2017.08.23
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プログラミング教育を活用した授業(vol.2) 子どもは体験の中から論理的思考力を獲得する ―大田原市立大田原小学校 黒田充 教諭― 後編

プログラミング教育を外国語活動と音楽科を繋ぐパイプ役として活用し、各教科を見事に融合させた授業を見せてくれた栃木県の大田原市立大田原小学校の黒田充教諭。どうすれば、あのような自然な流れで展開し、子ども達が「主体的・対話的で深い学び」を行うことができるのか? プログラミング教育において教師の役割は? 子ども達が育む「プログラミング的思考」とは具体的にどのような力なのか? 授業設計のコツと、実践者だからこそわかる体験談を交え、語っていただいた。

授業者に聞く

プログラミング教育は教科と教科を結ぶ接着剤になる

ICT活用と同様、授業計画の一場面にプログラミングを組み込む

大田原市立大田原小学校 黒田 充 教諭

大田原市立大田原小学校 黒田 充 教諭

――次期学習指導要領では、各教科や活動の中でプログラミング教育を行うと提唱されています。一つの教科の中にプログラミング教育を盛り込むだけでも苦心されると思うのですが、なぜ英語と音楽という2教科にプログラミング教育を加えたのですか?

黒田充(敬称略 以下、黒田)プログラミング教育は、教科と教科の橋渡し役として機能します。いわば接着剤のような存在です。 例えば、今日の授業の場合、外国語活動のねらいは、楽器を表す英単語を習得すること。音楽科のねらいは、各楽器の特徴や役割を体験的に学ぶこと。このように、英語と他の教科を結びつけて学ぶ手法を「CLIL(Content and Language Integrated Learning)」と言います。しかし、両者が子どもの頭の中でうまく繋がらないことがあるのです。外国語活動で英単語を習い、音楽科で楽器を演奏して特徴や役割を習っても、それぞれが別々の活動だと子どもは認識してしまい、学びと学びがうまく繋がりません。 そこで、「外国語活動で楽器の英単語を習う→その楽器を鳴らすプログラムを作る→そのプログラムを使って音楽科で合奏し、各楽器の特徴を体験的に学ぶ」という授業にすると、プログラミング活動が接着剤となり、外国語活動で学んだことと音楽科で学んだことが、子どもの頭の中で繋がるのです。そして、実生活の中にもプログラミングが活かされていることの実感へと繋がっていくのです。

英語と音楽の接着剤としてプログラミングを行う。左:英語活動指導員の増渕友加先生、右:ALTのアーロン・ショーブ先生

英語と音楽の接着剤としてプログラミングを行う。左:英語活動指導員の増渕友加先生、右:ALTのアーロン・ショーブ先生

――なるほど! 他にもプログラミング教育を接着剤として教科を結びつけているのですか?

黒田ええ。例えば、国語の授業で「物語を考える」という単元があります。国語の授業で考えた物語に登場する人物やキャラクターを図工の時間に作ってみようと、教科横断的な活動を行ったことがあるのですが、国語と図工がうまく結びつきませんでした。 そこで、図工で作った作品を撮影し、その画像を「スクラッチ」でプログラミングし、国語で考えた物語をアニメーションにするという活動を取り入れてみました。「国語×プログラミング×図工」と展開したのです。すると子どもは、見る人が楽しめるように物語の描写や情景、演出などを工夫するようになり、またアニメーションで動かすとキャラクターが面白くなるように造形を改良するようになりました。学びと学びがうまく繋がり、相乗効果が生まれたのです。

――中央教育審議会の答申が求めているプログラミング教育の条件「教科等の学習と関連付ける」「学習上で必要性を感じられる展開にする」「相乗効果を生む」を見事に満たしていますね。プログラミング教育を接着剤として各教科にうまく取り入れるコツは?

黒田まずは教科や単元の目標やねらいがありき。これは大前提です。そのねらいを達成するのに効果的だと思える時、ここぞという場面で私はプログラミング教育を取り入れます。 今日の授業で言えば、外国語活動の単元のねらいは「楽器名の英単語の習得」ですから、習った英単語を活用する場面を設けて定着を図るためにプログラミング教育を行う。音楽科の単元のねらいは「各楽器の特徴や役割の理解」ですから、合奏を通して体験的に学ぶためにプログラミング教育を行います。

かつて、ICT機器を学校現場に導入した時とよく似ていますね。最初は「ICTを授業にどう活用するか」悩み、「授業を新規に開発しなければいけないのか」と誤解されていました。しかし、今ある授業計画の一場面にハメ込めばいい、ICTがなくてもできるけど、あったらもっと効果が上がるという場面で使えばいいと、先生方は理解し、どんどん普及していきました。 同様に、プログラミング教育も今ある授業計画の一場面に盛り込めばいいのです。無理矢理ねじこむのではなく、プログラミング活動以外でもできるけど、プログラミング活動を取り入れれば、各教科の学びが繋がる、子どもの学習意欲が高まるといった、効果を見込んで授業を設計すると良いでしょう。

