2023.11.02
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まごころ弁当大作戦!(Vol.4) 【食と福祉】[小学4年生・総合的な学習の時間]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第200回目の単元は「まごころ弁当大作戦!」( Vol.4)です。

授業情報

テーマ:食と福祉

教科:総合的な学習の時間

学年:小学4年生

「社会を動かす手応えのある学び」の実現に向けて

総合的な学習の時間では、地域の人や専門家など、多様な立場や年齢の人と関わりながら学んでいきます。子どもたちは地域の課題を見つけ、その課題の解決に向けて様々な人と関わっていくことを通して、期待されることの喜びを知ったり、信じることや協力すること素晴らしさを知ったりします。
子どもたちはそのような体験を通して、「自分が地域社会に役立っている」という実感をもつことができます。「子どもだからできない」ではなく、「子どもだからこそできる」ことはたくさんあり、そのような体験の積み重ねが子どもたちの自信をつくっていき、次なる挑戦への意欲に変わっていきます。それは、実社会の課題解決に挑戦するからこそ感じることができる「手応え」であり、教科書と向き合うだけでは学び得ることができない「社会に開かれた教育課程」の最たる魅力かもしれません。

Vol.3では、「たくさんのまごころのこもったお弁当でお年寄りを笑顔にしたい」という目的の達成のため、食材への思いを生産者から直接聞いたり、試作品づくりやレシピの完成に向けて試行錯誤を繰り返したりする子どもたちの姿をお届けしました。
いよいよ最後となるVol.4では、たくさんのまごころがこもったおでんで、地域のお年寄りを笑顔にする子どもたちの姿をお届けしたいと思います。

自分たちのレシピをもとに、プロがつくった「まごころおでん」を試食

完成した「まごころおでん弁当」!

「まごころ弁当大作戦!」がはじまってから約半年。子どもたちのレシピをもとに障害者福祉施設ウインズきららさんが調理をしてくださり、ついに「まごころおでんお弁当」を完成させることができました。
「ぜひ、子どもたちにも、実際に販売するおでんを一人前食べてほしい」
というウインズきららさんの思いをありがたく受け取り、お昼ご飯として、「まごころおでん」を試食させていただきました。

朝からワクワクしていた子どもたちは、おでんが配達されると大歓声!
「どの具材も味がしみていておいしい!」
「今までで一番おいしいおでん!」と、その味に大満足なようでした。
自分たちの思いだけでなく、関わってくださったたくさんの人の「思い」や「まごころ」を感じる、本当に特別なおでんを食べることができ、あらためて関わる全ての人、そして、食材に感謝する試食会となりました。

チラシも完成、注文も続々

子どもたちが作成したチラシ

「まごころおでん弁当」が完成し、あとは必要な人に届けるだけです。民生委員さんに相談したところ、「チラシを作ってくれたら、民生委員が訪問している家にも配布できるよ」と言っていただいたので、国語「ふるさとの食を伝えよう」の学習とあわせてチラシを作成しました。チラシにどんな内容を書けばいいか、どんなレイアウトにすればいいか、どんな写真を使えば魅力的に伝わるかなどをみんなで考えていき、1人1人が考えた個性豊かなチラシが完成しました。
子どもたちのアイデアをもとに最後は担任が作成し、配布用のチラシが完成し、12月に民生委員さん・自治会長さんを通じて配布されました。

「全然注文してくれなかったらどうしよう・・・」と、子どもたちも心配していましたが、わずか1週間でなんと100食以上の注文が入り、最終的に、195食の注文をいただくことができました。予想以上の注文数だったので、少し数を調整させていただき、4日間の販売日で合計134食のおでんを販売することに決定しました。子どもたちも想像以上の注文数にとても喜んでいたのと同時に、がんばらないと!とあらためて気持ちを高めていました。
※チラシデータは参考資料よりダウンロード可。

パッケージもが完成!大根も収穫!

