2023.09.20
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まごころ弁当大作戦!(Vol.3) 【食と福祉】[小学4年生・総合的な学習の時間]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第199目の単元は「まごころ弁当大作戦!」( Vol.3)です。

授業情報

テーマ:食と福祉

教科:総合的な学習の時間

学年:小学4年生

おでんプロジェクトで探究的な学び

アメリカの教育学者であるデューイは、探究について「探究は不確定な状況から生まれる」と述べています。「これはどういうことだろう?」「なぜだろう?」「どうすればうまくいくのかな?」といった子どもたちの思いや問いは、不確定な状況であるほど引き出されやすく、その思いや問いから子どもたちの探究的な学びがスタートしていきます。また、そんな思いを一人一人がもつことで、学びは「自分事」となり、切実感をもって学習活動に取り組んでいくことができます。

Vol.2では、「お弁当のメニューが決まっていない」という不確定な状況を確定的なものにしていくために、何度も話し合いを重ねる子どもたちの姿をお届けしました。さらに、今回のプロジェクトは、「お弁当でお年寄りを笑顔にしたい」という大きな目的が明確であったため、お弁当のメニューが「おでん」に決まった後も、レシピの完成に向けて探究的に学習を進めてきました。その姿は、まさに子どもたちが学びを「自分事」にしている姿であったように思います。
Vol.3では、おでんにたくさんのまごころをこめるために生産者から直接話を聞いたり、試作品づくりやレシピの完成に向けて試行錯誤を繰り返したりしていく子どもたちの姿をお届けしたいと思います。

卵はどうやって育てられていて、どんな真心がこもっているのか

北坂養鶏場の北坂さん

毎日のように食べている卵ですが、その卵や卵を産むにわとりについては大人でも知らないもの。「たくさんのまごころをこめたおでんを作りたいけど、それぞれの食材にどんな思いやまごころがこめられているか分からない」ということで、今回のプロジェクトに協力していただけることになった淡路市にある「北坂養鶏場」の北坂さんにお越しいただき、にわとりと卵について教えていただきました。

「人間も一人ひとり違っているように、にわとりも一羽一羽違っていて、そのにわとりが産む卵も一つとして同じ卵はなく、『世界に一つだけの卵』なんだよ」という最初のお話の後に、北坂さんが持ってきてくれた北坂養鶏場の 2 つの品種の卵「もみじ」と「さくら」の中から、美味しそうな卵を選びます。じっくり吟味しながら選んだ「世界に一つだけの自分の卵」は一瞬で子どもたちの宝物になります。(学習がさらに「自分事」になった瞬間でした)

そんな大事な卵を産むニワトリがどうやって育てられていて、どうやって卵を産むのか。北坂さんのわかりやすいお話に、子どもたちは興味津々で、とても楽しそうに学ぶことができました。
学ぶ前は「ただの卵」。だけど、たくさん卵のことを教えてもらった後は、「特別な卵」に。そんな「特別な卵」を使って作る今回の「まごころおでん」は、当然「特別なおでん」になるだろう、という期待感がふくらむ1時間となりました。

子どもたちの振り返り

子どもたちの振り返りからも、
「ひよこからはこんなに丁寧に育てているなんて知らなかった」
「北坂さんもまごころを卵にこめてくれているので、自分たちもしっかりこめたい」
など、生産者の食材への思いに気付くことができているようでした。

練り物はどうやって作られて、どんな真心がこもっているのか?

オキフーズの沖さん 

北坂養鶏場さんに引き続き、給食のかまぼこでもお世話になっている(株)オキフーズ(南あわじ市)の沖さんにお越しいただき、練り物についてお話をいただきました。
魚から作られることは何となく知っていても、どうやって作っているかまでは知らない練り物。そんな練り物を、創業なんと 115 年の歴史があるオキフーズさんがどうやって作っているのかのお話に、子どもたちは何度も「へー!」と驚きの声を上げながら聞いていました。また、

・かまぼこが誕生した900年前から変わらぬ製法で作られていること
・日々気温などに合わせて調理時間などを調整し、朝早くから時間をかけて丁寧に 作られていること
・「昨日よりもおいしく」「食べた人が幸せになるように」という願いや思いを込めて作っていること

など、おでんづくりに関することだけでなく、食べ物に関わる上で大切なこと教えていただきました。

 子どもたちの振り返り

「115年も受け継いできたこのバトンを、自分も受け取りつないでいきたい」
という沖さんのお話が印象的だった子が多く、御礼のお手紙や振り返りでも、
「次は自分たちがオキフーズさんの練り物への思いを受け継ぎ、その思いをおでんに込めて、お年寄りに届けたい」
という言葉が見られ、思いを受け継いでいくことの大切さに気付くことができたようでした。

出汁はどうやって作られて、どんな真心がこもっているのか?

  • 多田フィロソフィの福島さん

  • 出汁に使われている食材

オキフーズさんに引き続き、「出汁についての話も聞いてみたい!」ということで、出汁パック「金の極味」を生産されている、藻塩で有名な(株)多田フィロソフィ(南あわじ市)の福島さんにお越しいただき、出汁や塩、そして、食についてのお話をしていただきました。
福島さんには前年度、子どもたちが3年生の時に藻塩づくりでお世話になり、ちょうど1年ぶりの再会となりました。今回は藻塩の話からからはじまり、出汁、こんぶ、淡路島のたまねぎ、みかん、魚、梅など、いろんな食の話に広がりながら、さまざまな角度から食を考えていくことができました。

「それぞれの土地をいかしたおいしい食べ物があり、それを大切にしていきたい」
「美味しいものをつくるには手間ひまがかかり時間もかかる。だけど、それをできるだけ簡単に、おいしく、そして、添加物を入れずに安心して食べてもらえるように心を込めて作っています」
というお話もいただき、「おでん」を通してたくさんの食と向き合ってきた子どもたちにとって、今後につながる学び多き時間となりました。

