2024.10.21
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

男性教員の育休トーク 〜4人のパパ先生のリアルな声をお届けします〜

男性の育児休業取得が徐々に増加している昨今。男性教員の育休取得率は2018年度の3.1%・619名から、2021年度の9.3%・1603名へと上昇している。一方で、実際に取得するとなると、周囲の目や仕事への影響が気になってしまう、管理職が申請方法を把握していないという人も多いのではないだろうか。そんな中、教員の「キャリアの多様性」を目指し、各種支援プログラムを展開する株式会社クジラボが、男性の育児休業をテーマとしたオンライントークイベントを開催。育休取得経験のある4人の男性教員が登壇し、育休中の生活や復職後の変化など、男性育休のリアルストーリーが語られた。

4名の先生から事例紹介

妻とともに育休を取得後、週2.5日勤務で復職

事例1)川越市立中学校社会科教員(育児短時間勤務中)

秋田 智康 先生

現在、埼玉県川越市の中学校で社会科教員として勤務する秋田先生。今年で教員18年目を迎える40代だ。第一子のときは初めての学年主任だったこともあり見送ったが、マレーシア・ペナン島の日本人学校で勤務していた2022年10月に第二子が誕生し、現地で2023年4月から2024年3月まで妻とともに育休を取得した。

「育休を取得したきっかけは3つあります。1つ目は子育ての大変さを感じつつも妻が子育てを楽しんでいる姿を見て、同じように子育てに参加したかったこと、2つ目は周りに育休を取得した男性教員がいたこと、3つ目は生徒や若い教員のロールモデルになりたかったことです。

育休中は離乳食作りや寝かしつけを妻と交代しながら行っていました。下の子の育休ではありましたが、上の子の幼稚園への送り迎えをしたり、園の行事などに積極的に参加できたのも良かったと思います。マレーシアは子どもに優しい国で、子育てには素晴らしい環境でした。Googleの資格取得など、スキルアップもできました。

上の子が小学校に入学するタイミングに合わせ、2024年3月に帰国しましたが、もっと子どもたちの成長を近くで見たいという思いと、7年ぶりに復職する妻をサポートしたいという思いから、学校側にもう1年間育休を取得したいと相談しました。在籍校が2クラス減になるため、在籍年数が長い私が育休で残るのは難しいとのことでしたが、その代替案として育児短時間勤務の利用を相談したところ承認され、2024年4月から異動先で復職を果たしました。再任用の先生とペアにしてもらい、月曜午前・木・金の週2.5日という勤務形態です。現在は、子育てと家庭、仕事の両立を楽しみながら、毎日を過ごしています。勤務がない日は、下の子と児童館に行ったり、上の子を公園に連れて行ったりしています。」

仕事は人生の一部と気づく

事例2)和歌山県立高校教員(育児休業中)

楠本 洋平 先生

和歌山県の高校で理科教員として勤務する楠本先生。教員生活13年目を迎える34歳だ。第二子の誕生に伴い、2024年4月から2025年3月(予定)まで育児休業を取得。現在、妻とともに家事と育児に奮闘している。

「育休を取得した背景には、第一子出産後に妻が体調不良となり、一人だけでは育児が困難と感じたことがあります。そのため、第二子妊娠の確定診断後は、育休取得を校長に希望し、教頭と事務長にも報告しました。校長をはじめ、多くの先生方が肯定的な反応だったのが印象的でした。

育休を取得して良かったことは3つあります。1つ目は出産前から育休を始められることです。(※自治体職員は予定日の8週間前から取得可能。)妻の入院の準備や赤ちゃんの部屋づくりも余裕を持って行えました。2つ目は早朝も深夜も家事と育児に専念できたことです。命懸けで出産し、心身ともに疲弊している状態での母親一人での育児は過酷に尽きます。そんな中で、特に夜中の授乳・おむつ交換を担当するなど、夫のサポートがあることは、妻にとって大変心強いに違いありません。3つ目は人生の豊かさに気づいたことです。仕事に縛られる時間がなくなったことで、‟人生=仕事”という概念から脱却できました。仕事をしないことでゆとりが生まれ、何事にも余裕をもって取り組むことができ、日々充実しております。

育休の取得にあたり『お金』が心配されがちですが、新生児が1歳になるまでは育児休業手当金が支給されます。例えば私の場合、その金額は年間で約210万円になります。もちろん収入は減りますが、働いていない身分でお金がもらえるのは、大変ありがたいと実感しております。」

自分のための育休

事例3)小学校教員(育児休業中)

伊藤 陽祐 先生

小学校教員を務める伊藤先生。今年で教員16年目を迎える。2歳・4歳・6歳の3人姉妹の父親で、現在は2歳の娘の育休中だ。

「私は結婚するまで、人生の中心が仕事でしたが、第一子が誕生してからは『家庭が一番』という考え方に変わり、定時で帰ったり、自分なりに働き方改革を進めていました。

第三子について、2024年4月から2025年3月まで育休を取得しました。そのきっかけは、自分の子どもと向き合いたいという気持ちが強まったためです。妻も教員で、6年間の育休から復職するタイミングで、私が育休に入りました。取得の相談にあたっては、すでに1歳になっている子どもについてだったこともあり、校長が困惑した反応だったのが印象に残っています。同僚に伝えるタイミングも悩み、3月になってしまいました。

現在は、毎日5時に起床し洗濯などの家事を行い、7時半から長女の登校、次女の登園の準備、次女を保育園に送った後、10時に三女と子育て支援センターなどに出かけます。12時に帰宅し、昼食を与え、13時にお昼寝で寝かしつけた後は、自由時間を楽しんでいます。

15時から次女のお迎えや夕飯の準備をし、18時に娘たちと入浴。その後、家族で夕食をとり、21時に子どもを寝かしつけて、自分も就寝するという流れです。

育休を取得して素晴らしいと感じたのは、子どもとの時間がたっぷり取れることはかけがえのない貴重な経験だと気づけたことです。また、これまでの妻の苦労が身に染みてわかったので、家庭円満にもつながると確信しました。育休は生まれてきた子どものためであるのは当然ながら、自分のための育休でもあるとわかったのも大きな発見ですね。」

自分が前例を作る!

