2024.04.12
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『Oh, The Places You'll Go』アメリカ絵本の世界 Dr. Suess

2年前、教育つれづれ日誌でアメリカの学校の様子を紹介していました。こちらの学校では転任制度がないので現学校に赴任して15年目になります。日本人の私にとってはこちらの学校生活は何年経っても毎日驚きと気づきがあり、こちらでまた皆さんに少しでも多く共有できたらと思います。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます宜しくお願いいたします。

復帰第一弾はアメリカの学校の読書文化やその背景について紹介。読書を司る上で幼い頃に読んだ絵本との出会いは多大な影響を与えその後の人生を左右します。私が幼い頃読んだ忘れられない絵本と言えば「ぐりとぐら」「三びきのやぎのがらがらどん」「ぐるんぱのようちえん」「はらぺこあおむし」など。子どもたちが新しい世界や概念に触れることができ、想像力や創造性を育むことができる絵本には、様々な価値観や倫理観が盛り込まれていることがあり、それらを通じて子どもたちが社会的なスキルを学ぶこともできます。

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃

ドクター・スース

職員のキャラクターコスチュームはこんな感じ!

アメリカの絵本の世界で何十年もの間、奇抜で想像力豊かなストーリーでアメリカ国民を楽しませてくれている才能豊かな作家の一人が、ドクター・スースです。アメリカの児童文学作家であるセオドア・スース・ガイゼルはスース博士というペンネームでよく知られています。
アメリカの子どもたちでスース博士を知らない子はいません。有名な絵本は『The Cat in the Hat』『Fox in Socks』や『How The Grinch Stole Christmas』など、何と60冊以上の本を書いています。そのスース博士の誕生月でもある3月は読書プロモーションを行う学校が多くあり、Read Across America「アメリカを読む月」としても知られています。

私たちの学校でも毎年3月に読書週間プロモーションイベントが行われます。

その一週間のイベントスケジュールは

月曜日:パジャマデイ(着心地の良いパジャマを着て、寝転がって読書しよう!)
火曜日:チームスポーツウェア(大好きなスポーツチームのユニフォームを着て盛り上がろう!)
水曜日:クレイジーハット&ソックスデイ(クレイジーな帽子や靴下を履いて学校に行こう!)
木曜日:ストーリーブックキャラクターデイ(好きな絵本のキャラクターに扮して登校しよう!)

となりました。

最終日は生バンドが登場し、子どもたちは各々好きな絵本のキャラクターに扮してパレードに参加します。この一週間はスース博士の絵本に出てくるキャラクターに扮した児童が多く登校しました。

今年の学校職員の新しい取り組みとして、一週間交代で読み聞かせを録画しました。それらを子どもたちの寝る時間に合わせて放送し、子どもたちはベットに入りその読み聞かせ中継を楽しむことが行われました。私は「ねずみの嫁入り」を日本語の紙芝居で紹介しました。Ebookの普及もあり、どのEbookが一番面白かったか投票する取り組みバトルEBookも行われました。

アメリカ国民がスース博士の本を愛する理由は数え切れないほどありますが主な3点を紹介します。

その1:韻と繰り返し

スース博士の本は韻を踏んでいます。
ですから読み始めると子供たちが次のページに出てくる単語を予想することができ、内容が入りやすくなります。
また、頻度の高い単語を上手く繰り返し使うセリフのおかげで、子どもたちは楽しんで様々な単語の意味を理解し使いこなすことができます。
まさにスース博士の絵本がアメリカの読書入門書!になる訳です。

その2:舌を使うタングツイスター

スース博士の絵本で使われる音やアクセント、フレーズは、よく舌を動かし、幼児言語能力の発達を促すと言われています。
これらの発達現象は他本ではあまり見られないかもしれません。
そしてスース博士の想像するキャラクターはとてもユニークで辞書には載っていない独特の語句を話し、異なる音や単語を組み合わせて話す能力を試す、まるでタングツイスターや舌のトレーニングのようなものです。
これは、コミュニケーションの練習になり、彼が創作した言語の中には私たち大人が意味もわからず発音できないユニークな単語もあります。
中でも『Fox in Socks』はタングツイスターの要素が数多く含まれています。

その3:素晴らしいメッセージ

スース博士がアメリカ国民に愛される最大の理由はその多くの絵本がもたらす未来あるメッセージです。多くの絵本が生きていく上で大切なライフレッスン、貴重な教訓を説いており、子供たちの心に残ります。そして大人になってもそのメッセージを覚えている人達が多いです。中でも私が大好きなのメッセージの絵本は『Oh, The Places You'll Go』でこのような内容です。「​​​​自分の道を歩き始める君へ、調子が良くて上へ上へと飛べることもあれば、突然止まってしまったり、道に迷ったりすることもあるでしょう。それでも君はきっと明るい道に進めるはずです!」

アメリカの子どもたちは皆スース博士が大好きです。老若男女を問わず多くのアメリカ国民を魅了し読書好きにしたスース博士の絵本は幼児言語能力の発達にも大きく貢献しました。彼の絵本達はリズミカルで韻を踏んだ文や、視覚的な表現を通じて、子どもたちは言葉の理解や表現力を高めることができます。絵本を読むことで、子どもたちは物語の構造や流れを理解する力も養われます。アメリカでの絵本文化は、子どもたちの世界観や価値観を形成する上で重要な役割を果たすだけでなく、親子や教育者と子どもたちとのコミュニケーションを豊かにする手段としても活用されています。

次回は図書館のアメリカ人教師にインタビューし、お勧めのアメリカ児童書を紹介します。

下條 綾乃(しもじょう あやの)

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。

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