2017.07.26
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プログラミング教育を活用した授業(vol.1) 英語と音楽の2教科をプログラミング活動で繋ぐ ―大田原市立大田原小学校 黒田充 教諭― 前編

次期学習指導要領に小学校段階でのプログラミング教育の必修化が明記され、大きな話題を呼んでいる。ほとんどの小学校教員がプログラミングを行ったことも教えたこともないだろう。どんな授業を行えばよいか、頭を悩ませている方も多いようだ。そこで今回は、昨年度からプログラミング教育に取り組んでいる、栃木県大田原市立大田原小学校の黒田充教諭の授業をリポートする。授業づくりの参考にしてほしい。

授業を拝見!

外国語活動からプログラミング活動へ自然に展開。 児童は主体的に、対話的に、独自性を追求する

学年・教科:3学年、英語×プログラミング×音楽
単元:なんだろう「音を出してみよう」(全2時間中第1時間目)
ねらい:[英語]様々な楽器の英単語を学ぶ。[音楽]様々な楽器の特徴や役割を体験的に学ぶ。[プログラミング]英語で習った楽器を鳴らすプログラムを組む。
指導者:黒田充 教諭
使用教材・教具:タブレットPC+USB接続キーボード、「スクラッチ」、プロジェクタ、インターネット(無線LAN)

中央教育審議会の答申には、プログラミング教育について次のような主旨が書かれている。

・プログラミング教育を、子ども達の生活や教科等の学習と関連付けること
・無理に各教科等に組み込むのではなく、学習上で必要性を感じられる展開にし、各教科等の強みとプログラミング教育の良さが相乗効果を生むようにすること
・「主体的・対話的で深い学び」になるプログラミング教育を行うこと
・プログラミング的思考を育むこと
中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」の内容を筆者まとめ)

大田原市立大田原小学校  黒田 充 教諭

大田原市立大田原小学校 黒田 充 教諭

多くの条件が課され、かなり高度な授業づくりが求められているのがわかるだろう。

そんな中、取材前に黒田充教諭から送られてきた単元指導計画を見て驚いた。教科に「英語×プログラミング×音楽」と書いてあったのだ。外国語活動にプログラミング教育と音楽科の活動を盛り込むらしい。1つの教科にプログラミング教育を盛り込むだけでも大変だろうに、2つも! 一体どんな授業になるのだろうか。

まずは外国語活動からスタート。楽器名の英単語を練習

3年2組の授業は、ALTのアーロン・ショーブ先生、英語活動指導員の増渕友加先生、そして担任の黒田教諭の3人体制で始まった。まずは英語の挨拶練習、“What day is it today?”等の定型文の応答練習、児童同士自由にペアを組んでの応答練習、ビデオを見ながら英会話体操などを元気よく行っていった。

ここまではよく見かける外国語活動だなという印象。ただ、児童の英語力は高い。授業はほぼ英語のみで進行するのだが、児童達は戸惑うことなく英語の指示を理解していたし、発音も上手だ。大田原市は平成16年に文部科学省から「英語教育特区」として認定されて以来、市内の全小学校全学年で英語教育を実施しており、その成果が出ているようだ。

風向きが少し変わったのは、授業開始から約10分後。黒田教諭は
「今日のめあてだよ」
と、黒板に「音を出してみよう」と書くと、プロジェクタで様々な楽器のイラストを映し出した。ギターやピアノ、トランペットなどずらりと並んだ楽器のイラストを見ながら、英単語の発音練習を行っていく。「英語×プログラミング×音楽」のうち、「音楽」の要素が顔をのぞかせた。