――授業の一場面にプログラミング教育を盛り込むには、PCや無線LANなどのICT環境整備は不可欠ですね。

黒田プログラミング活動をするのにいちいちPC教室に移動していたのでは授業の流れが寸断され、教科授業の一場面でプログラミング教育を行うのは難しくなります。おかげさまで大田原市はICT環境整備に力を入れていて、タブレットPCもこれだけありますし(PC室に42台、持ち出し用に18台)、普通教室に無線LANも整備されているので助かっています。

教師はファシリテーター。学びのねらいから外れないよう指導

教師はファシリテーターとして見守る

教師はファシリテーターとして見守る

――プログラミング教育において、教師はどんな役割を担えば良いのでしょうか。

黒田ファシリテーターで良いと思います。「プログラミングなんてやったことないのに、教えられるだろうか」と先生方は不安でしょう。私もプログラミングなんてやったことありませんでした。もちろん子どもに教えるために少しは勉強をしましたけど、あっという間に子どもに抜かれました(笑)。 でも、それでいいのでは? 教師は常に子どもよりモノ知りでなくてはいけないと思いがちですが、それは無理ですよ。子どもの成長速度は著しく、私が知らないし教えてもいない機能をどんどん発見し、使いこなしています。 また、プログラミングの得意な子がいれば、皆、その子に教わりに行きます。誰も私に聞きに来ない(笑)。子どもに任せることも大事だと思います。

――ファシリテーターとして見守りながら、どんな指導を行えばいいですか?

黒田ポイントは、教師が用意しすぎず、子どもに選択の幅を持たせること。子ども自身が課題を選択できて、その解決法も選択できて、皆で協同学習が行える機会を設けると良いでしょう。この時、気をつけたいのは、プログラミングして終わりではなく、それを発表し、評価する場面を作ることです。そうすれば、子どもは自分の作品と他者の作品を見比べ、自分の良い所や改善すべき点を自覚し、もっと良いものを作ろうと主体的に行動するようになります。この姿勢は次の学習活動や生活、ひいては将来の人生でも活きてきます。 単元のねらいから逸れそうな時は、正しい方向を示してあげることも大切。そうしなければ、プログラミング技術を誇示するだけの作品になったりすることもあります。

児童は上下関係なく教え合い、学び合い、深め合う

児童は上下関係なく教え合い、学び合い、深め合う

――その時はどう指導されたのですか?

黒田「学校図書の科学読み物の貸し出し、UP作戦!」というプロジェクト型学習を行った時、「スクラッチ」によるプログラミングを課題解決の方法として選択したグループでの出来事です。最初に子ども達が作ってきたのは、星がキラキラ光りながら流れる、プログラミング技術を駆使して仕上げたきれいな動画でした。子ども達は「どうだ!」と言わんばかりの表情でしたが、私は「確かにすごいけど、これを見た人が科学的読み物を読みたくなるかな?」と問いかけました。子ども達はハッと気づきましたよ。「これはプログラミングが上手なだけだ。本を読みたくなるようにしなくては」という意見が子どもから出てきて、一から作り変えました。最終的には「本はたくさんの知識を教えてくれるよ」というテーマに絞った作品に仕上がりました。「主体的・対話的で深い学び」の、「深い学び」になったかなと思います。

――「深い学び」は、「知識を関連付けて深く理解し、情報を精査して考えを形成し、問題を発見して解決策を考え、思いを創造する」と定義されていますから、合致しますね。今日の授業では、子ども達の「主体的・対話的な学び」もすごかったですね。

黒田プログラミング教育を実践してみて、一番驚いたのはこれですね。学習意欲が飛躍的に高まります。プログラミングは、獲得した知識や技能をすぐに活用して、自由に創造できる。個性を発揮しやすいのです。それが、子どもは嬉しいのでしょう。 学習意欲が高まるから、与えられた課題をただこなすのではなく、自分で課題を発見して、工夫して、最善の解決策を探し、自分ならではのプログラムを創造しようとする。「主体的な学び」ですね。そして、子ども間で上下関係を感じることなく教え合うことができ、得た知識をすぐ使えるから「対話的な学び」も活性化します。

子ども達の未来のためにもプログラミング教育を行いたい

――今日の子ども達はプログラミングにすっかり慣れていて感心しました。どのように子ども達のスキルを育んだのですか?

