教育トレンド

教育インタビュー

2017.03.15
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なかや みわ 絵本と食育を語る。

子どもの「おいしそう」「食べてみたい」につながる絵本を描きたい。

なかやみわ氏は「そらまめくん」シリーズ等、魅力あふれるキャラクターと心温まるお話で多くの子ども達や教師から大人気の絵本作家。以前、学びの場.comの連載「食育と授業」で紹介した授業「まめのベッドを見てみよう」では、なかや氏の『そらまめくんのベッド』(福音館書店)を教材にしている。この授業を見てもわかるように、その作品には学びの要素がぎっしり! そんな作品の数々を生み出すなかや氏に、絵本に込めた思いや、創作エピソード、食育をはじめとする絵本の教育効果などを語っていただいた。

子どもが野菜に興味を持てるよう、おいしそうに描く

学びの場.com「そらまめくん」シリーズ、「やさいのがっこう」シリーズと、野菜のキャラクターが登場する作品を描かれています。野菜を題材に選ばれたのはなぜですか?

なかやみわ1997年にデビュー作『そらまめくんのベッド』(福音館書店)を作った時は、身近なものを題材にしたいとは考えていたものの、特に野菜を意識していたわけではありませんでした。ただ、両親の趣味が家庭菜園だったので、野菜はいつも身近にある存在でした。 私は以前、キャラクター商品を企画・制作する企業でデザイナーをしていました。当時も豆のキャラクターを提案したことがあったので、もともと豆のフォルムが好きだったことはあります。ただ、キャラクターデザインの仕事はどうしても短いサイクルで消費される商品を作る傾向にあります。それよりも、長く愛される作品を生み出したいと思うようになり、絵本作家を志したのです。 そこで、まずはキャラクターを作り、そこからお話を展開しようと考え、誕生したのが「そらまめくん」。空豆を選んだのは、豆の中でも特にコロンとした形がかわいらしく、絵になると感じたからです。 お話は、母に頼まれて空豆のさやむきを手伝ったことがきっかけで生まれました。実は、その時まで空豆のさやをむいたことはなく、「こんなに大きなさやの、ふわふわの綿の中に豆が収まっているんだ!」とびっくり。そこから「そらまめくんの宝物はさやのベッド」というアイデアが浮かんだのです。

学びの場.com食育授業「まめのベッドを見てみよう」では、子ども達が実際に空豆のさやを開いてみて、「絵本と同じだ!」と感動の声を上げていました。

なかや みわ当初は自分の絵本がそのような体験に結びついていくとは想像もしていなかったのですが、読者の皆様から「子どもに空豆を買ってほしいとせがまれた」「子どもが苦手だった豆を食べるようになった」「幼稚園の庭で空豆を栽培した」といったお便りや報告をたくさんいただき、絵本が子どもに与える影響力の大きさを実感しました。

学びの場.com『やさいのがっこう とまとちゃんのたびだち』(白泉社)をはじめとする「やさいのがっこう」シリーズも、子どもが楽しみながら野菜に親しめる内容になっています。

なかや みわ時が流れて私も人の親になり、食育というものが身近になったこともあって、このシリーズでは意識的に野菜を取り上げました。「とまとちゃん」達、「やさいのがっこう」の仲間がおいしい野菜になるために頑張る姿を描いています。読み手の子ども達が、野菜に興味を持ったり、苦手な野菜を好きになったりするきっかけになるよう、野菜はきれいな色でイキイキとおいしそうに描くことを大切にしています。

実在するものや状況を描くことで共感が生まれる

学びの場.com『そらまめくんのあたらしいベッド』(小学館)に登場する綿花など、作中の野菜や草花はとてもリアルに描かれています。毎回、実際に育てたり調べたりしてから制作に入るそうですが、それはなぜですか?

なかや みわ実在するものや状況を描くことで創作の世界にリアリティが生まれ、子ども達がお話の中にグッと入っていけると思うからです。子ども達は絵本を読む時、絵の細部までしっかりと見ます。「そらまめくん」シリーズであれば、そらまめくんの暮らしている野原にどんな草花が生えていて、季節はいつなのか、といったことまで描くことによって、子ども達が「いつもの原っぱにもそらまめくんがいるかな?」と思ってくれるかもしれません。ですから、できるだけ本物の描写を心がけています。

学びの場.com『やさいのがっこう とまとちゃんのたびだち』では、主人公のとまとちゃん、お友達の「みょうがちゃん」や「クレソンくん」など、それぞれの野菜の特性がキャラクターの個性として描かれています。

なかや みわ太陽が大好きなトマトは外に向かって行く積極的な子、たっぷりの水を必要とするクレソンはちょっと引っ込み思案なタイプ、というように、まず野菜について調べ、その特徴からイメージする性格を考えていきました。 とまとちゃん達のように、子どもは集団の中で色々な子と触れ合いながら人間関係を学んでいくものです。幼い頃は思ったことをそのまま言葉や態度に表して、お友達を傷つけてしまうこともあるけれど、それによって相手を思いやる気持ちの大切さを知り、成長していきます。主な読者である幼児期の子ども達が自分に置き換えて共感できるよう、主人公やお友達のキャラクターは同年代の子どもをイメージし、実際の生活とリンクするようなお話を考えています。

