読書感想文から考える読書の在り方
子どもたちが楽しみにしている夏休みが目前になりました。夏休みの宿題として、読書感想文を提示している学校も多いでしょう。この時期の書店に行くと、読書感想文に関する書籍がたくさん並べられています。読書感想文から改めて子どもたちの読書について考えてみたいと思います。
浦安市立美浜北小学校 教諭 齋藤 大樹
パターン化された読書感想文
これまで夏休みの宿題に読書感想文を出してきましたが、最近の子どもたちの作文を見ると、考えが整理された読みやすい文章が増えた気がします。一方で、どこかパターン化された文章も多く見られるようになったように感じています。例えば、あらすじをさっとまとめた後、自分自身の経験と結びつけていく文章などです。読書の感想というよりも、自分の体験にどうやってつなげるかに主眼が置かれているような作文が多くなっています。
毎年、市内の読書感想文の選考にも参加していますが、こちらでもある意味きれいにまとまっている文章が多くなっている印象を受けます。もちろん、これは私が読んだ文章だけですから、全国的にそうだと決めつけることはできませんが、共感して頂ける方もいるのではないでしょうか。
書店に行くと、「読書感想文の書き方」と銘打たれた本が数多く並んでいます。以前からこうした読書感想文のハウツー本は多く出版されていましたが、最近ではインターネットで読書感想文の書き方を調べたという児童が増えているのかもしれません。
インターネットで書き方を調べて見ると、「先生が感心する書き方は…」などと書かれているウェブサイトもありました。ハウツー本やウェブサイトで書き方を学んだ子どもたちは、読み手である教師や審査員を意識しながら効率的に感想文を書く技術を学んでいるのでしょう。
読書感想文が目的化する
ハウツー本には、様々な技術が記されています。読書をしている最中から主人公の気持ちや行動に共感した場所に付箋を貼ったり、思考ツールで読後の感想をまとめたりする技術などが有名です。思わず「なるほど」と感心するような技術が多く、すぐに作文指導に活用できるようなものばかりです。
ところで、こうして夏休みに読書感想文に取り組んだ子どもたちは、読書感想文を書くこと自体を楽しんでいるのでしょうか。もちろん、こうした効率重視の書き方を否定するつもりはありませんが、私自身も自分の息子が読書をしているときに、ついつい「この本のあらすじは?」や「何を作者は言いたかったの?」と聞いてしまうことがあります。こうした質問を繰り返すうちに、息子はすぐに感想を言うことができるようにはなりました。
一方で、なんとなく作り話というか、芝居っぽさを感じることが多くなりました。恐らく読書をしている最中から、親にどう説明するのか考えるようになってしまったのでしょう。「急がば回れ」という自分自身の親としての後悔から、あまり読書感想文を書くことを目的化しすぎるのも考えものだと感じます。
銀の匙を使った3年間の国語指導
「伝説の国語教師」と呼ばれた橋本武先生。兵庫県の灘中学校で、1950年頃から3年間かけて同じ本を教材として授業に取り組んでおられました。中勘助著の「銀の匙」を用いて、時には本文から脱線しながらも深く読み込んでいくことを継続し、教え子たちには多くの著名人がいます。私が教師に成り立ての頃、とあるテレビ番組に出演されていた橋本先生は、90代後半にも関わらず、芸能人相手に魅力的な授業をされていました。
実際の指導方法に関しては、数多くの著書が出ていますのでそちらを参考にして頂ければと思いますが、こうした橋本武先生の実践を振り返ると、感想文を書くことや効率的に素早く文章の要旨を読み取ることばかりに注力し過ぎてはならないなと感じます。スローリーディングと呼ばれるそうですが、図書をじっくりと読み込むことで様々な資質・能力を養うことができるのでしょう。
読書感想文を読書に親しむきっかけに
今回の記事では、夏休みに課題に出す方が多いであろう読書感想文をフォーカスしました。夏休みという時間があるときだからこそ、一つの図書にじっくりと向き合ってもらい、成長につながる読書感想文にしてあげたいものです。

齋藤 大樹(さいとう ひろき)
浦安市立美浜北小学校 教諭
一人一台PC時代に対応するべくプログラミング教育を進めており、市内向けのプログラミング教育推進委員を務めていました。
現在は小規模校において単学級の担任をしており、小規模校だからこそできる実践を積み重ねています。
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