2023.06.16
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『つなぐ・つながる』読書と、どうつながるのか?(後編)

読書活動は、現在、どのような現状にあるのでしょうか。また、読書活動について、大学生はどのように考えているのでしょうか。この二つを取り上げ、つれづれに綴ってみました。

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授  前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆

「全校一斉の読書」時間の現状は?

「10分から 15分程度の短い時間を活用して児童生徒が自らの興味や関心に応じて選んだ図書について読書活動を実施する全校一斉の読書活動は、全国26,000校以上、小学校の90.5%、中学校の85.9%、高等学校の39.0%で実施されている」との報告があります。今でこそ見慣れた光景になりましたが、一昔前、学校では、本を開く時間、読書機会を確保するために、子どもたちの学校生活そのものを見直し、日課を工夫してきましたね。

ただ、近頃、その時間も危うくなってきているようです。「朝読書」を毎日実施してきた学校では、週3日や週2日になっているところも見受けられるからです。皆さん、いかがですか。

実は、「全校一斉の読書活動を行う学校の割合は、減少傾向にある」との実態があるのです。文部科学省「学校図書館の現状に関する調査」によると、冒頭のデータは、令和元年度のものであり、平成 27 年度に遡ると、「小学校97.1%、中学校88.5%、高等学校42.7%」なのです。つまり、この間、小学校では、約7%、中学・高校では約3%の減少が見られるというわけです。

「不読率」の現状は?

もう一つ、読書の現状を示すデータを紹介します。1か月に本を1冊も読まない子どもの割合のことを、「不読率」というのですが、令和4年度の「不読率」は、小学生 6.4%、中学生18.6%、高校生 51.1%です(全国学校図書館協議会調査)。いずれの学校段階でも、数値目標までの改善は図られていないという現状があります。
特に、高校生の不読率は、高止まりと言ってよいでしょうし、一斉読書を多くの学校が実施している小中学校であっても、この不読率の推移は、改善されるべき状態になっていると思います。

読書活動の現状を、大学生は、どう考えるのか?

このような現状にある読書活動なのですが、必要される資質・能力を育む上で、読解力や想像力、表現力を培うことができる活動として、子どもにとっても、大人であっても、不可欠なものであると考えます。
では、こうした現状を、小学校から高校まで読書活動を経験してきた大学生は、どのように考えるのでしょうか。

私が担当していた教育社会学の授業の中で、読書の現状について紹介しながら、「読書についてどのように考えるか」を尋ねてみました。

○ 読書のよさや面白さが分かれば楽しいと思えるのではないか。
○ 本を1冊読み切ることで得られる達成感や知識、ものの考え方は、実際にそれを感じた人でないと分からないと思うので、やはり中学・高校で強制的に朝読書の時間を作ってそのような経験をしてもらうべきだ。
○ 読書は、社会に出て行く中で必要な力を身に付けていける大切なことだと思った。
○ 本屋さんに行くとき、本のにおいを嗅ぐと、どのような新しい世界がまたあるのかを考えることができる。

といった意見が見られる一方で、

○ 私にとって、読書とは、ちょっとめんどくさいものだ。
○ 読書は、嫌いではないけど、暇があって読書をしようにはならない。
○ 読書をすることで得られることが多いことは分かっているけれど、スマホで情報を得ることの方が楽だと感じてしまう部分もある。

といった読書に対する現実も正直に語られています。スマホで見る動画や様々な情報は、魅力的であり、刺激的であり、しかも、容易に手に入れることができます。
しかし、読書は、自ら本を開き、目で文字を追い、自分で文章を読み解いていかねばなりません。その意味で、「めんどうだ」という学生の声も理解できなくはありません。

これからの読書活動の推進で考えたいこと

さらに、学生からは、こんな声が聞かれました。

〇 私は、幼い頃から週に一度母と兄と図書館に通う習慣があり、それは小学校高学年まで続いていた。私は、そのおかげで本が好きだし、文を読み取るのも不得意ではない。言葉の使い回しなども身に付き、会話するときに役立っていると感じる。
〇 私は、小さい頃から読書が好きで、今でも2か月に1冊ぐらいは本を読んでいる。これは、母の影響が大きいと思っている。母が読書が好きだったため、昔から本は惜しみなく買ってもらっていて、常に身近に本があり、読書のよさを教えてもらっていたので、私も読書が好きなんだと思う。

これまでの自らの読書活動を振り返りながら、幼少期の経験が今の読書に対する考え方・関わり方を創っているのだということですね。
このことは、文科省が令和5年3月に打ち出した「第五次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」の基本的方針と重なるところです。
私も、「就学前からの読み聞かせの促進をはじめ、低年齢から本とかかわる機会を創ること・習慣を創ること、身近に本のある環境を整えること」が重要ではないかと考えます。
最後に、もう一人学生の声を紹介します。

〇 私の読書経験では、スマホで読むのと本で読むのとでは全く違うと感じた。スマホは、読んでいる最中に他の通知がきたり、集中力に欠けるが、読書は余分な通知もないし、集中することができるので、読書は大切だと思った。

デジタルの波は、社会全般に押し寄せてきていますが、読書の世界も例外ではありません。
でも、読書は、本のにおいをかぎ、紙の感触を確かめながらページをめくり、読み進めていく。そんな本とのつながりを大事にしたいと考えます。

結びに 

詩人・作家の長田弘氏(故人)は、その著述の中で、本について、こんなふうに記しています。

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本は「はじまり」「もと」という意味をもっています。「本という考え方」というのは、つまり「本という本」ということです。本は本(もと)であるというのは、言葉が本(もと)であるということです。その親しい感覚を通して、本はなくてはならないものとして感じられてきたということを、忘れないようにしたいのです。    (中略)   人間だけにできて、人間にしかできない考え方が、「本という考え方」であり、「本という考え方」によって、歴史のなかに成長してきたのが人間。そう思うのです。
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本は、人間の成長に欠くことができないものなのですね。

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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