店には希望していた苗がなかった。

お店に無い苗は電話で注文することに

そこで、ゲストティーチャーに教えてもらった野菜の苗を売ってくれる店に電話で注文することにした。
ナスやスイカ等の苗を子どもたちは注文して、野菜を育てるために、問題を解決していくのであった。

4 自分たちでようやく手に入れた苗

野菜の苗を受け取る

ようやく手に入れた野菜の苗。受け取った子どもたちは、満面の笑みがこぼれた。

その子どもの思いを高めるために国語科と関連させて日記に表現する場面を仕組んだ。
その日記には、野菜に対する思いが綴られていた。

きょうのできごと

三時間目、小玉すいかをお店やさんにもらいました。うれしくて手がふるえました。なえをはじめて見れてうれしかったです。名前をつけました。名前は、「おいしいすいかちゃん」。おいしくなったらいいな~と思っています。きょう、もらえるとは、思っていなかったので、うれしくなりました。

きょうのできごと

三時間目、とうもろこしのなえをお店やさんにもらいました。お店やさんに
「とうもろこしの人~」
と言われてもらったらすぐに、わたしはとうもろこしに名前をつけました。その名前は、「とうもろこしちゃん」となづけました。はっぱがかいそうみたいに思えました。なぜなら、すごくぐねぐねしてて、かいそうににているからそう思いました。わたしは、とうもろこしのなえを見てびっくりしました。どうしてかというと、こんなに大きいなんて思わなかったからです。早く大きくなって、かぞくといっしょに たべたいです。げんきにそだってえいようたっぷりのともろこしにしたいです。

5 大きくなってほしいな!~図工「どのうぶくろ に やさいさんをかこう」~

図工「育てる野菜さんを土のう袋に書こう」 

苗を受け取り、植え替えの前に、図工の時間を使って、土のう袋に野菜の絵を描いた。
自分のもらった野菜の苗が大きく育ってほしいという思いや願いを込めて、子どもたちは思い思いの絵を描いた。






スイカやキュウリの絵を描いた土のう袋

このように、生活科と図工や国語の時間を関連させて、表現する場を適宜、設定することで思いや願いの高まりを生むように仕組んだ。

6 子どもの姿の変容を追いかける

地中にキュウリがなる様子を描いた土のう袋

地中にきゅうりを描く子がいた。
子どもの生活経験の違いから、既存の知識はちがう。

このような子どもが野菜を育てていくうちにどのように変容していくのか。
次回、野菜の栽培について紹介したい。


授業の展開例

〇夏野菜の苗を手に入れて、育ててみましょう。

〇土のう袋で野菜を育ててみましょう。

箱根 正斉(はこね まさなり)

兵庫県西宮市立北六甲台小学校 教諭
教員11年目。生活科・総合的な学習の時間を中心として子どもが切実に学び続けることができるように単元、授業づくりに日々取り組んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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