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教育インタビュー

2020.01.15
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道草あほくさ <2020新年スペシャル企画>児童文学作家たちの魅力と実像に迫る(前編)

文学作品は、物語を通して子どもたちに成長の機会を与えてくれます。作家さんたちはどのように子どもたちと向き合い、物語を紡いでいるのでしょうか。どのような原体験を持ち、どのような衝動によりペンを走らせているのでしょうか。子どもたちへのメッセージや現代における読書の価値について、対談形式で児童文学の魅力に迫りました。前編では、4人の出会いや作品に込めた想いをお聞きしました。

  • 佐藤 佳代(さとう かよ)著書に『初恋日和』(岩崎書店)など。

  • 田部 智子(たべ ともこ) 著書に『幽霊探偵ハル』(角川つばさ文庫)1~4等多数。

  • にしがき ようこ  著書に『ぼくたちのP(パラダイス)』(小学館)など。

  • 濱野 京子(はまの きょうこ)著書に『ぼくが図書館で見つけたもの』(あかね書房)等多数。

お互いの作品を読みあうことで深まるつながり

学びの場.com 児童文学作家4人で集まり、「TEAMあほくさ」というユニットで活動されている皆さん。出会いのきっかけから少しお話を伺ってもよろしいですか。

濱野 日本児童文学者協会という組織があるんですけど、デビュー前にそこの創作教室で出会ったんです。

にしがき 創作教室の中で、作品を発表し、お互いの作品を読むんです。書いたものを読み合ううちに、その人のことも分かり、書くものを通じて信頼感が深まっていきました。そのうち創作の悩みなども話すようになり、仲が深くなりました。書いたものでつながることにより、信頼関係は通り一遍の友だちよりも深くなった気がします。

濱野 仲が良くなって次々に作家としてデビューしていったという形になりますが、初めから創作に対する本気度と書く力があり、デビューできる可能性のある人たちだったと思っています。

佐藤 濱野さんだけデビューの話があって、もともといろんなコンクールで入選されていたりしたので、「すごいな」と思っていました。そして、だんだんと嫉妬に変わるという(笑)。

田部 4人で集まるようになり、4姉妹が主人公の『若草物語』みたいねって話していたら、先輩作家に「あほくさだろう」って言われて。それも面白いと思って(笑)。書くという作業は孤独なので、この4人がいたから頑張れたんです。

佐藤 「読みたいな」とか「書いて、書いて」と言ってくれる仲間がいると頑張れるんですよね。

共通するのは豊富な読書体験。本が大好きだった子ども時代

学びの場.com この本があったからという特別な作品や影響を受けたことはありますか

濱野 自分の創作に直接つながってはいませんが、小学校のときに好きだった物語はありますね。アンデルセンの『雪の女王』、『秘密の花園』、『玉虫厨子の物語』ですね。本を読むのは好きだったのでいくらでも話せます。ただ、自分の人生にとって大事だなと思うのは児童文学とは全然関係なかったりします。影響を受けた本として一冊揚げるならエーリッヒ・フロムの『自由からの逃走です』。

学びの場.com 皆さんやはり読書自体はお好きなんでしょうか。

濱野 好きでしょうね。(一同、うなづく)

田部 私は小さい時から本が好きで、どちらかと言うと友達関係が苦手でした。本に逃げてしまうほうだったので、本はずっと読んでいましたね。小学校の高学年になったらシャーロック・ホームズシリーズとかミステリー系ばかり読んでいました。

学びの場.com やはり書いていて楽しいので、著作の『幽霊探偵ハル』のようなミステリー作品につながるんでしょうか。

田部 読むのは好きでも自分で書くということは考えていませんでした。編集さんに見せたお話の中にミステリーの要素があるものがあり、「探偵のお話を書きませんか」と依頼をいただきました。それでこのところ続けて探偵物を書いているんですよ。

佐藤 私は江戸川乱歩から始まり、灰谷健次郎を読んで、そこからムーミン、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』。今は子育て中なのでなかなか量のある文章を読む時間がとれなくて残念なんです。子どもと一緒に、絵本ならよく読んでいるんですけど、長いものだとまだちょっと難しいんですよね。

にしがき 私は小学校5年生のころに病気になりまして、3年間ぐらい絶対安静と食事制限がありました。本しか読めなかったような子ども時代を過ごしたのですが、その時に読んでいたのがシャーロック・ホームズやルパンなんです。夜の病院は怖いんですよ。一人で読んでいると非常に怖いんです。なので、夜はずっと起きていて本を読んで、昼間は寝るという昼夜逆転の生活をしていました。他には『秘密の花園』が好きでした。登場人物に病気の子がいて、その子が健康になっていくという過程が自分と重なるところがありました。希望が持てるような話が心底好きですね。

学びの場.com 作家になる自分を小学校のときに想像したりしていましたか?

