2013.08.06
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18th New Education Expo 2013 in 東京 現地ルポ(vol.4)

「New Education Expo 2013 in 東京」が6月6~8日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。本イベントの中心テーマの一つである「教育の情報化」、中でも「1人1台の情報端末」はこれからの教育の形を大きく左右するテーマだけに来場者の関心をひときわ集めていた。第4回目は、その「1人1台の情報端末」に関するセミナーと、デジタル教材・教具が勢ぞろいし、最も熱気にあふれていた展示ゾーンを紹介しよう。

「1人1台情報端末」に合わせたカリキュラムの整備を

普通教室での1人1台情報端末の活用に向けて ~玉川大学と内田洋行の共同研究の成果から~

【コーディネータ】玉川大学教職大学院 教授……堀田 龍也 氏
横浜国立大学 教育人間科学部 教授……野中 陽一 氏
富山大学 人間発達科学部 准教授……高橋 純 氏
佐賀市立西与賀小学校 校長……江口 浩文 氏
内田洋行 教育総合研究所……中尾 教子 氏

「普通教室での1人1台情報端末」が当たり前の時代へ

玉川大学教職大学院 教授 堀田 龍也 氏

玉川大学教職大学院と内田洋行教育総合研究所は、子どもたちの確かな学力を育成するためには教室環境はどうあるべきかを課題に、2009年度から共同研究「UTプロジェクト」を実施し、成果報告書を毎年発行したり、研究成果をリーフレットに発行したりしている。プロジェクトについて玉川大学教職大学院の堀田龍也教授は、「先進的なことではなく、現実的なこと、今できること、来年できること、間もなくできることを研究している」と説明した。

プロジェクトは、「普通教室のICT環境」をテーマにした第1期(2009~11年度)を終え、現在は「普通教室での1人1台情報端末」をテーマにした第2期(2012~14年度)に入っている。フューチャースクールの実践を見ても、電子黒板やタブレット端末だけでなく従来の黒板も相変わらず使うなど「以前の授業と変わらない」(堀田教授)。普通教室で1人1台という情報端末環境が当たり前になることを見越して、何をどう入れたら効果的かを探る段階に入っているという。

内田洋行 教育総合研究所 中尾 教子 氏

内田洋行教育総合研究所の中尾教子氏は、「児童生徒1人1台情報端末を前提とした学習環境に関する観察調査」の結果を報告した。1人1台環境がやってきた時に何から始めればよいかの手掛かりを得ることを目的にして、小学校3校と中学校1校を対象にヒアリング(管理職及び教員)と授業観察を行った。その結果、教員にも児童生徒にも、デジタル教科書は1人1台環境において親和性が高い一方で、ノートとして情報端末を使うには、ソフトの使い分けやデジタル教科書との切り換え、一覧のしにくさなど、課題があることを指摘した。さらに、1人1台環境におけるICT活用は、電子黒板などで拡大提示するという既存のICT活用を前提に、児童生徒の1人1台のICT活用が加わっていることを整理した。

1人1台環境に合わせた授業スタイルを考える

佐賀市立西与賀小学校 校長 江口 浩文 氏

佐賀市立西与賀小学校の江口浩文校長は、フューチャースクール推進事業(2010~12年度)と学びのイノベーション事業(2011~13年度)の指定を受けて取り組んできた事例を報告した。江口校長は、児童が1人1台の情報端末で学んだ内容を家庭でも振りかえることができるように、事業では整備されなかったプリンターを各教室に導入。児童は、プリントアウトしたノートをファイリングして、持ち帰ることができるようになった。今年度はデジタル教科書の実証実験に取り組んでいる。「ICT機器は道具であり、どの教員も使えないと長続きしない」というのが基本スタンス。学習や研究を支えるものは「仲間づくり、学級づくり」であり、ノートや黒板といったアナログと、デジタルのそれぞれの利点を活用し、共存するという「良い所を少しずつ取っていくのがベストでありベター」だとした。「どの教員も使える」環境が整うことで、授業経験の蓄積があるベテランの教員にとっては「提示したかったものが効果的に提示できる」等、より「やりたい授業」が可能になる。授業経験は少ないが機器の使用法に熟達している若手教員にとっては、ベテランと一緒に教材研究に取り組むことで自然とOJTの場が生まれることも利点だ。課題として江口校長は、常駐のICT支援員が必要であることを訴えた。