事例4)公立小学校教員(昨年9月に復職)

金子 綱基 先生

公立小学校教員を務める金子先生。学級担任12年間、日本語指導3年間を経験し、今年度は特別支援学級担任を務める。2歳、小1、小5の父。今年で教員16年目を迎える37歳だ。2021年度に育児短時間勤務(半日勤務)・1か月の産前休暇を取得し、2022年9月からは育休を1年間取得した。

「育休取得を考えたのは次男の妊娠が分かった2018年のことです。ですが学校側の都合と、自分側にもどうしてもという意志が弱く、叶いませんでした。そのとき、大変悔しかったことがあります。それは学校関係者に『奥さんが働いていないなら必要ないのでは』『俺たちは育休を取らなかったが、なんとかやってきた』と言われたことです。そういった言葉に大きなショックを受けました。

現状の教員の働き方は、土日ありきで仕事をしたり、我が子の行事に参加できなかったり、早朝出勤・深夜帰宅で子供と関わる時間が持てなかったりという方も多いと思います。私も、そうした時期がありました。『こんな働き方をしていたら誰も幸せにならない』と私は気づきました。社会の悪循環や教員の現状を変えたいと思い、第三子の妊娠確定とともに育休の取得に向けて行動しました。第二子のときに学校側に承認されなかったのは、前例がなかったことが影響していたため、『自分が前例を作る!』と決意したのです。

育休中に最も大事にしていたことは、妻が自由な時間を過ごせるようにすることでした。妻はヨガ講師の資格を取りました。また、生活にゆとりが生まれたのも大きな変化です。夕飯、お風呂、家事が早めに済むことで心に余裕がもたらされました。

2023年9月から特別支援学級担任として復職し、その後11月から日本語指導の通級を担当しましたが、困ったことは何もありませんでした。自分の状況や働き方を事前に伝えていたのが良かったのかもしれません。

育休の取得で悩んだとき、周りの人に相談するのも良いですが、一番大事なのはやはり自分の気持ちです。私の経験を振り返っても、自分の主体性がなければ、育休は成功しなかったとも思っています。」

質問タイム

上段左から、金子先生、司会のクジラボ津田先生、秋田先生、下段左から楠本先生、伊藤先生

後半は、参加者からの質問などを交えたQ&Aタイムが行われた。

Q1.育休取得を管理職に反対されたらどうしたら良いか?

金子先生:僕自身、管理職に毎週「再検討して」と言われたり、かなり反対されましたが、よく考えると、それは”前例”がなく、どうしたらよいかよく分からないからと見受けられました。そのため、「育休を取りたい」を丸投げするのではなく、自分自身でさまざまな情報を調べ、共有し、一緒に対応策を考える姿勢が重要だと感じます。

Q2.育休を取るか取らないか、迷ったときに軸にすべきことは?

伊藤先生:「自分が子どもに向き合いたいか」と改めて自分に問うことだと思います。周りの誰かに育休をすすめられたからという理由では、実際に取得して後悔することもあるかもしれません。

秋田先生:「今、自分がどうしたいか」に尽きます。家族のために生きたいのか、仕事を頑張りたいかなど、一度しっかり振り返ることをおすすめします。

Q3.育休中に「これだけはやるべき!」ということは?

楠本先生:自分の欲に正直になって、やりたいことをやったほうがいいと思います。40年間働く中で、1年間くらい自由でもいいのではないでしょうか。この貴重な休みの間に、映画やアニメを見たり、海外旅行に行ったりすることは、宝物になると思います。家族の将来を考える中で、家の新築を決めたのですが、業者と平日にゆっくり打合せできるのもいいです。

伊藤先生:育児を思いっきりすべきです。自分が働いているときも育児しているつもりでしたが、予防接種など妻に任せきりだった部分もありました。ママ先生のすごさにも気づかされました。

Q4.男性教員が育休を取得する価値とは?

秋田先生:「男性も育休を取得するものなんだ」ということを、生徒が知ることができます。そういった意識が広まれば、男性の育休が当たり前の社会になってくると思います。社会科教員としても、自分が率先して取得すべきだと考えました。

金子先生:「シャンパンタワーの法則」というのがありますが、自分がやりたいことができて、余裕がある、満たされている状態の方がいい教育ができるのではないでしょうか。

記者の目

4人の男性教員の話を聞く中で、全員が「育休を取得して心から良かった」と笑顔で発言している姿が印象的だった。金子先生の話に登場した、「前例は自分が作る」という姿勢は、これから育休取得を検討している男性教員にぜひ参考にしてほしいと感じた。今後の教育機関の男性の育休取得に向けた取組にも期待したい。

関連情報

今回のオンラインイベントをきっかけにオープンチャットが開設されました。

LINEオープンチャット「パパ先生育休相談所」

取材・文・画像:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop