2021.03.25
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震災を取り上げた実践(4) さいたま市立海老沼小学校 教諭 菊池健一さん

東日本大震災を取り上げた授業を、さいたま市立海老沼小学校 教諭 菊池健一さんが5回にわたって紹介します。第4回では、震災について調べたことを提案文としてまとめ、地元の新聞社に投稿する様子をリポートいたします。

調べ学習を生かして考えをまとめる

提案文を書いている様子

前回のレポートでは、社会科の調べ学習において、児童が住む埼玉県、そして、さいたま市の地震対策について詳しく調べたことを報告しました。地域の「ハザードマップ」を作成していることや、避難所を指定していることなど、児童がすでに知っているものもありましたが、これまで考えてもみなかった多くの対策が行われていることが分かりました。児童は総合的な学習の時間で、福祉をテーマに取り組んできました。その学習で体に障害のある人々が安心して暮らせるようにするための街作りについて考えたことも生かしながら、さらに地震対策を進めるためにはどんなことが必要かを考えました。

児童は、これまで学習したことを思い出して、自分たちが調べた埼玉県やさいたま市の地震対策に照らして、その対策は十分かどうかを考えました。まずは、自分で考え、そしてグループの友達とも考えを交流しました。

「学校が避難所になっていて安心だけど、もし夏だったら体育館はものすごく暑いよね。体育館に冷房があるといいよね」
「市のホームページに非常用のトイレの準備があると書いてあったけれど、もしこの学校が避難所になったときにすぐに使えるのかな。そのための訓練などをする必要があるのではないか」

友達同士で意見を述べ合うことで、さらに自分の考えを明確にすることができました。また、友達の意見を聞くことで、新たな視点も発見できたようです。

提案文を書く

子どもたちが書いた提案文は地元の新聞社に投稿

県や市の防災対策について、自分が提案したいことをはっきりさせた後、その考えを提案文としてまとめていきました。当初の予定ではゲストティーチャーとして招いた記者から、文章の書き方を教わるはずでした。しかし、授業が延期になってしまったため、私が以前に記者から教わった文章のポイントを示すことにしました。
ポイントとして挙げたのは、

① はじめに意見をズバリ書く!
② 理由には具体的な内容(根拠となること)
③ 最後に意見を繰り返すこと

の3点です。
児童は提案文を書くための構成表を作り、どんな内容を盛り込むかを考えて、提案文作成を行いました。分量は400字です。書いた提案文は地元の埼玉新聞に投稿するので、分量を超えることはできません。制限のある字数の中で自分の考えをしっかりと文章にすることができました。普段は、文章を書くことが苦手な児童も、あまり好きになれないと思っている児童も、これまで震災について社会科で学び、実際に自分で調べ学習を行ったので、意欲的に提案文作成に取り組めました。

児童の意見には以下のものがありました。

「東日本大震災の時には女性が着替える場所がなくて大変だったようなので、簡単な更衣室を用意するとよいのではないか」
「赤ちゃんが泣くとみんなが落ち着かなくなるから、赤ちゃんや小さい子を預かる場所を作る」
「トイレに行きにくくなる人がいたようなので、簡易トイレを用意し、実際に作る訓練を行う」
「備蓄の食糧が一カ所にかたまっていると、みんなに渡しにくくなるから、町内会ごとなどで用意するようにするとよいのではないか」

どの提案文も、社会科の調べ学習やこれまでの震災に関する情報を生かしたものになっていました。そして、提案も具体的なものでした。書いた提案文は埼玉新聞社の読者欄に投稿することにしました。自分たちの考えを多くの方に読んでほしいと、児童もがんばって仕上げることができました。

震災関連記事のスクラップ

震災についての記事をスクラップ

学習が進む中、東日本大震災から10回目の3月11日がきました。この時期は震災関連の新聞記事がたくさん掲載されます。またテレビなどでも震災関連の番組が特集されています。3月11日には児童とともに被災地の皆様に思いをはせて黙とうを捧げました。

11日には、ゲストティーチャーとして来ていただく予定だった共同通信仙台支社・三吉記者が書いた記事を子どもたちと読み、スクラップしました。福島第一原発の事故の影響により、現在でも埼玉県に避難をしている人が多くいるという記事でした。震災当時、福島県の双葉町の方々が、近くにあるさいたまスーパーアリーナに町ごと避難してきていたことを知り、児童はびっくりしていました。そして、今でも福島から避難されてきた方が埼玉県内に3千人近くいらっしゃることを知り驚いていました。

「避難されている方たちは、今どんな気持ちでいるのだろう」
「やはり、もう福島には戻れないのかな」
「福島に帰った人たちは今どうしているのか」
「福島第一原発はこれからどうなっていくのだろう」

など、記事を書いた三吉記者に聞きたいことなどをスクラップノートにメモしていました。児童はこれまで社会科で、自分が住んでいる自治体の地震対策について学んできました。その内容とも比較しながらスクラップを行っていました。

また、児童が学校で購読している小学生新聞には石巻市の大川小学校の記事が掲載されていたので、スクラップも行いました。大川小学校は、震災当時、学校管理下の中で最も被害が大きい事故となりました。児童74名、教職員10名の方が犠牲となっています。この事故を機に、学校での防災対策がこれまで以上に論じられるようになりました。

クラスの児童の中で、この大川小学校を訪れた子が2名いました。その児童に大川小を訪ねた感想を話してもらいました。まだ小さい時のことなのであまり記憶が鮮明ではないようですが、校舎の壊れ具合や学校周辺に何もなくなっている様子などが印象に残っているようでした。

次回の学習では、三吉記者から震災当時の様子を聞きます。児童はこれまで充実した学習を行ってきたので、記者と会うのを心待ちにしています。


文・写真:菊池健一

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