22nd New Education Expo in 東京 現地ルポ(vol.4) 今、なぜカリキュラム・マネジメントなのか?
「New Education Expo 2017 in 東京」が6月1~3日の3日間、東京・有明の東京ファッションタウンビルで開催された。第4回目の現地ルポでは、カリキュラム・マネジメントに関するセミナーの模様をお届けする。次期学習指導要領では各学校でカリキュラム・マネジメントを実現することが求められており、教員の関心も高く、会場は満席となっていた。また展示ゾーンからは、最新の理科教育機器をリポートする。
カリキュラム・マネジメントの必要性と、その実施方法
カリキュラム・マネジメントとは? ~次期学習指導要領をふまえ考える~
國學院大學 人間開発学部 教授
文部科学省 前視学官……田村学 氏
岐阜大学教職大学院 教育学研究科 准教授……田村知子 氏
「深い学び」を実現するには、カリキュラム・マネジメントが必要
昨年度まで文部科学省初等中等教育局で視学官を務めた國學院大學人間開発学部教授の田村学氏は、まず次期学習指導要領改訂の背景を解説してくれた。社会のグローバル化が進む中、日本の国際的な存在感が低下していること。少子高齢化で、2060年には生産年齢人口が2010年に比べて約半分にまで激減すること。人工知能の進化により、型が決まった単純な仕事は人工知能に取って代わられること。
「このような社会の変化に対応するため、2030年に大人になる子ども達に社会で生きていく力を学校教育で育むために、学習指導要領は改訂されたのです。次期学習指導要領では、育成を目指す資質・能力を三つの柱で整理しました。『生きて働く知識・技能』『未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力』『学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性』の三つです。この三つの柱を育成するために求められているのが、『主体的・対話的で深い学び』の視点による授業改善、そしてカリキュラム・マネジメントの充実です」
と田村学氏。
しかし学校現場の教員からは、主体的な学び、対話的な学びはイメージできるが、「深い学び」とは具体的に何を指しているのかわからないと、よく質問されるという。そこで田村学氏は、まず「深い学び」について解説してくれた。
「深い学びとは、子どもの中で知識と知識がつながる学びです。既得の知識と新たに獲得した知識とを関連付けたり、組み合わせたりできる学びです。
知識と知識がつながる学びを行うには、例えば以前習った単元と今習っている単元やこれから習う単元とがつながるように、年間指導計画を考える必要があります。同じ教科内だけでなく、異なる教科ともつながるように、教育課程を編成することも求められます。つまり、深い学びを実現するには、こういったカリキュラム・マネジメントを充実させる必要があるのです」(田村学氏)
カリキュラム・マネジメントには、(1)教科横断的な学びの実現、(2)PDCAサイクルの確立、(3)人的・物的資源の効果的活用、という三つの柱があると田村学氏は説明し、そのうち(1)教科横断的な学びの実現が、特に「深い学び」の実現に関わってくると指摘した。
「次期学習指導要領は、各教科の内容も三つの柱『知識・技能』『思考力・判断力・表現力等』『学びに向かう人間性等』で整理されましたが、教科横断的な学びをデザインするには、まず『知識・技能』とつなげるのが、やりやすいと思います」(田村学氏)
例えば、社会の「水」に関する学習(水道水はどう作られるのか、森やダムはどんな働きをするのか)と、理科の「水」に関する学習(川のでき方や水の働き、気体・液体と姿を変える水)をつなげてみるのだ。社会で習った水の知識と理科で習った水の知識がつながれば、自然界で水は川→海→水蒸気→雨→また川と循環し、侵食作用や運搬作用によって私達の暮らす土地を作り、農業や工業そして生活に欠かせない水資源となっている等、「水」についてより「深く」理解できるようになるだろう。
「『知識・技能』をつなげたら、『思考力・判断力・表現力等』もつなげましょう。例えば、理科で習った水の働きの知識や、社会で習ったダムの働きの知識を使って、総合的な学習の時間で水害に関する調べ学習と発表を行ってみるのです」(田村学氏)
