2024.11.04
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日米学校交流プロジェクト~学校紹介ビデオを撮ろう~(後編) アメリカンスクールの教師という仕事

前編では、キンザー小学校(Kinser Elementary School)202410月に行われたビデオ制作の授業をリポートした。後編では、AAPS(旧ギフテッド教育)担当のマルコス・ドミンゲス教諭にも話を聞いたほか、下條綾乃教諭に授業づくりで意識していることや、アメリカンスクールの学校運営の特性、労働環境についても聞いてみた。

「日本語・日本文化」の授業づくり

下條 綾乃 教諭

――プロジェクト型学習の授業づくりでは、どのようなことを意識していますか。

下條 プロジェクトの内容を教師が発案し、その中に各学習目標を達成できる場面を当てはめていきます。そして探究。つまり、考えさせることも行っています。こんなものを作るにはどうしたらいいのか、児童たち自身に考えさせることから始めるのです。

「ビデオ制作にはスクリプトが必要だよね、説明のためにポスターが必要だよね」など、会話をしながらプランニング。児童たちの「こんなことを入れたい」といったアイデアをまとめて、私が「こんな感じでどう?」と提案する。児童たちから「いいね」とOKが出たら実際に作業をスタートします。

――協働学習についても教えてください。。

下條 児童対児童、児童対教師が45分の授業の中で対話し、協力して何かを達成するのが協働学習です。ビデオ制作においてもその要素は強いのではないでしょうか。日本では机が1人用なので、まずは個別にがんばり、その後机を付けてグループで意見交換することが多いのではないかと思いますが、ここではテーブルに座って初めからディスカッションできるので、みんなとのやりとりを通して目標を見つけ、その達成に向けて協力できる環境になっています。

在外教育施設特有の事情

――学校の特性上児童の転出入が多いと思いますが、どのように対応していますか。

下條 親御さんの転勤が多いので児童の出入りは激しいですが、児童間のトラブルはあまりないですね。誰が来てもウェルカムだし、「え、転入生?」みたいに色眼鏡で見ることはまったくありません。自身も転入生のひとりであり、いつかどこかに転出するわけですからお互いさまなのです。

ただ、転出入が頻繁だと情緒的に不安定になる子もいます。せっかく慣れてきたのにもう転出しなくてはいけない、ここで楽しくやっているのに新しい場所に行かなければならない。その不安な気持ちが学校生活に支障をきたしてしまう児童もいます。そういった部分を理解し、次の場所へうまく気持ちを切り替えできるようにサポートしています。

教師側としては、本校の児童数は予測しにくい面があり、250人だったかと思うと、500人を超えたこともありました。通常、私の担当授業は週20~25コマくらいで、今日は5年生の前に3年生と幼稚園児と2年生を教えていました。しかし、児童数が多かった時は、1日7~8コマ教えていてたのでヘトヘトに疲れてしまい、毎日抜け殻のようになっていましたね。

――さまざまな文化・民族・宗教的背景を持つ子どもたちがいるクラスを運営する上で、意識していることはありますか。

下條 最近では二世や三世の児童も多いです。子どもはアメリカで生まれたけど、お父さんお母さんは別の国の出身で、家族や親戚がその国にいるというケースですね。

私たち教師は、子供たちのそれぞれの家庭の文化・宗教的背景や習慣の違いを踏まえて、学校生活に支障をきたさないように、いろいろな配慮をします。教師同士の情報交換、さらにカウンセラー、保護者を交えての話し合いも含めて、うまくサポートできるように連携しています。

AAPS(旧ギフテッド教育)とは

APPS専任のマルコス・ドミンゲス教諭

――先ほどのビデオ作りで、上級学問プログラム:AAPS(旧ギフテッド教育)の教室の紹介もありましたが、どのようなプログラムなのでしょうか。

マルコス・ドミンゲス教諭 AAPS(Advanced Academic Program and Services)は先進的でより高度な教育のことです。幼稚園児から小学5年生まで、数学や読み書き、読解力などの成績が特によい児童たちを対象に実施しています。全児童を対象にクリティカル・シンキングや創造的な考え方を教えたりもしています。

AAPSの教室

AAPSで取り組んでいることは毎日違うのですが、私が別の教室に出向いて授業を行ったりもします。例えば、年長クラスに行ってそのクラスの先生と一緒に算数の授業をしたり、特に成績のよい児童を選んでその子たちのための授業を私がしたりします。もちろん算数だけでなく、すべての科目について実施し、問題解決のために必要な創造的な考え方を学びます。

通常クラスでは、レベルの高い児童たちは他の子たちより早く課題を終えてしまいがちです。そうなると授業に飽きてしまうので、彼らが飽きないような授業をしたり、別の課題を与えたりします。そうやって常に高いレベルを追究できるような環境を整えているのです。

アメリカンスクールの教師になろうと思ったきっかけ

――下條先生がアメリカンスクールの教師になろうと思ったきっかけを教えてください。

下條 大学の生協でその名も『アメリカンスクール』という本を見つけました。著者の末吉節子さんは、ここキンザー小学校の先生でした。この本を読んで、こういった仕事があることを知り、自分もぜひやってみたいと思ったのが最初ですね。

それと、30年くらい前にオーストラリアに留学したとき、日本語が必修になっている現地の小学校があることを知りました。そこで日本語を教えるボランティアを経験して、自分の国の言葉や文化を別の国の子どもたちに教える楽しさを味わったことも大きいですね。

――労働環境は日本の学校と異なりますか。

下條 出勤は7時30分、勤務終了は16時から16時半です。日本の学校のように遅くまで残ることは一切ありません。休日出勤もなしです。もうすぐ平日の夜にPTA主催の秋祭りがあって、私も手伝うことにしているのですが、それはあくまでボランティアです。

日米の学び合いの架け橋に

――今後やってみたいことはありますか。

下條 個人的には、スキルアップのために、2022年から通信制のアメリカの大学院で土日に勉強しています。日本の大学院にも通いましたが、対話や実践研究の多さに魅力を感じてアメリカの大学院で学び続けています。修士を終えたら学んだことを実践しながらもう少し研究・勉強し、さらに上の博士課程に進んでみたいです。

また、今後は日米の教育に関する意見交換、共通理解の場をもっと広げていきたいと思っています。去年から琉球大学の教育学部の学生のほか、沖縄や本土の教育委員会、研究所、教員の視察を受け入れることで、国内にいながらにしてアメリカの教育現場を「体験」「見学」「学習」する機会を作っています。アメリカンスクールの教師も日本の教育や情操教育にとても興味関心があるので、逆の機会も作っていきたいです。

その結果、両国の素晴らしい教育を互いに知り・学ぶことで、教育現場はもっと良くなるのではないでしょうか。

記者の目

教室に入ったとたん日本の学校と違うと思った。個別の机がなく、数人で共有できるテーブルがいくつか。和室もあり、折り鶴や和人形、掛け軸、和だんす、押し入れまである。日本語や日本文化を教えるために担当教諭が細かい点まで工夫しており、その延長線上に学校交流のためのビデオ制作プログラムが誕生したのだろう。カリキュラム作りの自由度の高さと教諭の苦心から生まれた取組だと感じた。

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取材・文・写真:学びの場.com編集部

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