2023.08.29
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まごころ弁当大作戦!(Vol.2) 【食と福祉】[小学4年生・総合的な学習の時間]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第198回目の単元は「まごころ弁当大作戦!」( Vol.2)です。

授業情報

テーマ:食と福祉

教科:総合的な学習の時間

学年:小学4年生

学校と公民館との連携

「社会に開かれた教育課程」は、学校を取り巻く関係機関との連携なくしては実現することができません。探究的な学びの一助となる地域の物的・人的資源について、各学校でリスト化されるなど情報が整理されていれば連携もしやすいですが、そうではない場合も多いと思います。
そこで学校と地域の物的・人的資源や関係機関を「むすぶ」役割を担ってくれるのが公民館です。公民館の役割については、文部科学省のホームページにも、「つどう」「まなぶ」「むすぶ」の3つの役割が示されています。「むすぶ」役割について「公民館は、地域のさまざまな機関や団体の間にネットワークを形成します」と記されており、まずは学校と公民館との連携を強化することで、様々なネットワークを形成することができ、子どもたちの探究的な学びを実現できる環境を構築していけると考えます。

Vol.1では、「神代地区のお年寄りにお弁当を作って届けたい!」という思いから、課題にぶつかりながらも何度も話し合いを重ね、それでも解決しない時はその道のプロに話を聞くことで一つずつ課題を解決していく子どもたちの姿をお届けしました。
Vol.2では、お弁当のメニューの決定を目指し、学校と公民館との連携を強化しながら形成したネットワークを活かし、さらに多くの人に関わっていただきながら試行錯誤を繰り返していく子どもたちの姿をお届けしたいと思います。

お弁当の中身はどうしよう?

夏休みに考えてきたお弁当レシピを見比べる子どもたち

夏休みが明け、まずはそれぞれの家で試作してきたお弁当のおかずを紹介しあいました。

それぞれ工夫しながら作ってきただけあり、
「これなら作りやすそう!」  
「これ食べてみたい!おいしそう!」
と、いろんな意見を交わしながら、ワクワクして楽しんでいました。

出されたアイデアの総数は41個で、このアイデアをもとに話し合っていくことになりました。

お弁当メニューについて話し合う子どもたち

話し合いでは、メニューを、「おかず弁当グループ」「おでんグループ」「カレー弁当グループ」の3つに分け、それぞれ自分が取り組んでみたいグループに分かれて意見をまとめていきました。
プレゼンテーションにもずいぶんと慣れきた子どもたちはわずか1時間ほどの準備時間で意見をまとめ、それぞれのグループの意見を伝え合いました。
発表後は、
「作る時間がかかりすぎると思うけど、大丈夫ですか?」
「どんな野菜を入れるつもりですか?」
など、いろんな質問で互いの意見を深め合いながら、考えを整理していくことができました。

おでんに決定!

休み時間も使って最後の最後まで話し合う子どもたち

話し合いは1日では終わらず、家でお家の人に相談した子も多く、次の日の話し合いでは、
「お母さんがお年寄りは食べ慣れたものがいいと言っていました」
「カレーはレトルトで普段食べているかもしれないし、好き嫌いもあるからやめておいたほうがいいかも・・・」
「おかずはいろいろな食べ物が食べられるし、いろどりもいいよね」
「でもおかずは、4 年生の子どもだけで全て試作品を作るのは難しいけど、おでんなら切って煮込むだけだから、自分たちでも作れるかも」
「お年寄りは火を使わなくなるから、あたたかいものがいいんじゃない」
と、たくさんの意見が出されましたが、悩みに悩み、多数決の結果、最終に的に「おでん弁当」を作ることに決定しました。

話し合いをまとめた板書

振り返りには、「決まったからには、お年よりはもちろん、自分たちもおいしいと思える究極のおでん弁当を作りたい!」と書いている子もたくさんおり、子どもたちも意気込みがよく伝わってきました。

話し合い後の子どもたちのふりかえり

このようにA案・B案・C案などから一つを決める話し合いの場面では、話し合ってすぐに多数決で決定してしまうのではなく、相手の立場も受け入れながら、いろんな視点から物事を考える時間がとても大切になります。その多様な視点を教師が板書で整理してあげることで、自分の意見にこだわった感情的な話し合いではく、建設的な話し合いになっていきます。そして、そうやって時間をかけながら出した結論だからこそ、自分が投票したメニューが選ばれなくとも納得して次に進んでいくことができます。

おでんの具材を調べよう

「おでんに決まれば、次は具材!」ということで、みんなで何を入れたいのかを話し合いを行いました。なんでもOK!というわけではなく、みんなで話し合った結果、神代小学校のオリジナルのおでんにするために、

1 お年寄りが喜ぶか
2 神代地区か淡路島産の食材か

という視点で、食材を調べていくことになりました。

「練り物ならオキフーズが出てきたよ!ここの練り物、食べたことある!」
「玉ねぎは冬に手に入るのかな?」
「たまごは北坂養鶏場の自動販売機が学校の近くにあるね!」
「鶏肉って、淡路島産のものってあるのかな?」
など、地元でも有名なものですぐに見つかるものもあれば、インターネットで探してもなかなか見つからないものもありました。
それでも、新聞折り込みの広告なども調べていき、大根、ねりもの、鶏肉、玉ねぎ、糸こんにゃく、たまごの6つの食材までしぼることができました。

どうして淡路島の食材にこだわるのか

話し合いで決まったおでんの具材

おでんの具材が決定しましたが、あらためて子どもたちにどうして淡路島産の食材にこだわるのかを聞いてみると、
「なんとなく、淡路島のものがよさそう・・・」
と、はっきりした答えがかえってこなかったので、あらためて考えてみることにしました。
話し合ってみると、
「お年寄りは昔から食べ慣れたもののほうが安心するから、地元のもののほうがいい」
「食材のお願いも直接できるし、ちゃんと自分たちで見て、知れる」
などの意見が出されました。
また、
「まごころをこめられるから」
という意見から、
「みんなが作るおでんには、誰のまごころがこもっているのか」
についても考えてみることになりました。

すると、
「食材を生産している農家さんのまごころ」
「練り物をつくっているオキフーズさんのまごころ」
「自分たちのまごころ」
「社会福祉協議会の人のまごころ」
「公民館長さんのまごころ」
など、今回のプロジェクトに関わる全ての人のまごころがこもったおでんになることをあらためて確認することができました。

話し合いの板書

すると、
「どんなまごころが込められているか、それぞれの食材ごとに聞いたほうがいい!」
という子どもたちの意見から、協力依頼と食材について話をしてきてもらうお願いを書いた手紙を送ることになりました。

生産者からもらったお手紙

手紙を送ったところ、生産者のみなさんから、喜んで協力します、というお手紙ももらい、子どもたちは大喜びしていました。

おでんの大根を育てる

3人のリーダーを中心に、大根の種を植える子どもたち

「自分たちで育てられないものは協力してもらうけど、自分たちのまごころもこめたいから、大根は育てたい!」ということで、大根を栽培することになりました。
これまでチームごとにおでんのメニューを調べたり、アンケートや手紙を書いたり、自分たちで活動を進める力をつけてきました。
今回も家の図鑑や野菜の本で大根の栽培について調べてきた3人がリーダーとなり、
「指をこの関節まで土に穴をあけてください」
「間隔は○○cmです」
など、種の植え方ついてみんなに伝授してくれました。

敬老会で宣伝する

地域の敬老会でこれまでの学習発表とおでんの宣伝の行う子どもたち

チラシだけでは、いろんな人に届くか分からない・・・ということで、10月に行われた地域の敬老会に参加し、おでんの宣伝をしました。

学習発表も兼ねていたので、これまでの学習を振り返りながら、
「来年2月ごろにわたしたちのまごころがたくさんこもったおでんを作ります!チラシも配るので、ぜひ食べてください!」
と宣伝をすることができました。


おでんの栄養について栄養教諭の話を聞く

栄養教諭の新崎先生と栄養について学ぶこどもたち

「おでんは栄養不足のお年寄りに元気になってもらうためのものだけど、そもそも栄養って何だろう?栄養満点っていうけど・・・。分からないなら栄養の専門家に聞いてみよう!」ということで、昨日は給食センターの学校栄養職員である新崎先生に栄養についてのお話をしに来ていただきました。

「栄養って3つの色に分けられるんだよ」
という話から、まずは栄養の3分類についてお話を聞きました。

赤→体をつくる(肉・魚・大豆・牛乳・海藻など)
黄→体を動かすもとになる(米、パン、麺類、油など)
緑→体の調子を整える(野菜・果物・こんにゃくなど)

3つについて聞いたあとは、当日の給食を3つの色ごとに分けてみることにしました。
「すごい!給食って3つが同じくらい入ってて、すごくバランスよくできてる!」
と子どもたちは、栄養バランスについて気付くことできているようでした。

その後は、自分たちのおでんを3つに分けてみることに・・・
「卵と肉、練り物で赤の食材はとれてる!」
「大根、たまねぎで緑の食材も入っている!」
「だけど、黄色が食材が入ってないな・・・」
と、自分たちのおでんの栄養を確認することができました!

その後の質問タイムでも、おでんのだしをどうするのか、色合いがあまりよくないけどどうすればいいか、黄色の食材が入ってないけどどうすればいいか、など、たくさんの質問をしながら、よりよいおでん作りに向けて自分たちで深めることができました。

栄養教諭の新崎先生の話の振り返り

子どもたちのふりかえりからも、
「わたしたちのおでんに栄養があることがわかって安心しました」
「まだ足りない栄養もあるから、もっと考えていきたいです」
など、新たな課題が見つかりながらも、
「これでだいじょうぶ!」自信をつけた様子がよく分かりました。

Vol.2では、お弁当のメニューを決定するために何度も話し合いを重ね、「おでん」に決まった後も、レシピの完成に向けて活動をしていく子どもたちの姿をお届けしました。
Vol.3では、おでんにたくさんのまごころをこめるために、生産者から直接話を聞いたり、試作品づくりやレシピの完成に向けて試行錯誤を繰り返したりしていく子どもたちの姿をお届けしたいと思います。

藤池陽太郎

南あわじ市立神代小学校 勤務
子どもたちが実社会の人やものとつながり合うことで、学習が「ホンモノ」の学びになることを目指して日々授業づくりを行っています。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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