「音を出してみよう」で、まずは互いの手と手でクラッピング。左:ALTのアーロン・ショーブ先生、右:英語活動指導員の増渕友加先生

「音を出してみよう」で、まずは互いの手と手でクラッピング。左:ALTのアーロン・ショーブ先生、右:英語活動指導員の増渕友加先生

そして授業開始から18分後、黒田教諭はこう宣言した。
「では、今練習した英単語の楽器を、音が鳴るように『スクラッチ』でプログラムを作ってもらいます」
すると児童達から歓声が湧き上がった。
「やったー! 『スクラッチ』だー!」
ちなみに「スクラッチ」とは、アイコンをドラッグ・アンド・ドロップしたり、プルダウンメニューを選択したりするだけで、簡単にプログラムが組める無料のソフト。プログラミング教育に取り組む多くの学校で用いられており、大田原小学校でも頻繁に使っている。

まずはアーロン先生がお手本のプログラムを披露。キーボードのキーを叩くとドラムの音が鳴り響き、
「すごい! こんなことができるんだ!」
「早くやってみたい!」
と、児童達は胸踊らせた。

さらにアーロン先生が「スクラッチ」の画面をプロジェクタで映しながら、作り方を英語で解説。英語の説明だけではわからない児童もいるので、黒田教諭が日本語に翻訳しつつ、使用するプルダウンメニューや並べる順番を黒板でも図解して、わかりやすく教えていた。

楽器を鳴らすプログラム作りが主体的で対話的な学びに!

どのグループも真剣且つ、集中してプログラムを組む

どのグループも真剣且つ、集中してプログラムを組む

とは言え、「スクラッチ」でプログラムを組んだことがない筆者にとっては、ついていくのが精一杯。しかし児童達はわずか5分程度の説明を受けただけですんなり理解したようだ。2~3人ずつのグループに分かれ、各々タブレットPCとUSB接続キーボードを机に持ってくると、待ちかねたとばかりに勢いよくプログラム作りに取りかかった。

「どの楽器にする?」
「大太鼓がいいな」
と、グループで相談が始まったと思いきや、教室の片隅から叫び声が上がった。
「できた!」
振り返ると、A君が誇らしげに挙手している。(えっ! もう?)時計を見ると、作業開始からまだ1分しか経っていない。慌ててA君の元へ走り寄ってみると、確かにスペースキーを押すとドラムの音が鳴り響くプログラムが完成していた。

(A君は特にプログラミングが得意な子なのだろう……でも他の子どもはどうだろう?)すると、A君と同じ班のBさんが
「私にもやらせてよ」
と、タブレットPCを受け取ると、プログラムを組み始めた。その様子をA君はニコニコと見守っている。数分後、
「あれ……音が鳴らない」
とBさんが首をかしげると、A君は身を乗り出して画面をのぞきこんだ。
A君「ああ、ここの命令が間違っているんだよ」
Bさん「え、どこ?」
A君「ここだよ。ここをこう直せば……どう?」
Bさん「(鳴り響くドラム音)鳴った! ホントだ!」

「ここは、こうやれば?」「ああ、そうか!」と、児童同士、屈託なく教え合い、学び合う

「ここは、こうやれば?」「ああ、そうか!」と、児童同士、屈託なく教え合い、学び合う

教室全体を見渡してみると、同じように子ども同士で教え合う姿があちこちで見られた。黒田教諭はじめとする3人の先生が机間指導していたが、「先生、わかりません!」と助けを求める声は一度も上がらなかった。子ども同士で教え合い、うまくいかなくても子どもだけで解決していたのだ。

これぞまさに対話的な学び! と感心していると、先程のBさんに新たな動きが。
「A君と同じプログラムじゃつまらないから、もっとたくさんの楽器を同時に鳴らせるようにしよう!」
とつぶやくと、ピアノやギターを鳴らすプログラムを追加し始めたのだ。他のグループでも同様に、一度完成させただけでは飽き足らず、プログラムを改良・改善する姿が見られた。どうやら、お手本と同じプログラムを組むだけでは満足できず、皆とは違う自分だけのオリジナリティを追求しているようだった。中には、二人で同時演奏できるプログラムを組むグループもあった。そんな指示は、黒田教諭は一言も発していない。皆、自発的に取り組んでいるのだ。まさに主体的な学びと言えるだろう。

