2021.03.11
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震災を取り上げた実践(2) さいたま市立海老沼小学校 教諭 菊池健一さん

東日本大震災を取り上げた授業を、さいたま市立海老沼小学校 教諭 菊池健一さんが5回にわたって紹介します。第2回では、東日本大震災を知ることで防災について児童が主体的に学習に取り組む実践をリポートします。

まずは「道徳」で当時の様子を知る

道徳の授業:石巻日日新聞の壁新聞

 今年度は、担当する5年生で震災を取り上げた教科の実践を行っています。早いもので、東日本大震災から今年で10年です。震災後、児童が使用する教科書には震災の被害についての記述が見られるようになりました。しかし、その扱いはコラム的なもので、必ずしも児童の安全教育に十分に寄与しているとは言えないと考えています。そこで、教科等の学習を組み合わせて、児童が主体的に取り組む学習をデザインしました。その学習を通して、様々なことを学べるようにと願い本実践を行っています。

実践のスタートとして、「特別の教科道徳」において、震災を取り上げました。「使命感」について学習する内容で、震災の際、手書きの新聞を発行した「石巻日日新聞」を題材としました。石巻日日新聞では震災当時に会社の輪転印刷機などが被害を受けて新聞を発行することができなくなってしまいました。それでも、地域の人々にとって必要な情報を提供しようと、模造紙に手書きの壁新聞を作りました。その壁新聞は避難所やコンビニなどに貼られ、多くの人々に有益な情報を伝えました。

5年生では社会科で情報に携わる人の仕事を学習する単元があり、児童は新聞社の仕事を学習していました。そこで、石巻日日新聞の方々が震災の混乱状況でどのように苦労して新聞を発行したのかを考えました。また、石巻日日新聞の方々が、新聞を発行する中で、「暗いニュースを流すだけでよいのか」という迷いを持ち、明るいニュースも流すようにしたということも学び、編集に携わった方の市場についても触れることができました。この教材を通して、児童は震災当時の混乱状況を学ぶことができました。

「新聞スクラップ」で当時の様子を知る

児童のスクラップ

今回の取り組みでは社会科を軸に、まずは地震が起きた時に人の命や街を守るために自治体が行っていることを調べる活動を取り入れました。その導入で、震災当時の被災地の様子を取材した新聞記者に教室に来ていただき、当時の様子を児童に話してもらう予定でした。しかし、今年度は新型コロナウイルス流行による緊急事態宣言発令により、記者の来校を延期せざるを得ませんでした。そこで、記者から当時の新聞記事を提供いただき、児童と新聞スクラップを行うことにしました。

提供いただいた記事は震災の次の日の様子を取材したものや、震災後数年たった後のルポなどです。児童は記事をスクラップしながら、当時の被災地の状況を知ることができました。児童の感想からは、

「当時の新聞を見ると、見出しの大きさから、本当に大きなできごとであったことがわかります」
「保育園や病院など、震災の当時は本当にいろんな場所で苦労をしている人がいたのだとわかりました」
「小さくてなくなってしまった子のお父さんが悲しんでいるという記事を読んで胸が熱くなりました」

などという声が聞かれました。これらの活動を通して、児童が被災地についてもっと知りたいと思う気持ちが高まったと思います。予定では、社会科で震災につて学ぶ前に、自分たちでスクラップをした記事を書いた記者の方に教室にきていただき、当時の様子や現在の被災地の状況などをお話いただく予定でした。しかし、新型コロナウイルス流行にともなう緊急事態宣言がだされているために延期になってしまいました。そこは少し残念でしたが、教科の学習をスタートしていくことにしました。

単元の授業スタート

社会科の授業:さまざまな津波対策

5年生の社会科の単元に「自然災害とともに生きる」というものがあります。ここでは、震災から街を守るための方策を学びます。東日本大震災をはじめ、日本では多くの災害が起こっています。その中でどのように住んでいる地域や人々の命を守るのかを主体的に考えさせたいと思いました。授業ではまず、東日本大震災当時の新聞や、ゲストティーチャーをお願いする記者から提供いただいた記事を示しながら、地震や津波の被害について考えました。震災の様子をとらえた写真から、多くの方が命を落とされたこと、そして家屋や建物などが大きな被害を受けたことなどを知ることができました。児童の中には家族で被災地を訪ねた子がいましたので、その様子などを話してもらいました。

次に、東日本大震災で大きな被害を及ぼした津波から街を守るために、被災地ではどのような工夫をしているかを想像する活動を行いました。先日私が取材のため被災地を訪れて撮影してきた写真などをもとに考えさせました。

「きっと、家などは高いところに建てるようにしているよ」
「被災地に行ったときに、津波が到達したところに印がしてあったよ。きっと、これから同じような地震が来たときにすぐに避難できるようにするためじゃないかな」
「町から海が見えなくなっているよ。この壁みたいなものは何だろう」

など、グループで話し合いを行いながら、考えることができました。

児童はその後、教科書や資料集などから、各自治体などが行っている津波対策について学びました。自治体ごとに様々な工夫が行われ、津波や地震が起きた際に住民の命や街の建物などを守る方策があることを知りました。これらの学習を通して、単元の目標である、「自分が住んでいる自治体の防災政策を知る」を探究する意欲を高めることができました。

文・写真:菊池健一

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