2017.07.12
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22nd New Education Expo in 東京 現地ルポ(vol.3) 地域の活性化につながる図書館と読書通帳の取り組み

22nd New Education Expo in 東京 現地ルポ(vol.3)

「New Education Expo 2017 in 東京」が6月1日~3日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。3回目の現地ルポでは、同時開催された「読書通帳サミット」の模様をお伝えする。「読書通帳(R)」は図書の貸出履歴を記帳できるユニークなサービス。図書館の利用者増や学校連携での読書推進、地域の活性化につながる取り組みとして注目を集めている。この読書通帳を導入した図書館関係者などが集まり、これからの図書館のあり方について話し合う「読書通帳サミット」は、今年で 3 回目。ご紹介する第Ⅰ部では、文部科学省で公共図書館を担当する社会教育課長を務めた国立東京近代美術館館長の神代浩氏による基調講演と、市立米沢図書館館長の村野隆男氏による事例発表が行われた。併せて、IT図書館システムの展示ゾーンから「読書通帳機」の最新情報もお届けする。

図書館と読書通帳で目指す、地域の活性化

読書通帳サミット2017 第Ⅰ部(基調講演と事例発表①)まちづくりと図書館
~いかに地域の課題解決に貢献するか?~

国立東京近代美術館 館長、文部科学省 生涯学習政策局 元社会教育課長……神代 浩 氏
市立米沢図書館 館長……村野 隆男 氏

[基調講演]まちづくりと図書館~いかに地域の課題解決に貢献するか?~

「本を借りるだけの場所」から「課題解決にも役立つ場所」へ

国立東京近代美術館 館長、文部科学省 生涯学習政策局 元社会教育課長 神代 浩 氏

国立東京近代美術館 館長、文部科学省 生涯学習政策局 元社会教育課長 神代 浩 氏

近年、本を貸し出すという従来の機能に加えて、個人や地域の課題解決を支援するサービスに力を入れる公共図書館(以下、図書館)が増えつつあることを、ご存知だろうか? その立役者とも言えるのが、本講演に登壇した国立東京近代美術館館長の神代浩氏だ。

神代氏と図書館との縁の始まりは、文部科学省、生涯学習政策局の社会教育課長に就任した2009年。当時、図書館と図書館員の数は右肩上がりに増えていたが、常勤職員の割合は低下し、1館当たりの資料費も減少傾向と、図書館界は決して元気とは言えない状況だった。しかし、鳥取県立図書館の開館20周年を記念するシンポジウム「ディスカバー図書館inとっとりⅡ」に参加した神代氏は、そこで図書館の新しい可能性を目にすることになる。

「鳥取県立図書館の入り口には、いじめや介護、不当解雇といった人生で誰もが遭遇する可能性のある課題について、解決の糸口となる資料が館内のどこにあるかをまとめたリーフレットが、テーマ別にズラリと並べてありました。関連図書や法律関連雑誌の書架、関連ホームページや裁判の判例が検索できるPCコーナーなどが館内マップに示され、相談機関の連絡先までもが記載されている。例えば、子どもがいじめの悩みをいきなり窓口や電話で相談するのはハードルが高くても、このリーフレットがあれば知りたい情報を一人で調べ、課題解決の一助とすることができるのです」(神代氏)。

折しも、リーマン・ショック後の景気低迷が続く我が国では、派遣切りなどによる失業者や生活困窮者への対策が急がれていた。神代氏は「図書館に何かできることはないだろうか?」と呼び掛け、それに呼応した図書館と共に、2010年に有志のネットワーク「図書館海援隊」を立ち上げた。

「この10年ほどの間に、文部科学省は『これからの図書館は地域を支える情報基盤であるべきだ』との方向性を示していましたし、それを実践する図書館や図書館員は各地に存在していましたが、孤立しがちでした。そこで、高い志を持って新たな図書館業務に取り組む人々を結びつけ、失業者・生活困窮者支援をはじめとする地域の課題解決に貢献する取り組みを推進しようと考えたのです」(神代氏)。

こうしてスタートした図書館海援隊には、他の図書館からも参加希望が寄せられ、今では支援や情報提供を行う分野も広がっているという。しかし、全国的に見れば「まだまだ努力すべき点がある」と神代氏は言う。

「図書館法第3条には、9項目にわたって図書館の提供すべきサービスが示されています。中でも、3項の『図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち、その利用のための相談に応ずるようにすること』と、6項の『読書会、研究会、鑑賞会、映写会、資料展示会等を主催し、及びこれらの開催を奨励すること』は、課題解決支援の機能を高めるためにも重要なもの。これらのサービスを十全に提供できている図書館が果たしてどれだけあるのか。原点に立ち返り、今一度やるべきことを徹底する必要があるでしょう」(神代氏)。

「読書通帳(R)」で広がる図書館の可能性

続いて、神代氏は読書履歴を“見える化”する「読書通帳(R)」について語った。「読書通帳(R)」とは、ICタグが貼付された通帳を、既存の図書館システムと連携した「読書通帳機」に入れることで、貸出日や書名などの貸出データを利用者が印字できるサービス。2010年に内田洋行が開発し、これまでに全国24自治体の図書館で導入されている。その取り組みを見る中で、神代氏は「図書館(社会教育)」「学校教育」「地域振興」の三つの視点における読書通帳の意義と可能性を見出したと言う。