このように、どの教科の単元同士がつながりやすいかを考え、授業を作っていくには、「単元配列表」を作成するのが良いと、田村学教授は提言した。これは上の図のように、縦軸に教科、横軸に時期を並べた表で、どの教科でいつどの単元を学ぶかがひと目でわかる。この表を作ってじっくり眺めれば、「この教科の単元と、この教科の単元が結びつきそう」とわかってくるし、そのためには「先に習う単元でこういう知識をしっかり習得させ、後に習う単元でその知識を振り返る時間を設け、知識と知識がつながるようにする」といった授業計画も見えてくるという。
最後に、田村学氏はこんなアドバイスを送ってくれた。
「まずは、どの教科の単元同士がつながりそうか、イメージしてみてください。先生方ならすぐ思いつくはずです。そのイメージを基に、具体的な単元計画や授業計画を考えていきましょう。たくさんの教科、たくさんの単元をつなげようとすると複雑になるので、まずはシンプルにつなげることから始めると良いと思います」。
「つながり」を作ることが、カリキュラム・マネジメントのキーポイント
続いて、岐阜大学教職大学院教育学研究科准教授の田村知子氏は、カリキュラム・マネジメントを成功させる秘訣について話してくれた。
まず田村知子氏は、
「カリキュラム・マネジメントとは、学校の教育目標をより良く達成するために、組織としてカリキュラムを作り、変えていく、継続的かつ発展的な、課題解決の営み」
であると解説。そのために次期学習指導要領では、カリキュラム・マネジメントの三つの柱の一つとして「PDCAサイクルの確立」を挙げ、
「PDCAサイクルで教育課程を改善し続けていくことが求められている」
と述べた。
そして田村知子氏は、PDCAサイクルで学校行事を改善した事例を紹介した。ある小学校では、「プール指導」や「一輪車リレー大会」等の体育系学校行事の統一目標を「あきらめない気持ちを育成する」と設定。この目標に沿って、まずは夏の「プール指導」の計画を立案(Plan)、実施(Do)した後、評価(Check)を行い、改善すべき点を洗い出した(Action)。そして、ここで出てきた改善すべき点を、秋に行う「一輪車リレー大会」の計画に反映し、同じようにPDCAサイクルを実施。そこで出てきた改善点を次の行事にも活かし……と、繰り返していったのだ。
「それまでも各行事でPDCAサイクルを行っていましたが、『今年度の行事でわかった改善点を、翌年度の同じ行事の計画に活かす』程度でした。しかし、同一年度内の異なる行事をPDCAサイクルでつなげることで、『あきらめない気持ちを育成する』という目標を今まで以上に達成できるようになりました。
この『行事』を『各教科』に置き換え、『あきらめない気持ちを育成する』を当該教科の単元間を貫く学習上の目標に置き換えれば、異なる単元同士をPDCAサイクルでつなげて、目標をより達成できるようになります」(田村知子氏)
その事例として、田村知子氏は、ある小学校の取り組みを紹介した。この小学校では、学年ごとに「年間カリキュラム表」を作成。縦軸は各教科、横軸は時期・学年目標・各学期で育てたい力とし、表内に各単元を配置した。田村学氏が説明した「単元配列表」によく似ているが、「育てたい力」を色分けし、その力を育めると思われる単元を同じ色で塗っているのが特徴だ。
例えば、4~6月の育てたい力である「日本の伝統文化を愛する心」に黄色を割り当て、学年行事の「茶道体験」や、図画工作の「墨から感じる形や色」、国語の「ようこそわたしの町へ」など、育てたい力に関連する単元を同じ黄色に塗り分けている。
このような年間カリキュラム表を作れば、
「各教科や行事同士をPDCAサイクルでつなげやすくなる」
と、田村知子氏は言う。
6月に学校行事・茶道体験があるから、その前に社会科で茶道の歴史を学習しておき、茶道体験では社会で学んだことを振り返ってから活動に入ろう、といった計画的な指導が行える。社会科で学んだだけでは、茶道の侘び寂びがどういうものかピンと来ていなかったから、侘び寂びを体感できるような茶道体験にしようという風に、PDCAサイクルにより授業改善もしやすくなる。
また、4~6月の「育てたい力」が「日本の伝統文化を愛する心」なら、従来は秋にやっていた学校行事・茶道体験を春先に持ってきて、子ども達が間を置かずに学べるようにしてみようといった、教育課程の改善も行いやすくなる。
その結果この小学校では、子ども達は見通しを持って学べるようになり、自ら学びと学びをつなげられるようにもなったという。子どもから自然と「前に学んだことと関係があるね!」という声が上がるようになったそうだ。