子どもたちの振り返り

また、
「今の4年生の力って本当にすごいですね」
とほめていただくほど、メモの取り方、質問する力など、回数を重ねるごとに、子どもたちの成長も感じることができました。

おでんのレシピ案を作成

  • おでんレシピを考える子どもたち

  • 大根グループレシピ 

  • 卵焼きグループのレシピ

おでんに使う食材も決まり、次はおでんのレシピを考えていきます。具材ごとのチームに分かれ、インターネットで調べた情報をもとに、調理の仕方をまとめていきました。チームごとに考えたレシピを発表し合いましたが
「だしは昆布と醤油とみりんと塩を使います」
「分量はどれだけですか?」
「それはわかりません・・・」
と、自分たちの計画がとても曖昧だったことに気付きます。
そこで、担任からも、
・たくさんの人が神代小4年生を応援するために動いてくれていること
・そして、既に試作品のための食材も届いており、その食材への思いをお年よりに届ける責任があること
を伝えました。 

まだ調理経験が少ない4年生にとっては少し難しい課題だとは思いますが、子どもたちなりに受け止めてくれたようでした。
みんなでどうしようか悩んだ結果、
「ネットじゃなくて、身近な料理のプロであるお家の人に聞こう!」
となりました。
課題意識を高めた子どもたちは、家のおでんレシピをしっかりと聞き出し、(実際におでんを作った家庭もいくつかありました!)、無事におでんレシピを完成させることができました。

試作品作り

写真にもあるように、たくさんのご協力のもと食材が集まりました。
全て淡路島の食材で、全て自分たちで直接お願いをして、集まった食材です。
この食材に一つ一つに感謝しながら、試作品づくりに挑みました。

たくさんの協力のもと集まった淡路島の食材

・たまご(北坂養鶏場・淡路市)

・鶏肉(北坂養鶏場・淡路市)

・ちくわ、まる天(オキフーズ・南あわじ市)

・こんにゃく(マルイ食品・洲本市)

・玉ねぎ(児童の祖父母・南あわじ市)

・出汁パック(多田フィロソフィ・南あわじ市)

・大根(自分たちで育てた大根)

  • 試作品づくりに取り組む子どもたち

  • ついに完成した「まごころおでん」の試作品

朝一番から調理を開始した試作品づくりですが、これまで試行錯誤しながらレシピを考え、準備してきたので、チームごとにおどろくほど手際よく調理を進め、40 分ほどで仕込みが完了。
そして、じっくり煮込むこと 2 時間...。
ついに、たくさんの人のまごころのこもった「まごころおでん」を完成させることができました。

子どもたちの振り返り

これまでの苦労のかいあって、その味は格別で、
「おいしい!!」「全然足りない〜!」「もっと食べたい!」
と、子どもたちも最高の表情を見せてくれました。
本番で、実際に作ってもらう障害者福祉施設ウインズきららのみなさんにも試食をしてもらいましたが、
「あっさりして、味も良く染みて美味しいです」
といううれしい言葉をもらうことができました。

また、にがみが出ない大根の調理方法のアドバイスだけでなく、鶏肉の調理方法、こんにゃくの種類、たまごをゆで卵にするかだし巻きにするか、おにぎりの味はどうするかなど、今後、さらに「まごころおでん」をグレードアップさせるための宿題ももらうことができました。
時間の関係もあり 2 回目の試作品づくりはできませんが、もらった宿題をもとにもう一度話し合い、最終レシピ案を再提案させてもらうことになりました。そして、そのレシピでウインズきららの調理のプロに作っていただき、次は子どもたちがそのおでんを試食させてもらう予定にもなり、子どもたちもとても嬉しそうにしていました。

地域の困っているお年寄りはどこにいるのか

民生委員さんのお話

せっかく試作品が完成したのに、おでんを作って渡すお年寄りがいなければ意味がない・・・。ということで、「地域の困っているお年寄りがどこにいるのか」という課題を解決するため、クラスの子どもの祖父でもある民生委員の田村さんと藤本さんにお越し頂き、民生委員のお仕事や地域の実態についてお話をいただきました。
「民生委員は地域の気軽な相談相手で、困っている人と専門家をつなぐパイプのような役割」
と、大人もなかなか知らないことが多い民生委員の仕事について、写真や動画を交えながら分かりやすく教えて頂きました。
「神代地区で民生委員が訪問している一人暮らしのお年寄りの数は○○人。その他にもいるかもしれないから自治会長さんに相談してみては?」
というアドバイスももらうことができました。
どうすればいいか分からなくて困っていたお年寄り探しですが、これで必要な人に何とかチラシは届けることができるかも?というところまできたことで、子どもたちもホッとしているようでした。

振り返りからも、
「どうしようかと思っていたけど、チラシをわたせそうで安心しました」
「私も民生委員さんみたいにお年寄りに声掛けをして、安心させてあげたいと思います」
など、自分たちにできることを考えながら、がんばろうという気持ちを高めていることがわかりました。

子どもたちの振り返り

Vol.3では、おでんにたくさんのまごころをこめるために、生産者から直接話を聞いたり、試作品づくりやレシピの完成に向けて試行錯誤を繰り返したりしていく子どもたちの姿をお届けしました。
いよいよ最後となるVol.4では、たくさんのまごころがこもったおでんで、地域のお年寄りを笑顔にする子どもたちの姿をお届けしたいと思います。

藤池陽太郎

南あわじ市立神代小学校 勤務
子どもたちが実社会の人やものとつながり合うことで、学習が「ホンモノ」の学びになることを目指して日々授業づくりを行っています。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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