まず図書館(社会教育)の視点では、「公共図書館、学校図書館、読書推進活動の3者を結びつけたり、図書館と美術館・博物館を連携させたりするツールとしても活用できるのではないか」と指摘。「おはなし会や読書会といった図書館におけるイベントのネタ帳としても利用できる」とした。次に、学校教育の視点においては、「読書や記録を習慣づけることによる学習定着への効果は大きい」とし、「鑑賞した絵画や音楽の履歴が残せる美術通帳、音楽通帳といったように、他教科へも拡大することで、将来的には総合的な学習評価ツールへと発展する可能性もある」と述べた。さらに、アイディア次第で「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)にもつなげられる」との見解を示した。そして地域振興の視点としては、「地域イベントで人と人をつなぐコミュニケーションツール」としての活用を提案。通帳にはスポンサーとして地元企業の名前を掲載することも可能なことから、「地元の金融機関と連携して金融教育につなげるなど、将来的には企業のCSR活動へと発展させることもできるのではないか」との展望を語った。

一方で神代氏は、「読書通帳(R)」の普及や活用をさらに広げていくためのアドバイスとして、図書館が独自に作成している貸出履歴の記録ツールを例に挙げ、機能面の充実を促した。例えば、埼玉県の行田市立図書館が配布している印字シールを貼るタイプの「図書館読書手帳」には、妊婦向けのものもあり、胎教に関する有益な情報提供がなされている。このように情報発信ツールとしても「読書通帳(R)」を活用できれば、「図書館が持つ地域の課題解決支援の機能をよりわかりやすく伝えることができるでしょう」と神代氏は指摘する。

また、神代氏は、コスト面での負担を軽減できるようなビジネスモデルの確立、導入館同士の日常的な情報交換や未導入館への働きかけなどの必要性についても言及。「導入館が切磋琢磨して『読書通帳(R)』のサービスを広げることは、図書館の社会的な認知度を高めることにもつながっていくのではないか」との期待を述べ、講演を終えた。

[事例発表①]ナセBAなる! 市立米沢図書館 開館!!

地域の特色を生かした、市民が集う図書館づくり

市立米沢図書館 館長 村野 隆男 氏

市立米沢図書館 館長 村野 隆男 氏

続いて、実際に「読書通帳(R)」を導入している山形県は市立米沢図書館の館長、村野隆男氏による事例発表が行われた。手狭になって久しかった同図書館は、市民ギャラリーとともに中心市街地の活性化を担う新文化複合施設として生まれ変わり、2016年7月にオープンしたばかり。施設の愛称「ナセBA」は米沢藩9代藩主・上杉鷹山が残した名言「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」に由来し、「BA」は「BOOK」と「ART」の頭文字を合わせたものだ。新図書館の運営は順調で、今年4月末の時点で来館者数は年間28万人の予想を上回る32万人を突破したという。それほどまでに市民を惹きつける魅力はどこにあるのか、村野氏が語ってくれた。

新しい図書館のコンセプトは、「歴史に学び、今を生き、未来を創る市民の図書館」。「暮らしの中に図書館を」を合言葉に、市民が日常的に立ち寄って興味の輪を広げたり、課題解決につなげたりできる場を目指している。リニューアルにあたり、まず行ったのは、図書館の機能を支える運営体制の見直し。それまでの教育委員会による直営から、市が100%出資する公益財団法人を指定管理者とする運営スタイルへと切り替えた。
「これにより、週1あった休館日を月1に減らし、土・日・祝日の開館時間を増やすことができたので、利用者の利便性が格段に向上しました。また、これまで米沢市は司書資格を持つ一般職員を図書館に配属していましたが、財団で司書を新規に採用し、育成することも可能になりました」(村野氏)

加えて、図書館システムも一新。ICタグを採用し、一度に10冊までの貸出を可能にする自動貸出機や、蔵書点検の時間を大幅に削減できる蔵書点検端末機を導入した。図書館が2階にあることを考慮し、1階のブックポストで一時返却の処理ができるようにした点も注目に値する。開館時間内でも返却ができる上、手ぶらで図書館に上がって新しい本が借りられるとして、特に高齢者から好評を得ているという。

蔵書については、旧館時代の26万冊から30万冊へと増冊し、開架冊数も4万冊から15万冊へと拡大。来館者が手にとって見られる本の量が大幅に増え、芋づる式に興味や理解を深めることが可能になった。「図書館の売りでもある貴重な古典籍や古文書などの郷土資料は、専用のリファレンスカウンターと閲覧室を設置。来館者に郷土の歴史を伝えるため、資料を展示するコーナーも設けています」と村野氏は胸を張る。

