2021.09.30
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「防災」について考える 【食と防災】[小4・学活]

2018年6月18日午前7時58分、大阪府北部地震が発生しました。高槻市でも最大震度6弱を記録し、市内各所でも様々な被害がありました。小中学校も被害を受け、短いところでは給食が1週間中止となり、現在も使用不可能となっている給食室もあります。こうした経験から、6月は高槻市の学校安全強化月間となっています。

高槻市立冠小学校では、6月に4年生の社会科を中心にカリキュラムマネジメントによって地震についての単元を学びました。6月18日の全校集会で学校長から地震についての話を聞き、防災の意識が高まっている翌週に学活で授業を行うことで、より深い学びにつなげていこうと考えました。地震はいつおこるかわかりません。自分たち自身でできる備えとして、学びの場.comで紹介されていた「食から考える防災~防災バッグの中にどんな食べ物を入れたらいいかな~」を参考に、社会科との教科横断的な指導、食育の視点、安全教育、ICTを活用した児童の意見交流などを取り入れて、4年生の学級担任と栄養教諭でTT(ティーム・ティーチング)の授業を行いました。

1 大阪府北部地震のことを振り返る

地震当時の本が散乱した図書館

学級担任がパワーポイントを使い、地震当時の本が散乱している図書館の写真を児童に見せることから始まりました。社会科の授業などでも地震について勉強していたため、「何の写真かわかりますか?」という問いに、すぐに「地震の時じゃない?」という答えが返ってきました。続いて、道路が陥没して水が噴き出している写真や、ビニールシートに覆われた家をとらえた航空写真を見せると、自分たちの身近に起こった地震のことについて思い出すきっかけとなりました。
そして、栄養教諭から地震が起こった時に給食が中止になったことなどを説明し、地震によって様々な被害があったことを説明すると、普段、当たり前に食べている給食も作れなくなったことから、児童は「災害は身近に起こる」と気付くことができました。

2 防災についての対策を考える

防災バッグの中身。食べ物は何がいいかな?

今度は、学級担任から家庭などで防災について、どんな対策をしているのかをたずねます。前週の社会科の授業でも学んでいた内容であったため、スムーズにさまざまな対策が出てきました。
この授業で取り扱う「防災バッグ」というキーワードも出てきたところで、本校教頭から借りた、実物の防災バッグの登場です。中身を何個か実際に取り出して説明し、災害時に持ち出す必要最低限のものを入れた袋であることを確認します。
続いて、防災バッグの中身をうつした写真を提示します。実際に入れている食べ物だけを見えない形にしておき、食べ物に焦点をあてます。栄養教諭より、災害時の食べ物の重要性などを伝え、防災バッグの中身を考える次の活動につなげます。

3 防災バッグの中身を考える

食品をイラストで分かりやすく(著作権の都合上、マスキングしています)

めあて「防災バッグに入れる食べ物を考える」を全体で確認した後、ワークシートを配布します。
ワークシートには、16個の食品の名前が書かれていて、その中から自分なら防災バッグに何を入れるかを1つ選び、理由も考えて書きます。
児童がワークシートに記入している間に、学級担任は机間指導を行い、栄養教諭は黒板に食品のイラストカードを、ワークシートと同じ配列で掲示します。
机間指導では「かんパンって何?」とたずねるなど、ワークシートの文字だけでは想像しにくい児童に、イラストなどから説明を支援します。

4 班で交流し、理由(選ぶポイント)を話し合う

続いて、4人1組の班交流を行います。ここでICTを活用しました。各班に1台児童用パソコンを準備します。昨年度の3月に全員に配布した児童用パソコンを用い、4年生では体育の授業で動画を撮影し、オクリンク(授業支援ソフト)の画面で自分の名前のカード、動画を撮影したカードをつなげて、先生のパソコンに提出するといった活用をしていました。そこで、今回もオクリンクでカードをつなげて、先生に提出する機能を使い、交流することにしました。

オクリンクを活用

あらかじめ、先生のパソコンにワークシートに書いてある食品のイラストを、オクリンクでカードにしました。そのカードをつなげて、A、B、Cの3グループに分けます。もうひとつ、提出見本として、「班」「食品のイラスト」「選んだ理由」をつないだカードを作成します。授業直前に、班の代表1名のパソコンにオクリンクから提出見本とA、B、Cのいずれかのグループのイラストを配布します。班で選んだ理由を話し合いながら、1つの食品を選び、カードをつなげて先生のパソコンに提出するといったグループ活動を行いました。実際に食品のイラストを動かし、みんなで話し合った選んだ理由を入力する作業を楽しみながらも、真剣に話し合っているのが印象的でした。指導者側の準備もパソコンに画像を取り込むだけでよいため、とても簡単でした。

5 選んだポイントを全体で共有する

ICT機器のトラブルには黒板で対応

班の話し合いが終わり、自分たちで選んだ食べ物を発表します。教室前方のモニターに提出されたデータを学級担任が映し出し、代表者が「〇班です」「〇〇を選びました」「理由は○○だからです」という手順で発表します。食品の選択肢の中には、防災バッグに入れるにはふさわしくない食べ物も含まれていましたが、班でしっかりと理由もふくめて話し合うことができていたため、どの班も防災バッグに入れたらよいような食べ物を選択していました。
全部の班が発表を終えた後に、各班が選んだ食品から、さらに選ぶポイントを探っていき、「賞味期限が長い」「水を使わない」「くさらない」「すぐに食べられる」「ぐちゃぐちゃにならないようにする」「とけない」などのポイントを全体で共有しました。
ふりかえりでは、「いつ、地震がおこるかわからないので、あらかじめ準備をすることが大切だと思った」「家に非常食があるかを確認してみる」などの意見があり、防災を身近なこととしてとらえ、備えていこうという気持ちが芽生えていました。最後に家庭にも学習したことがつながるように、非常持ち出しチェックリストを配布し、家族と一緒に確認してくるようにと児童に伝えて授業を終わりました。

今回は班活動でICTを活用しましたが、2クラスのうち1クラスでは授業中にICT機器の調子が不安定となり、何班かは先生のパソコンにデータを提出できない状態となりました。提出できない班の意見は前方モニターでは共有できませんでしたが、黒板の食品カードなどを活用し、全体共有を行うことができました。このことからICTを活用する際には、トラブルが起こることも想定した授業を作っていくことも大切だと実感しました。

※授業につかったイラストは他社著作物のため掲載を省いています。

授業の展開例

〇家庭にある防災バッグの中身や防災グッズ、防災対策等を撮影して、学校で交流することで安全教育につなげることができます。

松江仁志((まつえ さとし))

高槻市立冠小学校 栄養教諭
子どもたちが食をできるだけ身近に感じられるように、給食を教材として使うことを意識して献立作成や教材作り等に取り組んでいます。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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