一同 全然(笑)

本の好きな子どもに育つために大人ができること

本が周りに自然にあり、大人が読書を楽しんでいる姿を見せる

学びの場.com 皆さんは自然と本が好きになったようですが、どうしたら本が好きになるのでしょうか。

田部 私は子育てをするとき、本好きな子に育てたくて毎晩読み聞かせをしていたんですけど、本好きな子には育たなかったんです。

佐藤 私の今の努力を否定しないでくれるかな(笑)
※編集注:子育て中の佐藤さんはお子さんと一緒に絵本をよく読んでいる

田部 本には心を育てる力があるから、それはそれできっと意味はあるんだよ。絵本を読んでもらうことは好きでも、そこから自分で読むことに移行するのはなかなか違うのかな。ハリー・ポッターの小説が出たころ、あれだけの厚い本をうちの子が寝る前に自分で読み始めたんですね。すごく魅力的だったみたいで、あんなに厚い本を自分で読むとは思わなかったのでびっくりしました。

濱野 読めと言われても読みたくない、その気持ち分かります。読書感想文もあまり好きじゃありません。作家には、読書感想文が苦手だった人が多いよね。(一同、うなづく) 
とある有名な編集者さんがね、自宅で読書をしているときに、子どもに「これはお母さんの本だから絶対に読むな」って言って、本を置いておくんですって。子どもってそれぐらいの方が興味持つのかなと思いますね。

田部 「これは面白いけどあなたのものじゃないわよ」って言うぐらいの方が子どもの好奇心に火がつくのかもね。
子どもがどこに興味を持つかは読んでみないと分からないもの。「こんなにいい本なのに」と思っても、好き嫌いはあります。動物の本が好きな子もいるし、子どもたちが自分で選んだ本の中から心に残るものを拾ってくるんでしょう。それに飽き足らなくなったらちょっと違うジャンルに手を出すかもしれない。手に届く環境のなかに本があって、大人が読書を楽しんでいる姿を見せるのがいいのかなとは思います。

にしがき 学校図書館で司書をしてくださっている方々への感謝も忘れてはいけないですね。

田部 自分の好きなジャンルや選びそうな範囲ではないところからぱっと紹介されたりすると、そういうものもあったのかって思って読んでみることがありますよね。

「いつかは自分の居場所が見つかる」という希望を伝えたい

にしがきさんの宝物: 鹿児島市が設立した椋鳩十児童文学賞の受賞をキッカケに講演した小・中学校の子どもたちが送ってくれた感想文。「途中から涙で読めなくなってしまうくらいうれしかった」と当時の想い出を振り返る。

学びの場.com 作品への想いや子どもたちのメッセージを伺えればと思います。

濱野 『ビブリオバトルへ、ようこそ!』や、今回の作品『夏休みに、ぼくが図書館で見つけたもの』( あかね書房)などは居場所としての図書館を意識しています。学校に行けないとか、経済的な事情があるとか色々な子どもがいると思うんです。そういう子どもたち同士のつながりや本を読む楽しさを伝えたいなと思っています。

学びの場.com 今は毎日学校に行かなくても卒業できる通信制高校もありますね。家庭の在り方も多様化しているなかで、学校の役割自体が問われている時代なのかなと感じるところがあります。

にしがき 私は学校にほとんど通えなかったので学校に居場所がありませんでした。また、転勤族だったので引っ越しが多く、小中高と全部違う場所、違う学校で、お友達というものが一人もいなかったんです。今、学校に行けない子どもたちもつらいと思います。でも、「それでも大丈夫だよ」と伝えたいです。学校だけが生きる場所ではない、外の世界にも目を向けて、飛び込んでごらんと背中を押してあげたい、大丈夫だよって。
「自分の居場所がいつか見つかる」そういう希望みたいなものを伝えられるといいなと思っています。私が大丈夫だったんだから、みんなも大丈夫だよって。

佐藤 私の著作『初恋日和』は小学校の時の思い出をもとに書いているものなんです。今思うとあの時、自分の気持ちを伝えたり、傷ついたりしても良かったのかなという思いから書いています。自分と違う人と向き合って、自分の気持ちを伝えるってすごく素敵なことだと思っています。ダメだったとしても、後から「いい経験になったな」って思えるように、自分の気持ちを肯定してほしいです。