横浜国立大学 教育人間科学部 教授 野中 陽一 氏

横浜国立大学教育人間科学部の野中陽一教授は「今までは従来型の授業スタイルに合わせてICTの活用ができることが前提だったが、1人1台端末を持った時にはそろそろ授業スタイル自体を変えていかざるを得ない」と指摘。「いつまでも研究・開発ベースでは定着しない」として、持続可能なカリキュラムを開発するよう提言した。

富山大学 人間発達科学部 准教授 高橋 純 氏

富山大学人間発達科学部の高橋純准教授は「普及・定着するICT活用には『効果がある』というだけでは不十分であり、先生にとって使いやすい、安く買えるなど『簡単である』ということも満たす必要がある」と指摘。普及・定着段階にあっては「最終ゴールをいきなり狙わず、丁寧な研究開発を行っていく必要がある」と提唱した。
 堀田教授は「国が学習指導要領、教育課程としてどう保証するかが次の大きなトピックになる。カリキュラムが整備されていないのに『先生にスキルがないからできない』とやゆされる不幸を繰り返してはいけない」と指摘した。

展示ゾーン

[デジタル教材・教具]サーバー不要のシステムやコンテンツがそろい、利便性がさらに高まる

教科書会社9社がそろったデジタルコンテンツのコーナー

「電子黒板」や「教育用デジタルコンテンツ」等のデジタル教材・教具が一堂に会した展示ゾーンは、来場者の密度が最も高い場所だったように感じた。

特に、9社のデジタル教科書がそろったコーナーは、我々取材スタッフが見学の妨げになるほどのこみよう。今年は高校用デジタル教科書も初登場し、関係者の注目を集めていた。また、オンラン総合辞書検索サービス「Web Dictionary」(株式会社三省堂)、用具の使い方を動画にした「ようぐる」(日本文教出版株式会社)等、デジタルコンテンツ自体もグンと充実してきている。

  • パイオニアソリューションズ(株)の「xSync」はタブレットPCやスマートフォン等あらゆる学習者用端末に対応する

  • パイオニアソリューションズ(株)の「クラスルーム・サイネージ」

ひときわ目立ったのが、パイオニアソリューションズ株式会社の「xSync(バイ シンク)」。協働学習・アクティブラーニング型の授業を支援するシステムだ。50インチ、60インチ、70インチの各種電子黒板と学習者用端末をWi-Fiでつないで連動させるため、サーバーは必要ない。児童生徒の意見や回答をそのまま電子黒板に転送できるため、個別・グループ・一斉学習いずれも効率的に行え、学習に深みを持たせることができる。
 また、日本マイクロソフト株式会社、東京書籍株式会社と共同開発した「クラスルーム・サイネージ」は、授業用に使っている電子黒板を、校内掲示板として授業外でも活用できるシステム。生徒会や部活動の協働スケジューラーとして、時間割や学級新聞、通学情報などの情報共有の場として等、学校全体でフル活用できる新たな電子黒板の使い方を提案している。

「EduMall」コーナー

「EduMall」は、地域イントラ・校内LAN等のICT環境を活用し、教員向け教育用Webコンテンツを学校に配信するサービスだ。今年は、専用サーバー不要のクラウド型コンテンツ配信サービスの「EduMall Lite」が登場。22社約800タイトルのコンテンツを用意している(1年ごとにコンテンツを選び直すことができる)。配信型のため、コンテンツごとのインストールは不要、すべて校内フリーライセンスなのでPCが増えても追加購入は不要だ。また専用サーバー不要のため初期導入コストを抑えることができ、1校当たり年間基本料10,500円(税込)とリーズナブル。年間コンテンツ利用料を加えても「かなり手軽に利用できる」としている。

写真:赤石 仁/取材・文:渡辺敦司

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