「とても主体的で対話的な学びになっていますね!」
と、授業後、黒田教諭に話しかけると、教諭はうなずきながらこう教えてくれた。
「例えば、算数で教え合う活動を行うと、教える子と教わる子の間に、上下関係みたいな空気ができることがあります。教わるのは恥ずかしいし、悔しくもあるから、教え合いが活性化しにくいことがある。ところが、不思議なことにプログラミング教育にはそれがないのです。教える側も教わる側も上下関係なんて全くなく、屈託なく教え合っています。

また、算数での教え合いの場合、教わる子が教えてくれた子と同レベルまで到達したら、大抵そこで満足して終わり。少なくとも、正解を理解できたらそこで終了ですが、プログラミング教育だと、教えてくれた子よりもっと先に行こうとする傾向があります。人とは違う、自分の独自性をアピールしようと頑張るようです」。

すべての班がオリジナリティあふれるプログラムを完成!

授業の終了時間が迫り、黒田教諭は活動終了を合図した。プログラミング活動は、わずか10分程度。短時間にもかかわらず、全グループが自分達なりのプログラムを完成させていた。
「では、最後に作ったプログラムを発表してもらいましょう」
と、各グループのタブレット画面をプロジェクタで映し出し発表することに。どの班の児童も、「どうだ!」と言わんばかりに誇らしげな表情だ。その際、プログラムで使用した楽器名をアーロン先生が尋ね、児童がその英単語を答える場面もあり、(そうだった、英語の学習でもあるんだった)と、改めて認識させられた。

プログラムを発表。その際、楽器の英単語を皆で発音

プログラムを発表。その際、楽器の英単語を皆で発音

では、「英語×プログラミング×音楽」のうち、「音楽」は? 実は、次の時間で音楽科の本格的な学習活動を行う計画になっている。
「次の時間では、音楽科の先生にも参加していただき、今日組んだプログラムを使って合奏を行います。

今日は単に楽器の音を鳴らしただけでしたが、合奏を行うことで、リズムやテンポを考えながら鳴らすと共に、各楽器の特徴や役割を理解させます。例えば、この楽器は旋律向きで、この楽器は伴奏向きといった、音楽科の学びへと発展させるのです。もちろんその過程で、楽器名の英単語も繰り返し練習します。

プログラミング教育は『プログラムを作って体験して終わり』ではなく、必ず実生活で活用してみることが必要だと考えます。それにより、プログラミングが生活の一部にあること、身近な物に活かせることを子ども達は実感できるでしょう」
と黒田教諭。

「英語×プログラミング×音楽」の意味とねらいがよくわかった。後編では、プログラミング教育を盛り込んだ授業の作り方や、児童に育みたい力、その時の教師の役割について、黒田教諭に余す所なく語っていただく。

記者の目

今日の取材を見て最も鮮烈な印象を残したのは、子ども達のイキイキとした姿だった。先生の助けを借りず、子ども同士で教え合い、問題を発見して解決し、より良いプログラムを組もうとする姿は、答申が求めるプログラミング教育の条件「主体的・対話的で深い学びにする」に合致していた。その教え合いも、最初から最後まで手取り足取り教えるのではなく、まず相手を見守り、つまずいたら必要最小限のアドバイスを送るなど、まるで先生のような高度な指導技術を発揮していた。もちろん英語力もプログラミング能力も、目を見張るものがあった。そして、プログラミング教育が外国語活動の一場面として違和感なく溶け込んでいたのにも感心した。楽器名の英単語を習う流れで、楽器を鳴らすプログラム作りへと展開し、答申が求める「無理に組み込むのではなく、学習上の必要性を感じさせる展開にする」という条件をクリアしていた。プログラミング教育をどうするか悩んでいる先生方に、ぜひ黒田教諭の授業を見ていただきたいと思った。

取材・文:長井 寛/写真:赤石 仁

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