佐藤さんの一品。初めて自分の作品を出版した際のお祝いの場で、創作教室の講師でもあった尊敬する作家さんからもらったコーヒーカップ。

学びの場.com 人に気持ちを伝える勇気を持つことで成長する、ということはすごくある気がしますね。『初恋日和』でも主人公の成長を描いていらっしゃいますよね。

佐藤 自分よりも大切だなと思える人と出会えたときに、正直に気持ちを伝える勇気を出せると世界は変わるっていうことを体感してほしいです。背中をポンと押す感じ、にしがきさんと同じです。

田部 私は児童文庫という子どもたちがお小遣いで買えるというコンセプトの本を書いています。なので子どもたちが気軽に手に取れるような、とにかく楽しくてワクワクするものを届けられるように心掛けています。好奇心を刺激するような物語の中から、いろいろな情報をキャッチしてもらって、本人の興味関心につながっていくといいなって思います。

学びの場.com 児童文庫ならではのやりがいもあるわけですね。

田部 読者が「早く発売されるのを楽しみにしています」「すごく面白かったです」と感想を書いてくれるんです。一番うれしいのは「この本を読んで読書の楽しさを知りました」とメッセージをもらうとき。それを見ると「書いていてよかった」と心から思いますね。いろいろなものを背負った子どもたちや、悩みを抱えている子どもも、本を読んでいる時間は「面白い!楽しい!こんな世界もあるんだ」と楽しんでほしい、それをなんとか提供したいなと思っています。

プロフィール

佐藤 佳代(さとう かよ)

北海道生まれ。
2006年、「ご近所の神さま」で福島正実記念SF童話賞に入選。
2008年、『オリガ学園 仕組まれた愛校歌』(金の星社)でデビュー。
著書に、『魂(マブイ)』(金の星社)、『初恋日和』(岩崎書店)など。

田部 智子(たべ ともこ)

東京生まれ。
2007年『パパとミッポの星の3号室』(岩崎書店)でデビュー。
著書に『パパとミッポ』1~3、『とびだせ!そら組』1~2(以上岩崎書店)、『ユウレイ通り商店街』1~5(福音館書店)、『手のひらにザクロ―秘密のささやきがきこえたら』(くもん出版)。『ハジメテノオト』(初音ミクポケット・ポプラ社)、『幽霊探偵ハル』1~4、『エジソン』(以上角川つばさ文庫)、アンソロジー等多数。

にしがき ようこ

名古屋市生まれ。
2010年『ピアチェーレ 風の歌声』(小峰書店)でデビューし、第8回児童文学者協会・長編児童文学新人賞、第21回椋鳩十児童文学賞受賞。2013年『おれのミューズ!』(小学館)、『ねむの花がさいたよ』(小峰書店)、2015年『川床にえくぼが三つ』で、第65回小学館児童出版文化賞受賞、2018年「ぼくたちのP(パラダイス)」(小学館)など」。

濱野 京子(はまの きょうこ)

熊本県生まれ。
2006年、『天下無敵のお嬢さま!① けやき御殿のメリーさん』(童心社・シリーズ全4巻)でデビュー。
『フュージョン』(講談社)でJBBY賞を、『トーキョー・クロスロード』(ポプラ社)で坪田譲治文学賞を受賞。その他の作品に、『アカシア書店営業中!』『ビブリオバトルへ、ようこそ!』(以上あかね書房)、『くりぃむパン』(くもん出版)、『バンドガール!』(偕成社)、『この川のむこうに君がいる』(理論社)など。日本児童文学者協会理事。

記者の目

取材をきっかけに久しぶりに児童文学作品を手に取り、読みふけるというぜいたくな時間を過ごすことができた。児童文学の世界にも、スマートフォンやクラウドファンディングなどが登場し、世相や子どもの興味に合わせて内容も進化しているが、新しい環境や試練の中で成長する子どもたちの姿の美しさは不変だ。友情や命の大切さといった抽象的なテーマも、親しみやすく、自然と心に染み込む物語となる。素敵な物語や本との出会いは、人生を生き抜くうえでの糧となるはずだ。その物語を生み出している作家さんたちの実像にも想像を巡らせて読んでもらいたい、4名の作家さんたちには、そう願わずにいられない魅力があった。

構成・文・写真:学びの場.com編集部

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