2013.08.20
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18th New Education Expo 2013 in 東京 現地ルポ(vol.6)

「New Education Expo 2013 in 東京」が6月6~8日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。現地ルポ6回目は、理科教育に関するセミナーと展示ゾーンを紹介する。理科教育をめぐっては、2012年度の全国学力・学習状況調査で初めて理科について調査が実施され、その結果を踏まえた授業改善も求められている。今回の小学校教員向けセミナーでは、新学習指導要領に基づいた問題解決能力育成のための活用型授業を進める必要性が強調された。

「活用型」理科授業への転換が必要

小学校の理科教育に求められること

文部科学省 初等中等教育局 教科調査官……村山 哲哉 氏
筑波大学附属小学校……森田 和良 氏

自分事の「問題解決」に取り組ませ、思考力の育成を

文部科学省 初等中等教育局 教科調査官 村山 哲哉 氏

文部科学省初等中等教育局の村山哲哉・教科調査官は、まず2012年度全国学力・学習状況調査の「ショッキングな結果」から紹介を始めた。「方位磁針」の名称は89.9%が正しく答えらえたのに、正しい使い方になると正答率は27.6%でしかなかった。「使い方がわからず名前だけ知っていて、これから生きていくために何になるのか。理科教育関係者はよくよく考えていただきたい」と、理科教育で観察・実験を充実するよう訴えた。

正答率が低かったのは、思考力が及ばなかったためでもある。村山調査官は「問題解決」がこれからの理科教育に一層求められることであり、これまで足りなかったことでもあると強調した。問題解決とは「何らかの欲求や要求が満たされていない状態(初期状態)から満たされた状態(目標状態)への移行」とのこと。人間は生物の中で唯一「わかりたい」「もっと○○したい」という知的欲求を持つ存在であるからこそ、初期状態と目標状態のギャップを埋めようとする。人間が思考するのは「何らかの問題が生じ、それを解決しなければならなくなった時」であり、「思考力は、子どもが主体的に問題解決に取り組む過程で、おのずから育つもの。教えて育てるものではない」。だからこそ理科では、しっかりとした体験活動と、体験を整理する言語活動を効果的に組み込んで「自分事の問題解決」に取り組ませることを通して「問を持つ子」を育てるよう、村山調査官は理科教育関係者に要請した。

理科教育の充実は、科学技術へのリテラシー(活用能力)や関心度が諸外国に比べ低い国民の意識を改善するものであると共に、震災の教訓として「一人一人が情報を得て、自ら判断・決断し、行動する力」(中央防災会議・防災対策推進検討会議・最終報告書)を育成することでもある。村山調査官は、教育再生実行会議もグローバル人材育成のための「3本の矢」として「英語教育の抜本的改革」「国家戦略としてのICT教育」と共に「イノベーションを含む理科教育の刷新」を挙げていることに注意を促しながら、学習指導要領の次期改訂でもこうした点が検討課題になることを指摘。戦後一貫して理科教育の課題となってきた問題解決の授業に早急に取り組むよう訴えた。

活用型授業で「わかったつもり」排除を

筑波大学附属小学校の森田和良教諭は講演の冒頭で、活用型の理科授業のポイントを「『わかったつもり』の排除だ」と説明した。これまでの理科授業では知識や技能の「入力」が重視され、「意外と『出力』させてこなかった」のが現状だった。しかし、「活用できて初めて『知識・技能を習得』できたと判断していい」と、授業方法の認識の転換を訴えた。

筑波大学附属小学校 森田 和良 氏

森田教諭によると、活用力とは「課題に対し、多様な状況に合わせて科学的な知識や技能を適用させ、解決に導く力」。それを支えるものとして、(1)かかわる条件を整理し分析する力、(2)適切な方略を選択する力、(3)適用した方略を適切に実行する力――が必要になる。そうして培われた活用力は当然、他教科はもとより生活にも活用できるものだ。具体的には、(1)1時間の中で活用場面として「理解進化課題」(教えて考えさせる授業)を設定する、(2)「次」や「単元」後に、活用場面を設定する、(3)「日常生活」とかかわる場面を設定する――を提案した。

講演の後半は、「ものの溶け方」(5年生)、「チョウを育てよう」(3年生)を例に、活用場面の模擬授業を行った。セミナー参加者の先生方も、児童の気持ちになって興味津々で取り組んでいた。森田教諭は「よく見ているのに覚えていない」「よく見るのに、意外と見ていない」「意識すると見えてくる」ことに注意を促しながら、「知識を活用した言語活動」の重要性を強調して講演を締めくくった。

展示ゾーン

[理科]活用型理科授業に欠かせない最新機器・設備が充実

展示ゾーンの「UCHIDA SCIENCE」コーナーでは、理科教育の最新機器・設備等がズラリそろい紹介されていた。理科施設・設備は、2012年度補正予算や2013年度予算で大幅な拡充が図られており、実験・観察を重要視する「活用型」理科授業を進めるためにも不可欠だ。来場者も興味深く担当者の説明を聞いていた。

新製品の「カート」

注目されたのが、新製品の「カート」。可動式の実験台には実験器具等が収納でき、ワゴンとしての機能も持ち合わせている。もちろん表面材は熱や薬品に強く、卓上設置型のドラフトチャンバーや鉄製スタンド等も備え、これ1台で様々な実習に対応可能。つまり、普通教室に持ち運んで本格的な実験・実習ができるという、“いつでもどこでも理科実験”がコンセプトの製品といえる。

会場で大人気の「触れる地球」

また、同コーナーでは「楽しくなければ理科教育ではない」「ウチダが考えるこれからの理科室」といった、実験を交えながらのミニセミナーも開催され、会場を沸かせていた。

会場ではこの他、直径約80センチの地球型ディスプレイに映像を映し出す「触れる地球」(株式会社JVCケンウッド)も展示され、人気を集めていた。

写真:言美 歩/取材・文:渡辺敦司

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