「ただし、こういう年間カリキュラム表を一気に作ろうと気負いすぎると、先生の負担が大きくなりすぎます。焦らず、少しずつ作っていくと良いでしょう。
1年目の4月は、単元名を書き込んでおくだけにして、夏休みに振り返って『この単元と単元がつながった』『この単元間はうまくつながらなかった』と評価を行い、2学期以降に活かす。翌年度はその学年を担当する先生に年間カリキュラム表を引き継ぎ、その先生がPDCAサイクルで改善していき、また翌年度は……というように、時間をかけて充実していけばよいのです」(田村知子氏)
最後に、田村知子氏は、カリキュラム・マネジメントの要諦を話してくれた。
「カリキュラム・マネジメントの基軸は、『つながり』を作ることです。教科と教科、単元と単元をつなぎましょう。学校の教育目標と、個々の授業や行事をつなぎましょう。そして先生同士も学年や学級、教科の枠を越えてつながり、一緒にカリキュラム・マネジメントを考え、取り組んでいきましょう」。
展示ゾーン
[UCHIDA SCIENCE]いつものアナログ顕微鏡がデジタルに変身! 実験授業をスマートに支える優れもの登場
株式会社内田洋行が最先端の理科教育機器を展示する「UCHIDA SCIENCE」。この展示コーナーでは、毎年のようにタブレット搭載デジタル顕微鏡シリーズの新製品が発表されて注目を集めており、今年も新たな製品が登場した。
「この『SCD-50U 』は、既に学校にあるタブレットPCとアナログ顕微鏡とをつなぐ、デジタル顕微鏡カメラです。このSCD-50Uをアナログ顕微鏡の接眼レンズの上に装着し、USBケーブルでお手持ちのタブレットPCやノートPCとつなげば、顕微鏡の画像をデジタル化してタブレットPCやノートPCの画面にリアルタイムで表示できます。
今までは、このデジタル顕微鏡カメラとタブレット型モニタとがセットになった製品をご提供していましたが、『既に学校にあるタブレットPCを有効活用したい』とのご要望にお応えして、カメラユニットのみでのご提供も開始いたしました」
と担当者。
特筆しておきたいのは、タブレットPC用ソフトウェアも付属している点。このソフトウェアを用いれば、タブレットPCに映し出された顕微鏡の画像を静止画や動画で保存できるほか、線や文字などを自由に書き込むこともできる。例えば、ミジンコの顕微鏡画像を保存し、観察して気づいた箇所を丸で囲み、コメントを書き込んで残しておける。
前述のセミナーで田村学氏と田村知子氏は、教科横断的な学びを実現し、PDCAサイクルで教科や単元の学びをつなぐのが、カリキュラム・マネジメントのポイントだと教えてくれた。しかし理科と他教科とがつながった授業を展開する際、いちいち顕微鏡を持ち出して再観察していたのでは、時間がかかりすぎる。
その点、この「SCD-50U」を使って顕微鏡画像をタブレットPC等に保存しておけば、再観察せずとも、いつでもすぐ観察結果を振り返ることができる。画像に書き込みを残しておけば、実験した時の感想や発見もすぐよみがえる。顕微鏡画像を発表資料作りに用いることもできる。教科横断的な学びや、単元と単元とをつなげた学びを行うのに、最適なICTと言えるだろう。もう一つ、注目を集めていた新製品がある。理科で用いる様々な実験器具を、大きさや種類別に整理して収納できる「アクティブトレイ」と、その収納棚である「システム戸棚」。
「アクティブトレイ」は深さの異なるカラフルな4種類のトレイ。深めのトレイにはフラスコやビーカーを、浅めのトレイには検流計や電子はかりというように、実験器に合わせたサイズになっておりピッタリ収納できる。また、重ねて小さく収納できたりスタッキングできたりと、収納にまつわる様々なストレスを解消してくれる心憎い設計だ。
そして、これらトレイをそのままスッキリ収納できるのが「システム戸棚」。レール式なので出し入れ簡単、トレイごとグループに配って即実験開始が可能。トレイに専用の蓋をしたままでも収納でき、もちろん扉(鍵付き)を閉めればホコリの侵入を防止できる。
実験準備や後片付けが手早く行え、授業をスマートにサポートしてくれる新製品だ。取材・文:長井 寛/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局
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