2017.02.15
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

意外と知らない"プログラミング教育"(vol.2)

前回の記事では、プログラミング教育が注目されるようになった経緯と、そこで育もうとしている能力の方向性を整理しました。今回は具体的なプログラミング教育の実践例を紹介します。

プログラミング教育の実践にあたって

前回の記事では、「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」が公表した「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」の内容をもとに、次のようにポイントを整理しました。

  • プログラミング教育は第四次産業革命という社会的・経済的な変化に対応するために要請されるものである。
  • プログラミング教育はコーディングを学ぶことが必要条件ではなく、情報技術を手段として活用するための論理的思考力(プログラミング的思考)を育むことが目的である。
  • 資質・能力の三つの柱に基づいて、発達の段階に即したプログラミング教育を行うことが重要である。

これらのポイントを踏まえると、「プログラミング的思考」を「発達の段階に即して」育むようにプログラミング教育を展開する必要があります。

また、プログラミング教育が必修化される方向であると言っても、独立した教科となることが想定されているわけではありません。上記の取りまとめでは「教育課程全体を見渡した中で、プログラミング教育を行う単元を各学校が適切に位置付け、実施していくことが効果的」であり「各学校における子どもの姿や学校教育目標、環境整備や指導体制の実情等に応じて、教育課程全体を見渡し、プログラミング教育を行う単元を位置付けていく学年や教科等を決め、地域等との連携体制を整えながら指導内容を計画・実施していくことが求められる」とされ、「カリキュラム・マネジメント」の一環として位置づけられています。

このように聞くと、特にプログラミング経験のない先生の中には「果たして自分に出来るのだろうか」と不安を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、プログラミング教育の実施を推進するため、「学習指導要領の解説や指導事例集を広く普及させる」ことが上記取りまとめで言及されており、文部科学省からは「プログラミング教育実践ガイド」が現在公表されています。今回はこの中から三つの実践事例を引用して紹介します。抜粋という形になりますので、詳細をお知りになりたい方は引用元の「プログラミング教育実践ガイド」をご参照ください。

【事例1】小学校1年「描いた絵を動かそう」

最初に、小学校低学年の事例を引用します。移動の前後の絵を描き、進行方向や移動速度を調節して描いた絵を画面上で動かすという活動です。プログラミングといっても、「描いた絵を所定の位置に配置する」という簡単な内容となっています。

【実施教科】生活科、特別活動
【使用したプログラミング言語】VISCUIT
【実行環境】iPad2(児童1人に1台)、校内のWi-Fiに同時接続可能、大型モニター

※「しゃくとり虫のつくり方(動画)」を参考にされると、わかりやすいと思います。

【指導案】

■おすすめポイントなど

  • VISCUIT は操作における手順が少なく、iPad を操作するように直感的に動かすことができるためプログラミングに触れる1 年生には親しみやすい。またタブレット端末で操作が可能なため子ども達はお互い見せ合うなど交流がしやすい。
  • 実際に授業を行ってみて、指導者側に十分な知識や経験が無くても子ども達は自ら操作し、交流する中で相互に協力し、集中して取り組む、アイデアの共有などプログラミングを通しての様々な活動ができた。
  • 子ども達のプログラミングした作品を可能な限り発表させることで、アイデアの共有とさらなる操作の広がり、自分も同じものを作りたいという挑戦する態度を持つようになった。
  • 操作の答えは一つだけではないことを意識させることで、操作が得意な子どもも様々な工夫を考えるようになった。

※以上、図表及び解説文等の出典:文部科学省「プログラミング教育実践ガイド」より

【事例2】小学校4~6年「センサやアームを使って災害現場から人命を救助して病院に運ぶプログラムを考えよう」

次に、小学校高学年の事例を引用します。モータの回転数やパワー等のパラメーターの組み合わせを設定してプログラムを作り、自分で考えた通りの動きをさせる活動です。「黒色を発見したら止まる」「前方の物との距離が10cmになると止まる」のような「条件分岐」の考え方を盛り込むことができ、また、作成したプログラムをロボットに転送して実際に動きを制御することができます。

