2024.11.04
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日米学校交流プロジェクト~学校紹介ビデオを撮ろう~(前編) キンザー小学校「日本語・日本文化」授業リポート

今回取材に伺ったのは、沖縄県浦添市にあるキンザー小学校(Kinser Elementary School)。アメリカ海兵隊太平洋基地:キャンプ・キンザー内にあるアメリカンスクールで、同基地に勤務する軍人や軍属、米国総領事館関係者などの子女が通っている。

教育内容はアメリカの制度に則っているが、地域社会との交流や平和学習などにも力を入れており、日米の文化的なつながりを深める活動にも積極的に参加している。

アメリカ国防総省教育部が設置する小学校では、現地の言語・文化を学ぶ科目(Host Nation Studies)が必修となっており、キンザー小学校では日本語・日本文化となる。それを担当しているのが下條綾乃教諭だ。202410月に行われた5年生の授業をリポートする。

授業を拝見

学校交流プロジェクト(プロジェクト型学習・探究学習・協働学習)

学年:小学5年生
教科・科目:Culture(日本語・日本文化)
授業者:下條 綾乃 教諭
学習目標
 日本の学校との交流を通して文化、習慣の違いを知る。
 違うこと、共通していることを学習し理解する。(インクルージョン、ダイバーシティ)
 日本語を使って自己紹介や学校紹介ができるようになる。
 たくさんの友達を作る。
単元計画:
 第1次(9~10月)学校紹介ビデオを制作する。
 第2次(11月)日本の学校とオンライン上で交流する。
 第3次(12~1月)日本の学校から学校紹介ビデオを受け取り鑑賞する。
 第4次(2月)日本の学校を体験する。

全学年で必修の「日本語・日本文化」授業

日本語や日本文化を教えるが、授業は英語で行われる。幼稚園年長から5年生までの6年間・週1~2回の授業で、平仮名やカタカナ、漢字も学ぶ。日本の習慣やマナーなどの知識を身に付けてもらい、さらにそれを家族でも共有できるようにするのが目標だという。

授業を担当するのは日本語教師として25年近いキャリアを有する下條教諭。取材時の授業では学校紹介ビデオ制作に向けてスクリプトを作る作業が行われていた。

コロナ禍で対面の文化交流ができなかった2020年に、学校交流の授業にビデオ制作を取り入れたところ、児童たちが喜んで取り組んだので、継続しているそうだ。

日本の学校で他校との交流やそのためのビデオ制作を行う場合、どの教科の授業時間を使うか検討することになるが、まさにそのための科目があるのは、アメリカンスクールならではといっていいだろう。

背景には教育システムの違いもある。日本の学習指導要領では、カリキュラムの内容が細かく規定されているが、アメリカでは学習の達成基準は定められているが、どのような方法で達成するかは教師の裁量に委ねられる部分が大きく、児童生徒のニーズに応じた柔軟な授業設計が奨励される。

けん玉をしながらウォーミングアップ

授業時間は1コマ45分で、クラスの人数はこのとき18人ほど。まずは最初の5~10分で子どもたちをアクティブにするためにウォーミングアップを行う。

掲示されている「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」「すみません」「ごめんなさい」「どうもありがとうございます」などといった日本語のあいさつや基本的な表現を声に出して繰り返し言うが、それだけではおもしろくないのでけん玉も同時にやる。右脳と左脳を同時に使うようにする意味もあるという。ヨーヨーやそろばんを使ったりもする。

言語習得では目的の設定が大事

ウォーミングアップ後、スクリプト作りに入る。ビデオの内容は児童たちが自ら学校内を案内するというもの。校長室、体育館、図書館、音楽室、カフェテリア、AAPS(上級学習プログラムサービス)の教室などを紹介する。なお、日本語・日本文化を学ぶ教室はCulture(文化)の部屋と呼ばれており、畳の部屋も付いていて、下條先生がデコレーションしている。「これは何の部屋で」という部分を日本語1文で、「担当の先生は誰で、どんなことをするのか」などを英語4文作っていく。

目的や理由があることは言語習得を容易にする。ならば、例えばビデオを作るという目的を与えることにより、言語習得が効率的になることは想像に難くない。さらにいえば、ビデオを作るのは学校交流のためであり、対面の前にバーチャルで互いの自己紹介をするという目的が最初から明確に設定されているので、児童たちは喜んで言語習得活動に取り組む。

また、同じビデオ制作でも、児童たちのアイデアを反映し、内容は毎年少しずつ違う。児童たちに対して「こういうビデオを作りたいのだけど、どんな内容にしようか」と聞いたら、今年は「学校内にある全部の部屋を紹介したい」という意見があったので、紹介する部屋を増やすことにした。これにより昨年は10シーンで4分半ほどだったが、今年は16シーンとなる予定だ。そして、児童たち自身が紡ぐ言葉でナレーション原稿を起こし、それをスクリプトに反映しているのである。

作成したスクリプト例
  • 体育館
    Taiiku-shitsu e yōkoso
    P.E. is where we play all kinds of games and exercises to build up muscle.
    P.E stands for Physical Education.
    Our P.E. Teacher is the funniest of all…..  Mr. ■■! (Jazz Hands).
    We learn to have great sportsmanship in P.E.
  • 図書館
    Yokoso!  Gakkō toshokan wa hon o yon dari, hon o kari tari dekiru bashodesu.!!Welcome to our school library. 
    The librarian is mrs. ■■. 
    We check out lots and lots of books here. But we have to be quiet! Shhhhh! 
    The school library is somewhere to read books and also choose what books you want to get. 
    At the school library we have all kinds of books. 
    For example chapter books*, comic books, and also non fiction books.
*絵本

授業者インタビュー

楽しみながら、確実に目標を達成

下條 綾乃教諭

――今日の授業の内容について教えてください。

下條 綾乃 教諭(以下、下條) 日本でもアクティブ・ラーニングということが近年よく言われますが、いろいろな要素を組み合わせて主体的に学習していくというのは、私たちの学校ではずっと行っています。プロジェクト型学習や探究学習も取り入れ、児童たちが能動的になるようにさまざまなことを実践していますが、それでも児童たちは飽きてしまうものです。私たち教師はファシリテーターとして、飽きないように多くの活動を取り入れ、児童たちが選択できるものを用意・提供することをどの授業でも行っています。

もちろん、飽きさせないためには楽しい授業でなくてはなりません。私たちは学習目標に沿って児童が楽しめるプログラムを取り入れていますが、そのひとつがビデオ制作です。

――この単元の学習目標について教えてください。

下條 ビデオ制作と対面の交流を通して、日常生活に関する日本語の簡単な言い回しを識別する、一般的な単語やフレーズを知って教室の外で効果的に使う、礼儀と敬意を表す言葉を話す、生活習慣の類似点と相違点を見分ける、習慣や伝統を実践するなどの5年生の目標を達成したいと考えています。

目標を達成のために何かをするなら、楽しい方がいいし、教師が楽しめば児童も楽しくなります。まずはそこを意識しながら授業を作っている感じですね。

ビデオの制作期間は9月と10月の2か月間。11月には相手の学校とオンライン交流するので、その前までにビデオを相手の学校に送って見てもらいます。2月の学校訪問の前に、相手方もビデオを作って送ってくれるので、実際に会う前にバーチャルで互いの自己紹介をする感じですね。

――2月の日本の学校訪問ではどのようなことを体験するのですか。

下條 日本の学校体験がこのプロジェクトのゴールなので、ネイティブスピーカーと話して、日常会話の練習の成果を発揮したり、生活習慣の類似点と相違点を見つけるといった目標を実践します。例えば本校では、お掃除や給食当番などがありません。そのため、日本の学校に児童たちを連れていったら、かなりのカルチャーショックを受けるでしょう。そうしたことも体験します。

後編では、プロジェクト型学習の授業づくりや、転出入が頻繁という在外教育施設特有の事情、下條教諭を取り巻く労働環境などについて、インタビューで深掘りしていく。また、AAPS(旧ギフテッド教育)専任のドミンゲス教諭へのインタビューも紹介する。

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取材・文・写真:学びの場.com編集部

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