学びの場.com野菜のことだけでなく、多様な仲間との関係性についても学べるように考えられているのですね。

なかや みわ共に過ごす仲間との関係は、子どもの幸せに大きく関わると思います。いつも皆で仲良く楽しくできれば言うことはありませんが、なかなかそうはいかないのが現実です。そんな人間関係の悩みを克服するヒントになるような絵本を描いて、子ども達の背中を押してあげられれば、と思っています。 例えば『くれよんのくろくん』(童心社)では、仲間はずれになってしまった「くろくん」が「シャープペンのお兄さん」のアドバイスによって、皆の輪の中に入ることができました。私も幼い頃に経験しましたが、子ども同士ではなかなか解決できない問題も、年長の子や周りの大人のちょっとした手助けによってクリアできたりします。これは子どもだけでなく、読み聞かせをする大人の方にも感じ取っていただけると嬉しいです。

人生の節目に読み返したくなるような絵本を

学びの場.comなかやさんの作品にはシリーズ化されているものも多いですが、長く愛される絵本を作るために、どんなことを心がけておられますか?

なかや みわ新しいものを求める子ども達の期待に応えられるよう、同じシリーズの絵本であっても少し異なる要素を入れて、変化をつけるようにしています。例えば、今年の5月27日に発売される「そらまめくん」シリーズの最新刊 『そらまめくんの はらっぱあそび なつのいちにち』(小学館)には、フィールドワークに使える要素を盛り込みました。絵本として読むだけでなく、お話に登場する遊びを実際に野原で楽しむこともできる内容になっています。

学びの場.com「そらまめくん」シリーズが誕生して今年で20年ですから、最初の読者だった子ども達は、もうすっかり大人になっていますね。

なかや みわ中にはすでにお子さんがいらっしゃる方もいて、「大好きだったそらまめくんの絵本を子どもに読んで聞かせています」というお便りをいただいくこともあり、嬉しい気持ちでいっぱいです。長く読み継がれる作品を目指してやってきたので、まずは一世代越えた、という達成感を覚えました。 大人になってから絵本を読み返すと、子どもの頃とは違った側面が見えてくるものです。親になってから読めば、また異なる感覚があるでしょう。同じ作品でも人生の節目、節目で感じ方が違うので、できれば気に入った絵本は手元に置いて、折に触れて読み返したり、自分の子どもに読み聞かせたりしてほしいと思います。

食へのポジティブなイメージを大切にしたい

学びの場.com食育について、子育てを経験して感じたことや、大切にしていることなどをお聞かせください。

なかや みわ息子は野菜があまり好きではないのですが、私は楽しく食事をすることを第一に考えているので、食べたくないものを無理に食べさせることには抵抗を感じます。もちろん、子どもに栄養バランスの良い食事をさせることや、食べ物の大切さを教えることは大切ですが、「給食を完食するまで遊んではいけない」などと言われると、食事の時間がストレスになってしまう子もいるでしょう。成長するにつれ食べられるものも増えていくはずですから、私はよほどの偏食でなければ、気長に構えていてよいのでは、と考えています。 ただ、周りには食育に悩んでいる親御さんが多く、特に初めての子どもの場合は「ちゃんとやらなくちゃ」とプレッシャーに押しつぶされそうになっている方も少なくありません。そんな方には、絵本を使って子どもが食に興味を持てるよう誘導していただければと思います。「そらまめくん」や「やさいのがっこう」シリーズでもいいですし、「こぐまのくうぴい」シリーズの『ぱくぱく くうぴい』(三起商行)は食べ物の好き嫌いがテーマの絵本です。子どもは絵本の登場人物の真似をするのが好きですから、読み聞かせをして「くうぴいちゃんも食べているよ」と声かけをしてみるとよいかもしれません。それによってお母さんの心の負担も軽くなり、子どもにも優しく接することができるのではないでしょうか。

学びの場.com最後に、食育に取り組む先生方にメッセージを。

なかや みわ子ども達にとって楽しいはずの食事の時間がネガティブなものになってしまわないよう、厳しく指導するばかりでなく、時には臨機応変に対応することも必要なのでは、と感じます。『やさいのがっこう』を読んだ後にみんなでスーパーへ行って「お話に出てくる野菜は並んでいるかな?」と探してみたり、「入り口に野菜売り場があるのはどうしてだと思う?」と話し合ってみたりするだけでも、野菜に対する興味が生まれ、子ども達は自然と食に前向きになれると思います。心に根付いた食へのポジティブなイメージは、きっとその子の子どもへと受け継がれていくはずです。そのお手伝いができるなら、絵本作家としてこんなに嬉しいことはありません。ぜひ活用していただければと思います。

なかや みわ

1971年、埼玉県生まれ。女子美術短期大学造形科グラフィックデザイン教室卒業後、企業のキャラクターデザイナーを経て絵本作家に。著書に「そらまめくん」シリーズ(福音館書店・小学館)、「ばすくん」シリーズ(小学館)、「くれよんのくろくん」シリーズ(童心社)、「どんぐりむら」シリーズ(学研)、「こぐまのくうぴい」シリーズ(三起商行)、「やさいのがっこう」シリーズ(白泉社)など多数。

インタビュー・文:吉田秀道、吉田教子/写真:言美 歩

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