おでんとチラシが完成したら、次はパッケージづくりです。それぞれインターネットでパッケージを調べながら、
「文字は黒が見やすくていいね」
「まごころを伝えたいから、手書きがいいね」
「自分たちの写真を入れたらまごころが伝わるんじゃない?」
「色は暖かい赤とかオレンジがいいよね」
とアイデアを出し合いながら、パッケージ案を完成させ、みんなで役割分担しながら完成させることができました。
全て並べてみると、その多さに圧巻! この一つ一つが、お年寄りのもとに届くのか・・・さらにドキドキを高めているようでした。

また、10月に種を植えて、毎日まごころをこめて水をやりながら大切に育ててきた大根も収穫! その大根をウインズきららさんに持って行き、販売日に向けて準備は万端となりました。

いよいよおでんを販売

「まごころおでん弁当」を販売する子どもたち

いよいよ販売日がやってきました。「まごころおでん弁当」の販売は4日間に分けて、保護者の協力も得ながら、それぞれの自治体の公会堂で販売をしました。
慣れない作業にバタバタしているところもありましたが、お年寄りにまごころを届けようと、精一杯がんばることができました。何より、おでんを受け取った高齢者のみなさんの、うれしそうな笑顔がとても印象的でした。
1日目を終えた子どもたちのふりかえりからも、
「わたした人がみんな笑顔になってくれてよかった」
「『今日のおでんを楽しみにしていたよ』と言ってくれる人が多くてすごくうれしかった」
「説明を一生懸命聞いてくれてうれしかった」
「最初は緊張したけど、なんどか説明していくうちに楽しくなってきて、もっと話がしてみたいと思えた」
「これまで頑張ってきてよかったと思った」
と大きな達成感を感じていることがわかりました。

最終的に、保護者のみなさまのご協力のもと、4日間で計140食の「まごころおでん」の販売を終えることができました。子どもたちはたくさんの方々に協力してもらいながら、「神代地区のお年寄りを笑顔に」の目標を見事に達成することができたと思います。
※販売の様子は地元テレビで放送されました(関連リンク参照)。

「まごころ弁当大作戦!!」を通じて学んだこと

総合では、全体で取り組むプロジェクトであったとしても、学びは「個」にかえしていかなければなりません。1人1人が何を学び、どう成長できたかを振り返りました。
1年間を通した長期のプロジェクトに取り組む中でたくさんの学びや気付きを得ることができたことがわかりました。

1年間の学びの振り返り

・おでんを渡す時に、お年寄りがニコニコしながら話を聞いてくれたから、思わず自分まで自然とニコニコしていました。

・人の幸せはたくさんの人と交流したり、大切にされたりすることで感じることがわかりました。

・おでんを通して人と人の心のつながりが大切だと分かったので、いろんな人に声掛けをしていきたいです。

・物をつくって売ることの大変さを知りました。

・ふだん何気なく食べている食べ物一つ一つに、たくさんのまごころがこめられていることがわかりました。

・たくさんの壁にぶつかってきたけど、あきらめずに乗り越えたので、課題を解決する力が身につきました。

・全ての壁は『次につながる壁』だということがわかりました。

おわりに

「福祉の勉強で何がしたい?」からスタートし、「本当にお弁当が作れるのか」「誰が作るのか」「どんな中身にするのか」「神代にはどれくらいお年寄りがいるのか」「どうやって届けるのか」「お年寄りが本当に困っているのか」「おでんに決まったけど、どんな具材にするのか」「どうやって食材をお願いするのか」「お金はどうするのか」「お弁当はいくらで販売するのか」「試作品はどうやって作るのか」「自分たちはどんなまごころを込めるのか」など、子どもたちはこれまでたくさんの課題にぶつかり、その課題を一つ一つ解決してはまた新たな課題にぶつかり、何度も試行錯誤しながら何とかここまでやってくることができました。
1年をかけて、たくさんのまごころを込めたおでんを直接手渡し、笑顔になってもらう。そして、自分もうれしい言葉をかけてもらう。その実体験は教科書やインターネットでは決して学べない、子どもたちの心に刻まれる貴重な体験となったかと思います。
コロナ禍で少なくなっていた「人と人との心の交流」、そして、そこから感じる「人のあたたかさ」。そんな人間の根っこのようなところも、自分の肌身で実感し、学ぶことができた「手応え」のあるプロジェクトになったのではないでしょうか。

今後も子どもたちが実社会とつながりあい、「自分事」として課題にむかっていける「ホンモノ」の学びを目指して、授業実践を積み上げていきたいと思います。
4か月にわたる長期の連載をお読みいただき、ありがとうございました。

藤池陽太郎

南あわじ市立神代小学校 勤務
子どもたちが実社会の人やものとつながり合うことで、学習が「ホンモノ」の学びになることを目指して日々授業づくりを行っています。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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