また、建物の外装や内装にも地域の特色が生かされ、来館者の心を和ませている。
「建物を覆う温かみのある木材は、地元産の杉材。窓際にズラリと並ぶ閲覧席に据えた柔らかな曲木の読書灯と椅子は、地元の家具メーカーによるものです。読書灯には米沢発の次世代照明である有機ELを用いました。児童書や絵本をまとめた子どもコーナーの壁には、米沢市出身の漫画家・ますむらひろし氏の描き下ろし原画をステンドグラスにして飾っています」(村野氏)。

「読書通帳(R)」を新たなサービスの目玉に

新図書館では、旧館時代から開催してきた歴史講座や読み聞かせに加えて、新しい取り組みも始めている。市が実施する7か月児健康教室に図書館の職員が出向いて読み聞かせなどを行い、赤ちゃんに絵本をプレゼントする「ブックスタート」、クルマに児童が好む本を積んで巡回する「小学校巡回文庫」と並んで、市民から好評を得ているのが「読書通帳(R)」のサービスだ。

「以前から関心を持っていた『読書通帳機』に低価格のコンパクトモデル『読書通帳機mini』が登場したということで、リニューアルによるシステム一新を機に1台導入しました。ますむら氏のステンドグラスをデザインした通帳を1万冊用意し、現在は米沢市内に住む小中高校生と、市内に通う高校生の希望者のみに無償で配布しています。現在、約2,000冊が利用されており、中には4冊目に届こうという子もいます」(村野氏)。

一方で、読書通帳の運営については課題もある。通帳1万冊分のスポンサーは確保できたものの、次のスポンサーのめどが立たないため、この先の増刷が見込めないというのだ。「本当は通帳の無償配布の対象地域を近隣の町まで広げたいのですが、自前での予算確保は難しく、範囲を絞らざるを得ませんでした」と村野氏。通帳を希望する声は大人からも上がっており、この場合は通帳を有料にして対応することも可能だが、また別のコスト問題があるという。
「現時点で、土日には『読書通帳機』の前に行列ができるほどの人気。一般の人に利用を広げるとなると、もう1台導入が必要になりますが、コスト面で折り合いがつかないというのが現状です」(村野氏)

とはいえ、「新館に移ってから子どもの来館者数が圧倒的に増えた背景に、『読書通帳(R)』の影響があることは間違いない」と村野氏は手応えを口にする。そして、「子ども達がたくさんの本に触れ、夢を大きく膨らませてくれたら、これに勝る喜びはありません。図書館の使命を果たし、街に賑わいを創出できるよう、今後も運営に努めたいと思います」と語り、発表を締めくくった。

展示ゾーン

[図書館コーナー]「読書通帳機」に導入しやすいコンパクトモデルが登場!

(右):従来の「読書通帳機」、(左)コンパクトタイプの「読書通帳機mini」

(右):従来の「読書通帳機」、(左)コンパクトタイプの「読書通帳機mini」

株式会社内田洋行の図書館コーナーでは、ICタグを活用して図書館の作業負荷を軽減し、利用者の利便性を向上させるIT図書館システム「ULiUS(ユリウス)」を展示。図書の不正持ち出し防止に役立つ「セキュリティゲート」、誰でも簡単な操作で貸出処理ができる「自動貸出機」など最新のIC機器が並ぶ中、ひときわ目を引いたのが「読書通帳(R)」だ。従来の自立型の「読書通帳機」に加えて、2015年11月にはカウンターの上にも設置可能なコンパクトタイプの「読書通帳機mini」が登場。従来機のように利用者登録はできないため、カウンターで処理する必要があるが、その分、費用を半分程度に抑えられる。それでいて、子どもでも容易に貸出データを印字できるメイン機能に変わりはなく、前述の市立米沢図書館のような導入事例も現れている。

導入自治体の多くは子どもに無償で通帳を配布しているが、中には大人にも有償で配布している所もあり、扱い方は様々。通帳のデザインも自治体ごとにオリジナルで作成でき、印字項目は書名や貸出日のほか、著者名、巻数、貸出図書館、返却日などデータベースにある情報から希望に合わせて数点を選ぶことができる。

読書通帳の見本をいくつか見せてもらったが、サイズは預金通帳とほぼ同じで、特にスポンサーとなっている銀行の名前が掲載されたものは本物の通帳さながら。担当者によると、小さな子ども達は借りた本の履歴が貯まっていく喜びと、大人と同じように通帳に印字する楽しさの相乗効果により、読書意欲が刺激される傾向にあるそうだ。導入館からは子どもの図書館利用が増え、それが貸出冊数の増加につながっているとの報告が多数寄せられているという。

図書館システムと連携し、貸出日や書名などの貸出データを印字できる

図書館システムと連携し、貸出日や書名などの貸出データを印字できる

なお、学校図書館での導入はこれからだが、富山県の立山町立図書館では、データ連携により学校で借りた本を同図書館の「読書通帳機」で印字できる仕組みを取り入れている。これが広がれば、学校の先生が「その本を読んでいるなら、これも読んでみては?」とアドバイスする機会が生まれ、子どもの読書活動が深まる効果も期待される。様々な可能性を秘めた「読書通帳(R)」の今後の展開に、ぜひ注目いただきたい。

取材・文:吉田 教子/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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