2013.08.13
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18th New Education Expo 2013 in 東京 現地ルポ(vol.5)

「New Education Expo 2013 in 東京」が6月6~8日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。3.11から2年、学校現場にとって防災教育の推進は重要課題の一つだ。そこで第5回目は、防災教育に関するセミナーと展示ゾーンを紹介する。東日本大震災で「釜石の奇跡」を生んだ岩手県と、東海地震への備えが進んでいる静岡県からの報告は、大変学ぶべきものの多いセミナーであった。

震災の教訓を全国へ。防災教育推進の一助に

学校・行政・地域が連携する防災教育 ~釜石の奇跡・静岡県の取り組みに学ぶ~

遠野市立土淵小学校 校長(前釜石市教育長)……川崎 一弘 氏
静岡県教育委員会 教育総務課(危機管理担当) 主幹……貝瀬 佳章 氏

市民の意識を変えるには、まず子どもから

遠野市立土淵小学校 校長(前釜石市教育長) 川崎 一弘 氏

遠野市立土淵小学校の川崎一弘校長は、2010年4月から釜石市教育委員会に勤務し、震災後の2011年10月から今年3月まで教育長を務めた。歴史的に幾度も津波被害に襲われてきた釜石市が、本格的な津波防災教育に取り組んだのは2008~09年度、文部科学省の防災教育支援事業を受けてからだ。「市民向けの避難訓練を実施しても参加する人は決まっているが、子どもは10年たてば親になる。市民の意識を変えるために、学校教育の中に防災教育を取り込もうと考えた」という。

2004年度から釜石市の防災・危機管理アドバイザーを務める片田敏孝・群馬大学理工学研究院教授の協力も得て、「津波は逃げれば必ず命を守ることができ、(人的な)被害をゼロにできる」と考えて取り組んだという。それだけに「マスコミ等では美談のように語られるが、私たちは決してそうは思っていない。1,000人を超える市民が犠牲になり、家族と一緒に避難して亡くなった子もいる。決して美しい話ではない」と悔しさをにじませた。だからこそ「どんな災害が起こっても必ず命を守り抜く。そのために少しでも役立つヒントを持ち帰り、活かしていただきたい」と訴えた。

また、釜石市内の学校の教員は、3人に2人は内陸部出身者であり、地震や津波に対する知識が豊富というわけではない。そのため赴任した教員には必ず研修プログラムを受けてもらっている。地域に貼る津波ステッカーのデザインも子どもたちが家族と一緒に考えるなど「いろんなことを津波防災の意識啓発につなげられないかと考えた」。

一方、各学校で津波・防災教育を行うには、授業時数も教材も足りない。そこで、釜石市教育研究所に現場教員から成る研究班を立ち上げ、算数や体育の導入で扱うなど各教科の授業に組み込んだプログラムと教材を、開発過程から実践段階まで公開し、2010年3月に「津波防災教育の手引き」として小・中学校などに配布した。今年3月の改定版では震災を受け、避難所運営に中学生がかかわる方法や、緊急地震速報を使った避難訓練も盛り込んだ。「教師がどれだけ創造的に教育課程を編成することができるかが重要だ」という。

川崎校長はこの後、発災時の子どもたちの行動や、直後の2011年8月に東京都内で行われた「防災フェア」(内閣府など主催)で発表した釜石市立釜石東中学校の生徒の様子などを詳しく紹介。保護者への引き渡しの是非については「一緒に逃げましょう、というのが正解だ。避難所に行ってから引き渡すのが正解だと思っている」と指摘した。

震災を教訓に防災教育方針を充実

静岡県教育委員会 教育総務課 (危機管理担当)主幹 貝瀬 佳章 氏

静岡県教育委員会教育総務課(危機管理担当)の貝瀬佳章主幹は、もともと県立高校工業科の教員だったが、3年間の県防災局出向を経て2009年度から県教育委員会に異動して防災教育や県立学校等の防災体制の推進に携わっている。東日本大震災の直後には県の第6次支援隊(2011年4月28日~5月7日)など高校生を率いて被災地ボランティアを行った。岩手県宮古市の高校生から「私たちの失敗を静岡で繰り返さないでください」と言われたことを振り返りながら、今後もボランティアを続けて教訓を語り継いでいく意欲を示した。

県教育委員会では以前から「静岡県防災教育基本方針」を策定していたが、東日本大震災を受けて2012年2月に改定。「生涯学習としての防災教育」を掲げ、各教科、道徳、特別活動等の教育活動全体を通じての体系的・計画的な取り組みを推進している。この他、今年3月に配布された文部科学省の学校安全参考資料の扱いなども示している。さらに、基本方針を補完するものとして、「高校生のための防災ノート」を作成したり、「しずおか型実践的防災学習支援教材集」をホームページにアップしたりするなど教材も充実させている。県の防災担当部局とも地域レベルで連携を進めていることも紹介した。

展示ゾーン

[防災]万一の際に子どもたちの命を守るための機器・システム

展示ゾーンの「防災/保健」コーナーには、防災に役立つ機器やシステムが展示された。中でも、緊急地震速報受信システム(明星電気)は、緊急地震速報を端末内蔵スピーカーで職員室内に音声通知すると同時に、放送設備と自動連動して校内放送で伝達するものだが、訓練機能も搭載しており、任意の震度で防災訓練を行うことができる。

別ブロックの一角に展示されたのが、ウチダテクノが東北大学との共同研究プロジェクトで商品開発した緊急転用家具「たなからまじきり」。普段は学校で本や学用品を入れる棚として活用できるが、非常時にはドライバー1本で解体し、避難所の間仕切りに転用できる。避難の長期化に伴って高さを変えたり、勉強机のように組み立てたりすることも可能。木製の各部材は中学生二人で楽に運ぶことができる程度の重さとサイズ。避難訓練はもとより、文化祭などイベントの際の展示パネルにも転用できるので、日頃から組み立て・解体に慣れておくこともできる。

「たなからまじきり」は、書庫1個分で避難所1家族分のスペースに転用可能

本製品のアイデアは、ドイツ系家具用金具メーカー「ハーフェレジャパン」の学生デザインコンペティション「個人または1家族が使用する避難シェルターをデザインする」(2012年)に、同大大学院工学研究科・本江正茂研究室のグループが応募したことから生まれた。学生たちが避難所でのボランティア経験などを持ち寄り、創り上げたものだ。そのうちの一人、今春就職した東京都墨田区の設計事務所で学校を設計する部署に配属されたという片桐勇貴さんは「防災面もしっかり考えていきたい」と意欲を見せていた。

写真:言美 歩/取材・文:渡辺敦司

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