黒田本校では、まずアンプラグド(※コンピュータを使わないプログラミング)で慣れさせました。『ルビィのぼうけん こんにちは! プログラミング』(リンダ・リウカス 著、鳥井雪 訳、翔泳社 刊)も使いました。 大きな紙に正方形のマス目を書いて、スタート地点とゴール地点を決めます。そして誘導役の子どもとロボット役の子どもを決め、誘導役は「直進」「右折」「左折」などの命令カードを組み合わせて、ロボット役の子どもをスタートからゴールまで導きます。ちなみに命令カードは英語で表記し、命令も英語で行いました。“go straight”や、“turn right”というように。 命令カードをどう組み合わせればゴールへ導けるかを考えることで、プログラミングとはこういうものだと体験的に学びました。子どもだけでなく教師もです。教師も実感できたから、授業のアイデアも湧いてきたのです。 アンプラグドで慣れたら「viscuit」というアプリも使いました。「viscuit」はアイコンだけでプログラミングできるので、低学年でも親しみやすいでしょう。その後に「スクラッチ」という流れです。

――やはり「スクラッチ」がオススメですか?

黒田ただ、「スクラッチ」は自由度が高い分、授業でどう使えばいいか見えにくいところもあります。初心者の教師は特にそうでしょう。プログラミング教育の普及活動を行う一般社団法人みんなのコードが、教師の皆さんと連携して開発した「プログル」には、公倍数を扱う単元に特化したドリル型のプログラミング教材があります。このように学習場面を限定したプログラミング教材があると、授業を組み立てやすいと思います。

――プログラミング教育でどんな力を子ども達に育もうと考えていますか? 「論理的思考力を養う」と、次期学習指導要領には示されていますが。

黒田大体、我々大人が考える「論理的思考」とは、ゴールを明確に決め、そのゴールに至る最短ルート、すなわち最も効率の良い道筋を考え、きっちり計画を立ててから作業にかかること。そんな角張ったイメージをこの言葉に持ちがちです。 ところが、これは本校の児童だけかもしれませんが……子どもは違うのです。論理的思考なんていう言葉や大人の思惑とは関係なくプログラミングに取り組みます。まず、手当たり次第できることをあれこれやってみる。ゴールはおぼろげなまま、とりあえずたくさん試行錯誤するのです。するとその過程で「こんなこともできるのか!」と発見する。その発見を基に、ゴールをアップデートし、徐々にゴールの姿を明確にしていきます。しかも、いつまでも手当たり次第というわけではなく、体験を積み重ねることで、効率的な道筋もつかめるようになっていくのです。 これを論理的思考力と呼べるのかどうか、私もわかりませんが、教師が「ゴールをまず立てなさい。そして計画を立てなさい。それから作業しなさい」と指導して道筋を示すより、いや示さなくても、子どもは自ら経験の中から論理的思考力を獲得します。 本来、子どもは遊びの中から論理的思考を学ぶことができるものだと私は考えます。例えば、放課後などの大勢で遊べる場所や時間において獲得するのではないでしょうか。そこには当然、大人はいません。しかし、昨今の社会情勢では、彼らがそういった場所や時間を確保することはなかなか難しい。プログラミング活動では、その子ども達だけの純粋な遊びの中で体感したものと同じものを体感できるのです。これは間違いありません。

――最後に、これからプログラミング教育に取り組む先生方に、メッセージをお願いします。

黒田まずは実践してみるのが一番です。実践してこそ、授業のアイデアも湧いてきます。難しく考えこまずに、ICTを使い始めた時と同じ感覚で、今までの授業に盛り込んでみると良いと思います。 すでに実践されている学校の事例を見たり、研究者の方に話を聞いたりするのもオススメです。私も企業主催のセミナーなどに参加し、一般社団法人みんなのコードの皆さんとも知り合い、先輩方の事例を聞いて、「私でもできるかも」と勇気づけられました。 次期学習指導要領では、「2030年に生きる子ども達のために」とうたっています。近い将来、AIの台頭で今ある職業の半分が消滅すると言われていますが……私は、十何年後かに教え子の結婚式に招待された時のことを想像するのです。その時、「先生がプログラミングを教えてくれなかったせいで、失業したじゃないか!」と責められるシーンと、「先生がプログラミングを教えてくれたおかげで、仕事にも就けました、家庭も持てました」と感謝されるシーン、両方を想像しています(笑)。 どちらがいいかと言えば、もちろん後者。教え子の結婚式で後悔しないためにも、今のうちからプログラミング教育をしてあげたいと思います。

記者の目

「文系出身だし、プログラミングなんてしたこともなかった」という黒田先生。しかし、実際にやってみると、子ども達の姿に感動すらおぼえたという。「何がすごいって、子ども達は絶対に『こんなプログラム作れない。無理だよ』と言わないのです。『難しそうだけど、やってみたい!』と、目を輝かせます」とのこと。プログラミング教育をどう行えばいいか迷っている先生方は、まずは実践してみよう。その際には、黒田先生が語ってくれた数々のコツが、とても参考になるはずだ。

取材・文:長井 寛/写真:赤石 仁

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