【実施教科】総合的な学習の時間
【使用したプログラミング言語】レゴ®マインドストーム® EV3 LabVIEW (ラボビュー)
【実行環境】グループ1台のノートPC、教員用のPC、電子黒板またはプロジェクタ

【指導案】

■おすすめポイントなど

  • プログラムしたことを、すぐに実際に確かめることができるので、問題解決のしやすい題材である。また、ブロックを組み立てることによって空間把握の力もつけることができる。
  • コミュニケーションを取ることが苦手な児童も、ブロックの組立や、プログラムの角度や回転数について発言をし、活躍のできる題材である。
  • 子ども達はわからなくても、時間差はあるが自主的に解決していくので、すぐに教員が教えるのではなく、なるべく教えることを我慢して考えさせる方が良い。
  • 答えは無限大にあるので、自分達のグループ独自のプログラムを考えさせるようにすると、発表の際に新たな気づきがたくさん生まれる。

※以上、図表及び解説文等の出典:文部科学省「プログラミング教育実践ガイド」より

【事例3】中学校2年「プログラミンでアニメーションをつくろう」

中学校の事例を引用します。プログラミンはWebブラウザで実行可能なブロック型のビジュアルプログラミング言語で、これによりアニメーションを作成するという活動です。順次処理・反復処理・並列処理など、いわゆるコーディングに近いプログラムを作成しますが、動かしたい絵やイラストに「プログラミン」というキャラクターを割当てることで動き方を制御します。

【実施教科】技術・家庭科(技術分野)
【使用したプログラミング言語】プログラミン
【実行環境】1人1台のPC、インターネットに接続可能なネットワーク、Webブラウザ

【指導案】

■おすすめポイントなど

  • 「プログラム」の基礎を学習するためには、生徒にとって手軽で、取り組みやすい題材であると考えられる。
  • プログラミングの体験を通して、プログラムを作成できる力(知識や操作技能)や、目的の動きを考える(設計する)力を育むことができる。
  • サンプルプログラムをうまく設定することで、その後の生徒の発想が広がりやすくなり、制作の意欲が高まると思われる。「順次処理→並列処理(動きの組み合わせ)→反復処理」の順でサンプルプログラムを作り、この順に学習したことで、生徒の理解がスムーズだった。
  • 自分の思い描く(目的としている)動きを実現するために、生徒があきらめずに何度も試行錯誤することができるので、完成した時の達成感は大きいようである。お互いに困ったことを助け合いながら作業を進められる環境づくりは大切であると思われる。

※以上、図表及び解説文等の出典:文部科学省「プログラミング教育実践ガイド」より

まとめ

「プログラミング的思考」は「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」とされますが、三つの事例はいずれも「プログラミング言語そのもの」ではなく「プログラミング的思考」を育むことを目指していることがわかります。

また、小学校低学年の例と中学校の例では、「絵を動かす活動」である点で共通していましたが、前者は「絵を指定の場所に配置する」という単純で感覚的な内容だったのに対し、後者は「順次処理・反復処理・並列処理」といった複雑な概念を交えており、発達の段階に即して発展的になっていました。

プログラミングには唯一絶対の正解があるというわけではなく、グループや学級で意見交流することで様々な考え方に触れることができます。直感的に操作できるインタフェースであれば、教員が手取り足取り教えなくても、児童生徒が主体的に試行錯誤しながら仲間と協同して課題を解決していくことができます。この意味で主体的対話的な深い学び(アクティブ・ラーニング)を実現する手段足り得るとも考えられます。

前述の通り、プログラミング教育をどのように実践していくかは各学校のカリキュラム・マネジメントの一環として定まっていきますので、上記の「プログラミング教育実践ガイド」の内容が一律に機械的に適用されるべきものとは限りません。各学校の状況に応じて独自の工夫をしながら授業を行うことが求められる場合もあるでしょう。また、数学や理科といった授業の中にプログラミング教育を盛り込んだ事例は現時点では多くありません。だからこそ、情報化がますます進展する今後の社会を生きていく子ども達がどのような資質・能力を身につけるべきかというプログラミング教育の出発点を共有しながら、2020年の必修化に向けて取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 原田悠輔

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop