2024.05.03
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伝統野菜(大根)を通した交流学習(前編) 【食と地域・食とICT】[小学5年生・社会]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第205回目の単元は「伝統野菜(大根)を通した交流学習」(前編)です。

授業情報

テーマ:食と地域・食とICT

教科:社会科

学年:小学5年生

はじめに

平成25年(2013)の和食ユネスコ無形文化遺産登録を受けて、伝統野菜を地域復興につなげる動きが高まっています。近年、消費者の本物志向や地域おこしの機運の高まりとともに地域の気候風土や食文化と深い関わりを持つ伝統野菜が見直され、伝統野菜を復活させ地域活性化を図り、地域の農業などの復興の取り組みが行われるようになっているのです。

京都府亀岡市は聖護院(しょうごいん)大根の一大産地ですが、児童にとっては遠い存在です。聖護院大根は、19世紀初めに尾張の「宮重(みやしげ)大根」から育成されました。直径20㎝、重さ4㎏以上の大根であり、肉質が緻密なことから煮崩れし難く、煮物に適しています。辛くなく甘味があることが最大の特徴の亀岡市の伝統野菜です。児童が地域で盛んに生産される伝統野菜に関心を持つようにICTを活用して取り組んだ京都府亀岡市立大井小学校で実践した授業を報告します。

聖護院大根って大きい(第1時)

聖護院大根に触れる児童

教室に大きな聖護院大根を持ち込むと、「かぶ」「聖護院大根」などと声が飛び交います。「先生と皆さんが一緒にプロの方から学ぶ」という授業のスタンスことを伝えます。
そして、担任が「聖護院大根について知っていることは?」と問うと、一人の児童が「伝統野菜」と発言をしました。事前のアンケートから、亀岡の伝統野菜ということは認知している児童もいましたが、「わからない」と答える児童が大半でした。

そこで、京都府農林水産技術センターの竹本哲行さんから話を聞くことで学びを深めるようにします。竹本さんが主に研究している万願寺唐辛子も伝統野菜の一つであることを紹介します。持ち込んだ大きな聖護院大根かぶをリレー方式で回すことで本物に触れ、匂いを嗅ぎ、重さを実感します。児童からは、「大きい」「重たい」「臭い」などの声があがります。切れた葉っぱをうれしそうに友達と触れる様子も見られました。

児童のつぶやき

「本当に甘いのかな」
「ダイコンとカブの違いは葉っぱなんだ」
「大根炊きの時に食べるのが聖護院大根なんだ」
「食べてみたいな」
「『大根十耕』という土を柔らかくすることが大事なんだ」

担任によるベン図の説明

竹本さんからの「聖護院大根を食べたことがありますか」という質問に対し「わからない」と答える児童が多くいました。
理由として調理された聖護院大根は、普通の大根と分別がつかないため、食べている大根がどのような大根なのかを意識をして食べていないという現状が明らかとなりました。
「どこに売っているのか知らない」と答える児童もおり、大半の児童の食生活の身近に聖護院大根は存在しないことが分かりました。

次にロイロノートを使用し、竹本さんの話をもとに「いいところ探し」を行います。
聖護院大根の良い所をひたすら挙げていきました。
その後ベン図を用い、消費者、生産者、産地の視点から良い点、悪い点を整理しました。

児童からの意見

消費者の視点
・辛くなく甘味がある
・煮崩れしない
生産者の視点
・普通の大根より甘いため売れる
・地域で大根を食べてもらえる
・伝統野菜を守ることができる
産地の視点
・伝統野菜を紹介できる
・亀岡市の稼ぎになる
・亀岡市を知ってもらうきっかけにできる。

児童のベン図と振り返り「聖護院大根の良いところ」

良い所を探すことで、さらに考えが深まり竹本さんへの質問が飛び交いました。
「あまい」などの消費者目線の考えのほかに、「亀岡市の稼ぎになる」という産地目線の考えや、「土を作るのが大変」という生産者目線の考え方も出て、多方面から考えることができていました。
後継者不足など伝統野菜を作り続ける苦労はあるものの、良さも多いです。
だからこそ、その良さに注目し「ブランド化」することで付加価値を高めるという生産者や産地の工夫が見られることを確認しました。

栄養教諭とzoomで交流(第2時)

3つの大根を比較した板書

2時間目は三つの地域の特産品である大根を、現地の栄養教諭から話を聞き、その後質問コーナーを設け情報を共有するという進行方法で授業を行いました。

桜島大根

前時の竹本さんの話やベン図をもとに、聖護院大根の特徴について振り返ります。

・とれたてで新鮮・作っている人がわかる・ブランド化されている

次に、三つの地域の栄養教諭とZoomをつなぎます。児童は興味津々に画面を見て本時の学習についても会話を交わしています。
「聖護院大根ってどんな大根だったかな」という問いかけに対し、「他と違う」「ブランド化されている」といった声があがります。
最初の鹿児島県の桜島大根は、ギネス記録にも認定されている大根で、大きいもので36㎏という重さと、椅子に置かれた大根の大きさに児童も驚いた反応を見せていました。
「どれくらい甘いのかな」「種の大きさはちがうのかな」「他の大根と違う良い点はどこだろう」とたくさんの疑問を栄養教諭に聞くことができていていました。

守口大根

次に、岐阜県の守口大根は長さが特徴の大根で児童もとても驚いた表情や、関心を持った表情を見せていました。
固くて水分が少なく、甘くないという特徴から漬物に向いているという情報を聞き、大根によって形、大きさ、味が違うという所から向いている調理方法も異なってくるということを知ることができたと考えます。
「一番長い・短い大根は何メートルなんだろう」「何円で買えるのだろう」「甘い大根はあったのかな」などという質問が出ていました。

左:大蔵大根 、右:伝統大蔵大根

最後に東京都の伝統大蔵大根は一見普通の大根と見分けがつかないため、実物を教室に用意しました。段ボール箱から出すことで児童の興味や関心を掻き立てるような工夫がなされていました。
実物を見ると「ぜったいうまい」「食べてみたい」などの声があがりました。実物があることで実際に触れることができ、葉の様子が違う所などを見比べることができていました。
その気付きから葉が寒さから守るために這いつくばるという情報も知ることができ、より深い学びにつながっていたと考えます。
「変な形になったのはあるのかな」「品種改良にどれだけの時間がかかったんだろう」という質問が出てきており、さらに深い学びにつながっていました。

自らの地域の特産品との比較をし、お互いの大根の良い所に気付き、より伝統野菜に関心を持つことができるような授業内容でした。それは、大根に関わる本物の存在なしでは成し得なかった結果であったと考えます。

後編では、実際に桜島大根を調理し、味わうことで伝統野菜の価値や特徴について学びを深めます。

日車 光佑(ひぐるま こうすけ)

ロイロノート認定ティーチャーとして、ICTを利活用した教育に積極的に取り組みつつ、児童が学びたいという意欲を引き出すため、本物や体験を大切にした授業を展開する。
得意教科は社会。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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